2012年にリリースしたファースト・アルバム『Metz』がPitchforkNMEといった有力メディアから絶賛されたことで、トロントの3人組、メッツはにわかにロック・シーンの寵児として話題を集めるようになった。ちょうどその頃、英米でグランジオルタナのリヴァイヴァル・ブームが盛り上がりはじめていたことを思えば、「俺たち全員、サブ・ポップの初期作品を聴きながら育ったんだ」(アレックス・エドキンス:以下同)と語り、実際にかつてのサブ・ポップの特徴である、荒々しくて歪んだロック・サウンドを見事に継承してみせた彼らが注目されることとなったのは、当然、いや、必然だったのかもしれない。しかし、当事者にしてみれば、まさかここまで……というちょっとした戸惑いもあったようだ。

「音楽は自分にとって夢。普段考えることと言えば、音楽のことばかりだったよ。だからバンドを始めたんだ。音楽は自分を突き動かすものだった。俺にとってバンドは、ただそれだけのもの。それがよくわからない理由で大勢の人に聴かれ、受け入れられたことで、バンドに新たな意味が生まれた。期待とプレッシャー、現実と理想――それらがふいに現れ、俺たちを変えようとしたんだよ」。

 メッツが結成されたのは2008年。すでに30歳目前だったメンバーは、グループの将来にどれだけ希望を持っていたか。ひょっとしたらサブ・ポップと契約できただけで十分に満足していたのかもしれない。それにもかかわらず、〈90年代リヴァイヴァル人気の決定打!〉〈デイヴ・グロール、気をつけたほうがいいぜ!〉などというキャッチと共に、突然自分たちの予想を遥かに上回る期待をかけられたのだ。

「今回のアルバムを作る時、俺たちにとって重要だったのは、そのプレッシャーに負けないことだった」。

 そう、メッツというバンドの本質が問われるセカンド・アルバム。しかし、拍子抜けするほどシンプルに『II』と題されたこの新作を聴く限り、彼らは依然として自分たちを突き動かすものに忠実でいようとした様子だ。バリトン・ギター、テープのループ、ピアノやシンセも使い、曲調の幅を広げる一方、メンバーがめざしたのは「クリーンで客観的だった前作に対し、もっとヘヴィーで、ダークで、いい加減なもの」だったという。

METZ II Sub Pop/TRAFFIC(2015)

 『II』は世界的な大ブレイクを期待されるバンドが作ったアルバムとは思えないほど、良い意味でドロドロとした仕上がりだ。が、それは多くの人が前作から感じたグランジの要素だけでは語りきれない、つまりディスチャージを筆頭とする80年代のハードコアスラッジコアや、さらにP.I.L.など70年代のポスト・パンクからも強い影響を受けてきた彼らの個性が、より露になった結果だろう。

「俺たちはノイズやフィードバックに関して、とても真剣に捉えている。音楽に正しいとか、間違っているとかあるわけない。これがまさしくメッツなんだ。自分たちのサウンドを小奇麗にしようとも、ビッグなプロデューサーを雇おうとも、ラジオ向けの曲を書こうとも思わない。俺たちは見たものすべてに正直で、欠点なんかも隠すことなくそのままにしている。それが今回のアルバムで表現できて凄くハッピーだよ」。

 メンバーの嗜好を前作以上に押し出し、自分たちなりにしっかりと進化の形を提示したメッツ。当人が望むか、望まないかは別として、この『II』を引っ提げ、3人がグランジ/オルタナ・リヴァイヴァルの〈その次〉のムーヴメントをリードする存在になりそうな気がしてならない。

 

METZ
アレックス・エドキンス(ヴォーカル/ギター)、クリス・スロアック(ベース)、ヘイデン・メイシズ(ドラムス)から成る3人組のロック・バンド。2008年にカナダはトロントで結成。2009年にウィー・アー・ビジー・ボディーズよりファースト・シングル『Soft Whiteout/Lump Sums』を発表する。その後も7インチ・リリースを重ね、2012年にサブ・ポップから『Metz』でアルバム・デビュー。同作がThe New York Times紙やPichforkなどの年間ベストに選ばれて話題を集める。2013年には〈Polaris Music Prize〉にノミネート。〈コーチェラ〉や〈SXSW〉など大型フェスへの参加を経て、4月29日に日本先行でセカンド・アルバム『II』(Sub Pop/TRAFFIC)をリリース。