インタビュー

【その男、濱口祐自】特別編 本人が語る、気迫に満ちた演奏とエネルギー溢れる新アルバム『濱口祐自 ゴーイング・ホーム』

「孤独になって、自分の世界に浸り切って、わが身を削るようにして弾かなあかん」

【その男、濱口祐自】特別編 本人が語る、気迫に満ちた演奏とエネルギー溢れる新アルバム『濱口祐自 ゴーイング・ホーム』

*『濱口祐自 ゴーイング・ホーム』のロング・ライナーノーツはこちらから

のっけに言ってしまうと、『濱口祐自 ゴーイング・ホーム』という表題を考えたのは、本作のサウンド・プロデューサー、久保田麻琴である。仮で付けられていたタイトルは〈Return To KatsuUra〉。〈勝浦より愛をこめて〉〈勝浦慕情〉〈勝浦の夜〉……勝手にひとりでいろいろなタイトル案を練っていたけれど、今度はたぶん〈カルメン故郷に帰る〉のような類いの題名が似合うような作品になる気がする。そんな考えがぼんやりと浮かび始めたのは2014年の夏ぐらいのことだった。あれから早や1年。来たと思ったらもうお帰りなのか?と驚かれる方も多かろうが、別にこれが最終回というわけでもないし、物語が大きな展開を迎える様子もない。そもそも勝浦の良さを地元の人たちに伝えるために彼は外の世界をめざしたようなところもあったわけで、たくさんの土産話を鞄に詰め込んで地元行きの汽車に乗り込んだいまの濱口祐自は実に晴れ晴れとした表情をしているように見える。とにかく2作目の制作に不安を抱いていた人間にとっちゃ、これほど前向きな姿勢とエネルギーに溢れた作品が出来たことが奇跡だと思わずにいられないのだ。でもまぁ〈Return To KatsuUra〉とは、いささかストレートすぎるといまとなっては思う。新たに付けられたタイトルの甘く香ばしい郷愁感がアルバムを魅力的に引き立てているし。

濱口祐自 濱口祐自 ゴーイング・ホーム Columbia(2015)

「最初に聞いたときはおもしろいと思ったよ。〈Return To KatsuUra〉でもよかったんやけど、ま、あんまり勝浦、勝浦言うのもなんやし、これで良かったかもしれんね。この1年、いろんな場所で名前をだいぶ喋ったもん。ピーター(・バラカン)さんにも何回も言うてもらったし。全国的に宣伝することができたと思うんやけどのう。もうええやろ。でも『ゴーイング・ホーム』にするんやったら、ドヴォルザークも入れたらよかったな。昔弾いとったでな。惜しいことしたわ」

頭のなかで濱口祐自が弾く〈家路〉をどこかに挿入したりして聴いていただきたいこのメジャー2作目。ひょっとしたらメジャーで発表する最後のアルバムになるかもしれないって気持ちが、やり切るんだ!という気合いをもたらしたようで、全体的に気迫に満ちた演奏が多くなっているのが聴きどころだ。

「レコーディングが2日間しかないってことやったし、込み入った構成の曲はできんっていう事情もあったんや。ライヴでレパートリーにしとる曲でも、“Mississippi Blues”みたいなルーツ系やったらパッと弾けるかな、そこそこの演奏は残せるかな、って思ってね。“Great Dream From Heaven”は若いときから弾いとった曲やったし、ラグ系の“Thank You, Mississippi John Hurt”のモチーフは前からあったもの。“Happy Birthday, Mr. Cameraman”も若いときにこんな感じのを弾きよったんよ。“Spring Power”は最近の曲やけどの。〈フロム・カツウラ〉のレコーディングが終わってから作った。勢いに溢れとるけど、かなり落ち込んどるときに出来た曲(笑)。トキエさんの曲(“Arigato, Tokie Robinson”)はだいたいイメージを浮かべながら即興的に弾いたかな。とにかく、すべての基準はまず録音レヴェルに達してる曲であるかどうか、ってことやったね」

【参考音源】作曲者ウィリー・ブラウンの演奏による“Mississippi Blues”

 

本作が、濱口祐自のルーツ音楽探訪的側面の強いものになったのも、この制作状況の影響があったのだとユウジさんは話す。彼の人生において多大な影響を与えたブルースやラグといったアメリカーナ系サウンドとじっくり向き合った作りとなっており、ラウンジーな曲なども含めて雑多なレパートリーを披露した〈フロム・カツウラ〉とはいささか毛色の異なる作品となっている。前作の人気曲“Big City Farewell”のような運指が大変ややこしい曲も少なめで、いたってナチュラルな演奏が多いと言えよう。

「“Mississippi Blues”はちょっとややこしいけど、やっぱ弾きなれとるし、何といってもブルースやからね。あれもイケると思ったんやけど。あ、“Short Time Minor”はちょっとややこしいね」

難曲といえば、デューク・エリントンのカヴァー“Caravan”を忘れちゃいけない。オリジナルの“Welcome Pickin’”とのメドレーは、彼のライヴのオープニング曲として定番中の定番だ。イントロを弾きはじめた途端、表情は一瞬にして引き締まり、スリリングな空気が辺りに振り撒かれていく。このように彼を一気にフルスロットル状態へと持っていかせてしまう名物曲がいよいよ音盤化されたのだ。

「確かにこれは難しい曲やね。やっぱりよう、ライヴに来て良かったってお客さんに思ってもらいたいやん。で、ライヴってアタマの一発目でだいたい決まるやん。こりゃちょっと素人じゃ弾けんな、っていうのを聴いてもらいたいから、いつも1曲目に持ってきとったんやけど。あぁ、金払って観に来てよかった、と思わせる演奏を聴かせられるかと思ってよ。実はこの曲、前作のレコーディングのときにも録音しとった。でも、久保田さんがもう1回やろうということで出さなんだやけどの。今回のヴァージョンは(伊藤)大地くんとせーので合わせて録ることができた。テキ(彼)の顔を観ながらレコーディングできたし、演りやすかったわ」

 

ところで、ライヴで、今日は調子悪いな、気分が乗らんな、と思ったりすることはあるのだろうか?

「ないのう。表現することに関しては、絶対的に自信を持ってやっとるさか。ただ、音で困ることはしょっちゅうあるで。納得のいかん音を作ってくるPAさんがおるときとか、自分の世界が表現できんよってね。ちょっとディレイがかかったような残響がないと、わがのサウンドにならんしの。ディレイのかかり具合がいつも問題なんやよ。弾きやすい、弾きにくいは音次第。腫れもんにさわるように弾かなあかんときは最悪やの。楽しめんし、疲れるわ。よくありがちなのは、PAの人らはヴォリューム上げたがるんやのう。あんまり上げられたら困るんや。音の小ささをカヴァーするのに、スピーカー・システムをサラウンドにするわけやでね。スピーカーは小さくてもええから、とにかく包み込むような音環境を作りたいわけやでのう」

ということは、やはり自分のシステムを使ったライヴじゃないと、濱口祐自的世界はなかなか実現しづらいってことか。

「時間かけて作り上げてきた形やでね、これは。簡単に変えるっていうのは無理な話やで。まぁ、自分自身でもより良い音を出すために日々試行錯誤を繰り返しとるけどの」

濱口祐自の代名詞と言えば、何といってもフィンガー・ピッキング。弦を撫でるように弾くことを心がけたプレイは、時としてすーっと消えゆくような繊細な味を醸す。しかし、ライン録りではなく生録りが敢行された今回のレコーディングにおいては出音があまりに小さくなることもしばしばで、録音を手掛けた久保田麻琴もだいぶ苦労した模様。とにかく濱口祐自がいつも言うのは、部屋で弾いているときのようなサウンドを届けたいということ。本作の後半部分はそういう効果がうまく発揮された曲が並ぶこととなり、まるで脇の谷にある彼の部屋にまぎれ込んだような錯覚をもたらしてくれる。窓の外を見れば、静かに波が揺れる入り江があなたにも見えるかもしれない。とりわけ、懐かしい故郷へと向かう旅が描き出される“Arigato, Tokie Robinson”から歌モノ“しあわせ”へ続く流れは絶品。確かにこのエンディングに〈家路〉が挿み込まれていたとしたら、泣けてしょうがないだろう。

【参考動画】カラヤンの指揮によるドヴォルザーク交響曲第9番〈新世界より〉第2楽章〈家路〉

 

「そやからライヴはどうしても少人数でってことになるわけやね。その部屋の感じの音を出すのにいつも苦労するんや。俺にとってはスピーカーも楽器の一部やと思もとるもん。それを変えると、すべてが変わってしまうんや。またスピーカー買うたよ。オークションで。パイオニアのやつ。90年代の始めごろに出たと思うんやけど、音ええんや。ちょうど1,000円やったわ(笑)。いま使っとるLo-Dは70年代か80年代のやつやもんね。そろそろ引退させよかな」

今回のアルバムは前作よりも哀愁の度合いが強まったのは間違いない。ご自身の実感としてはどうか?

「あるかもしれんのう。ギター弾くときにひとりになれたってことも大きい。前のときは埼玉のスタジオでも、新宮の六角堂でも傍に久保田さんがおったやろ。やっぱり自分の世界に入りにくかったんやね。弾いとるときの表情はあんまり見られたくない」

なるほど。〈夕鶴〉の世界だ。

「孤独になって、自分の世界に浸り切って、わが身を削るようにして弾かなあかん。じゃないと、切なさはなかなか出しにくいわ。なんか照れくさいっていうかよぅ、神経が集中しにくい」

もちろんライヴの時は別なんですよね?

「ライヴは別やのう。聴かせたいという思いが先にあるから。感情込めて弾かなあかんと思うけど、録音はなんかちゃあうね。ひとりのほうがええんちゃあう?」

メロディーのなかに込められている哀愁を最大限に引き出すためには、孤独な方向に追い込んでいかないと駄目だと。

「うん。そやから、レコーディングするときは大袈裟すぎるぐらいの表現方法でちょうどええと思う。作品にするんやったら、溜め込んで溜め込んで弾くような感じでちょうどええような気がするで。『竹林パワーDream』(現タイトル『竹林パワーの夢』)の“妙法の夕ぐれ”なんかも溜め込んであるわ。あんな感じ、ひとりやないと出しにくい。なんかね……」

あぁ、山間にゆっくりと夕陽が沈んでいくのが見えてくるようなあのエンディングのタメ。確かにあれがないと曲が締まらない。今回のアルバムで言うと、“Great Dream From Heaven”のタメも素晴らしく、天国への階段をゆっくりと登っていくような感覚をおぼえるのだ。

「それと、ため込むためには残響音をじっくりと作り込まんとあかんわな。やっぱり作品を作るときはひとりのほうがええやろな。人の意見はあまり聞いたらあかんって気ぃするわ。で、リヴァーヴもあまりに深くなりすぎたらよ、1回止めて1日開けたりするね。残響系はよ、やっとるとどんどん深なっていくからよ。そういうことを説明書にも書いてあったわ」

深いところで迷ってしまうんですね。

「耳も疲れてくるんやろな。で、明くる日に聴き直したら、なんでこんな音作ったんや、と思って破棄して。それの繰り返しやで。残響系にはそういう落とし穴があるよ。それで若い頃は手こずったけどのう。自分の音ができやんってことで。でもいまはライヴの機材もだいぶシンプルにしてあるからよ」

孤独な世界に浸っているときこそ生きている実感が得られると言いたげなブルース・ナンバーたち。広がる闇の深さも魅力的だ。

「で、エフェクターも新しく買うたやつがあるんやけど、封も開けてない。まだダンボールからも出してないんやけどのう。もう2か月近くなるな。〈TC Electronic〉の昔のちょっと高いやつね。もちろんオークションやで(笑)。試すのに時間がかかる。使い方を試すのにも1週間ぐらいかかるやろ。時間がいくらあっても足りへん」

 

 

メジャーでのファースト、セカンドとこれまでのキャリアの集大成といえる作品になったと思うが、これから先はもっと新しい表現に向かいたいという意思はあるのだろか。もっと新しいことを開拓したい、さまざまな実験を行いたい、といった考えはお持ちか?

「いろいろアイデアを試したいし、いろんなレコーディング方法もやってみたい。区切るのもヘンやけど、とにかく今年いっぱいがんばってよ、ちょっと時間作って、自分で録音をしてみたいという気持ちもあるんや」

そこに待っているのは〈フロム・カツウラ〉や〈ゴーイング・ホーム〉、それに『竹林パワーの夢』とも異なる世界かもしれないわけか。

「そうやね。それが見られるのも楽しみやね。もう1枚ぐらいは自分の力だけで作りたいっていう気持ちはあるよ。ジャケット写真から何から自分ひとりで納得して決めたアルバムを」

それにしても、今回もまた絶妙なネーミング・センスに感服いたしました。細野晴臣さんのベースと伊藤大地くんのドラムが入った曲に、“Hangover Shuffle”と付けてしまうとか、あまりにセンス良すぎ。もともとタイトルを考えたりするのは好きだったのか?

「〈しびなわブルース〉ってのもええやろ(勝浦ではマグロ船のことを〈しびなわ〉と呼ぶ)。“せつない香り”ってタイトルを使わせてくれって京都の人に言われたこともあったわ。まだ発表してないけど〈ひとりの雨宿り〉ってタイトルもあるんやけど、これもええやろ? こういうのはふっと浮かんでくるね。〈竹林パワー〉って名前も寝れんときに思いついて、これしかないなと思って」

前から理想としていることだけど、地元の勝浦に全国からファンが集まってくるような環境作りは近いうちに整えていかれる? 

「それをやりたいんや。100人規模ぐらいのライヴがやれたらありがたいのう」

春夏秋冬で1回ずつ、少し大き目の規模のライヴをやるとかいいかもしれない。

「そやね、やってもええね」

さて、メジャー・デビュー以後、1か月に1度は上京するなど頻繁に外に出ることが多くなったわけだが、この1年で勝浦の良さについて気づかされたことも多いはず。地元に向かって走る南紀ワイドビューの車窓から、東紀州に差し掛かって海が見えたときの感動は言葉にしし難いものがある、というのは俺とユウジさんの共通の意見でもある。いま〈ホーム〉について何を思う?

「やっぱり自然がええのう。まぁ、精神的な気楽さがあるんか知らんけどよう、なんかええのう」

このお話の続きはまた今度。

★連載〈その男、濱口祐自〉の記事一覧はこちら

 

PROFILE:濱口祐自


今年12月に還暦を迎える、和歌山は那智勝浦出身のブルースマン。その〈異能のギタリスト〉ぶりを久保田麻琴に発見され、彼のプロデュースによるアルバム『濱口祐自 フロム・カツウラ』で2014年6月にメジャー・デビュー。同年10月に開催されたピーター・バラカンのオーガナイズによるフェス〈LIVE MAGIC!〉や、その翌月に放送されたテレビ朝日「題名のない音楽会」への出演も大きな反響を呼んだ。待望のニュー・アルバム『濱口祐自 ゴーイング・ホーム』が7月22日に到着、10月6日(火)には渋谷WWWで久保田麻琴がライヴ・ミックスを行い共演者として高田漣を招くライヴを開催! 最新情報はオフィシャルサイトにてご確認を。

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