和歌山県那智勝浦の浜風を感じる待望のセカンド
男、濱口祐自の“今”をお届けします!
1955年に和歌山県那智勝浦町の荒々しい漁師町で生まれ、現在もその町に住み続ける濱口祐自は、昨年のメジャー・デビュー作『Yuji Hamaguchi from KatsuUra』で一躍注目を集めたギタリストだ。それまで“知る人ぞ知る”存在として那智勝浦の片隅で静かにギターを奏でてきた彼を取り巻く状況も一変したはずだが、濱口は「まあ、一緒やけどな」と話すと、いつもの勝浦弁で一気に話し始めた。
「なんか知らんけど、ライヴが多くなるとギターがうまくなる。本番は緊張するから、いい訓練になるしね。ライヴの数は多いほうがいい。呑みすぎに気をつけなきゃいけないぐらい(笑)」
前作同様、久保田麻琴がプロデュースとミックスを務めた1年ぶりの新作『Going Home』は、スライドがウナる即興のブルース・セッションからクラシックへの愛着を感じさせるスロウ・ナンバー、そして濱口の代名詞とも言えるフィンガー・ピッキングが炸裂するラグ系~カントリー・ブルースまで、濱口のテクニックを堪能できる内容となった。
「今回は2日間で全部録って。えらかったのお(笑)。こっちも必死やったし、ライヴ録りみたいな感じやったわ。ベストを尽くしたし、これ以上いい演奏はできない。ブルースマンとしての魂を感じられると思う」
また、《Tokyo Summit》など数曲では濱口の才能を認める細野晴臣がベースで参加。ドラムの伊藤大地と共に熱いセッションを繰り広げる。
「細野さんのベースはええの。丸い音で、ウネってる。(伊藤は)レヴォン・ヘルム系のタイプというか、若いけど渋め。引き出し多いちゃうんかな。ギターに関して言うと、《Tokyo Summit》みたいなデルタ・スタイルは多少へばってきてヤケクソに弾いたほうが勢いが出る。うりゃ!うりゃ!とスライドで喧嘩腰でやったほうがいい時もあって」
また、今回のアルバムでは2人の恩人に感謝が捧げられている。ひとりは濱口がかつてアメリカを訪れた際、とても世話になったという日系人、トキエ・ロビンソンに捧げた《Arigato, Tokie Robinson》。そして、濱口も影響を受けたブルースマン、ミシシッピ・ジョン・ハートに捧げた《Thank You, Mississippi John Hurt》。
「フィンガー・スタイルに目覚めさせてくれたのはジョン・ハートやったからね。19歳ぐらいの時に初めて聴いて感動して、いつかこのスタイルをモノにしたい!と思うてね。なかなかできなくて、手こずった。ちくしょう!と焦って」
濱口の心の故郷(ホーム)を描いているのはこの2曲だけではない。濱口が味わい深い歌声を聴かせる本作中唯一の歌モノ曲《しあわせ》では、彼の住む那智勝浦の風景が描写されている。
「僕の部屋から(勝浦の)入り江が見えるんやよ。朝、潮の満ち引きをずっと見ながら、これが幸せってことなのかと思って、それで作った曲。人間でも病気せずに生きていけるということほど幸せなことはないんじゃないかって。自分は情景の歌しかよう作らんしの。恋愛経験がないから君がどうしたこうしたいう曲はなくて……(なぜか照れる)」
濱口の奏でる音と歌からは、那智勝浦の浜風が吹いてくる。その浜風は、港に立ち込めるなんとも言えぬ情感とそこに住む男たちの色気も伝えてくれる。そして、冗談の合間に「ミュージシャンは過去はどうでもいい。今、何をできるか」とふと呟く濱口祐自という男の魅力もここには刻み込まれているのだ。
「ジャズのハンク・ジョーンズは91まで現役でやりよったやろ。あれは素晴らしいし格好ええ。晩年はオマー・ハキムやジョン・パティトゥッチみたいな若手とやってる。そうありたいし、演奏家として常に現役でありたい。自分も音楽にもう(人生を)捧げてしもうたしのお……音楽、やっぱりええわ。いや、音楽と酒か、ちくしょう(笑)」