LA在住の男女デュオ、ホーリーチャイルドが〈FUJI ROCK FESTIVAL '15〉 出演のために初来日を果たした。ファッション・アイコンとしても強烈な個性を放つリズ・ニスティコと、キューバでドラムを学んだシャイなトラックメイカーのルイス・ディラーという性格も好対照な2人が生み出す音楽は、楽曲”Running Behind”がApple WatchのCMソングに起用されるなど話題性もたっぷりだ。
そのサウンドは、デジタル・ネイティヴ世代らしい折衷センスも光る。古のアフリカン・リズムから、ネット・レーベル以降のキッチュなダンス・ミュージックまで横断したサウンドを背に、(ゴージャスなルックスも含めて)ポスト・マドンナ的な花形シンガーが真摯に歌う。これはおもしろい!ということで、Mikikiでも〈フジロック〉出演を直前に控えたタイミングで取材を敢行。アルバム『The Shape Of Brat Pop To Come』を先頃リリースし、〈ブラット(=やんちゃな、駄々っ子の)・ポップ〉という独自ジャンルを標榜する彼女たちから、結成までのプロセスやキューバで学んだこと、PCミュージックからハードコア・パンクに至る影響源まで、興味深い話を聞くことができた。
――はじめまして、音楽サイトのMikikiです。
リズ・ニスティコ「Mikiki! (日本語で)見てください、聴いてください!」
――ずいぶん日本語が達者ですね。
リズ「飛行機のなかで勉強してきたの(笑)」
――日本に来てみてどうですか?
リズ「東京に来ることができて、本当に嬉しく思ってる。カルチャーでいうと、村上隆も尊敬しているし、アニメも好きなの。セーラームーンとか」
――僕もセーラームーン好きです。ところでホーリーチャイルドを聴いたとき、真っ先にPCミュージック(英ロンドンのネット・レーベル)を連想したんですよね。
リズ「PCミュージックのことは大好きだし、私たちもインスパイアされている。コンテンポラリーなダンス・ミュージックについて考えると、まず彼らのことが思い浮かぶし、いま一番エキサイティングな存在だと思う」
――やっぱり。レーベルの誰かと知り合いだったりしますか?
リズ「ハンナ・ダイアモンドとロンドンで遊んだことがあるわよ。ソフィーもLAに引っ越してきたそうだから、共通の友達も何人かいるし、一緒に出掛けたりできたらいいな」
――安室奈美恵という、〈日本のローリン・ヒル〉みたいな歌手がいるんですよ。彼女が最近ソフィーを起用して話題になったんです(参考記事はこちら)。初音ミクってご存知ですか?
リズ「ううん、知らないわ」
※ソフィーがプロデュースした、安室奈美恵“B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU”をその場でかける(試聴はこちら)
リズ「これは……かなりPCミュージック的ね」
――ホーリーチャイルドの音楽性にも、こういうモダンなセンスをたっぷり感じるんですよ。その一方で、トライバルかつトロピカルなリズムは動物的ともいえるし、なにより〈ポップ〉であることを強く意識されている印象です。
ルイス・ディラ―「いまの音楽性には3~4年かけて辿りついたんだ。それまでには40以上の曲を作ったんだけど、そのなかで一番エキサイティングだと思う12曲を選んでアルバムを作った。自分たちもどんな音楽を作るべきなのか、最初はよくわかってなかったんだよね。どんなアーティストもそうだと思うけど、まずは自分の〈voice(声)〉をどうするか模索するよね、それと一緒で、自分たちのスタイルなんかもとっ散らかっていた。僕らの影響源はポップなものばかりでなかったから、最初の頃はいまより複雑なスタイルだったと思う。ただ、親しみやすい要素もありながら、エクスペリメンタルで挑戦的な音楽を作りたいという思いは頭のなかにあった。それがマクロなヴィジョンだったかな。そしてようやく4年かけて、自分たちのしたいスタイルに磨き上げてきたって感じ」
リズ「2人とも、どうしたいかについてはフリーでオープンだったわね。4年前の私なんて音楽を作るのも初めてだったし、何が起こるかまったく見当もつかない状態だった。当初の曲を振り返るとおもしろいわね、ジャズ、ポップス、トライバルな曲もあったり、メロディーもキャッチーで納得できるもの。そのうちの2曲はアルバムにも入っているんだけど(“Best Friends”と“Diamonds On The Rebound”)、とにかくすごくエクスペリメンタルな時期を経てきた、というのはおもしろいわね」
――へえ。
リズ「それでEP(2014年発表の『Mindspeak』)の話になるんだけど、あのときはワシントンDCで7曲のレコーディングをして、それをリリースするつもりでLAに引っ越したの。そのときにあちこちのレーベルからリリースしたいって話が持ち上がったんだけど、どこもリリースには至らなくて。結局こっちもリリースの話を止めてしまって失速していたの。そのあいだに新しい曲を書き始めて、気がつけばそれまでストックしていた曲がもう〈(リリースに)ふさわしくないもの〉になってたから、新規でレコーディングをしてそれをEPとしてリリースした。そのあとアルバム用に曲を書いたりレコーディングをしたんだけど、そのときにようやく自分たちが進化したことを実感できたのよ。自分たちのサウンドを築いたんだな、って」
――アル―ナジョージやピュリティ・リングみたいに、男女デュオという構成が最近流行ってますよね。そもそも2人はどのように出会い、どこに惹かれてユニットを結成することにしたんですか?
ルイス「ワシントンDCの大学で出会ったんだ。モダン・ダンスのクラスで知り合って、そのとき僕はピアノを弾いていて、リズがダンサーだった。それで僕は、リズと好きな音楽のテイストが似ていること、音楽に限らずアート全般に幅広く興味を抱いていることに心底驚いたし、人生に対する見方や彼女の世界観に大いに共感したんだ。(指を鳴らして)創作面におけるソウルメイトを見つけたと思ったよ。言い過ぎかな?(笑)」
リズ「(ルイスの顔をずっと見つめながら)うふふ(笑)」
ルイス「でも本当に驚いたんだよ。実は、一番最初はホーリーチャイルドを4~5ピースのバンド編成にしようとも考えていた。それで実際に何人かと会ってみたんだけど、他のメンバーはみんなそこまで真剣じゃなかったんだよね」
リズ「まずは私たち2人で初めて、LAに行ってからそこでバンドを作り上げようと考えていたんだけど、実際にLAに来てバンドを編成してみても、メンバーがコミットしてくれなくて。練習に来ないとか、ツアーに参加しないとかでうまくいかなかった。だから〈これは自分たちでコントロールしないと〉ってことになったの」
ルイス「そうだね、結局この2人体制がウィン-ウィンの結果になったよね。いずれにしても、結果的にデュオになったってかんじ。たしかに男女デュオはトレンドになっているけど、そういうのに乗っかりたかったわけじゃなく、意図したものではないんだ」
リズ「男女デュオのユニットもそんなに知らなかったし、ミーハーな気持ちではじめたわけじゃない。でもビューク・アンド・ゲイズはお気に入り」
ルイス「僕はスレイ・ベルズだね」
――ホーリーチャイルドが大きく注目を浴びるきっかけになった“Running Behind”、キラーチューンだと思います。どういう経緯で生まれたのでしょう?
リズ「この曲のアイディアはコロラドでサウンドチェックをしていたときに生まれたの。ジャムってたときに、〈♪How can I go?~〉って歌詞やメロディーを思いついて、凄くいい感じだったからボイスメモに録音しておいたの。それから曲ができるまで半年くらいかかったのかな。あれ、そうだっけ?」
ルイス「どうだっけ……(去年の)4月から5月のあいだに作ってたんじゃなかった?」
リズ「じゃあ1か月くらいか(笑)。割とポンってできちゃった。それでロンドンにいるときに書き上げたの。歌詞も自然に沸いてきて、人間関係を解剖しているような歌詞。なんていうか自分によくあるんだけど、何かしらを感じたときに、〈こういう風に感じるべきなの?〉って自問してしまう。それが腹立たしいの、だって自分の感じ方なんて自分で決めるべきことで、どういう風に感じる〈べき〉かなんて他人に決められるものじゃないからね。そんな絶え間ない〈意識〉を表現していて、それは私自身が自分と、またほかの人とも感じる関係性。だからああいうブリッジなの」
――モダンかつエキゾチックで、独創的なリズムもこの曲の魅力です。ルイスはキューバでドラムを学んでいたそうですよね。その辺りの話も聞かせてください。
ルイス「(現地の)最近のミュージシャンからクラシックな人まで、広く影響されたよ。でも特定のアーティストというよりは、リズムやダンスそのものに強く惹かれているんだよね。特にアフロ・キューバン・ミュージックやアフロ・ブラジリアン、あとは西アフリカ音楽のドラミングにも凄く興味がある。それらのビートは洗練されているし、リズムも考え抜かれたものなのに、聴く人をとても自然に動かすことができる。こんなナチュラルに体を動かす力がどのようにして生まれるのか、そこにすごく魅力を感じるんだ」
――なんでキューバに行こうと思ったんですか?
ルイス「5~10年のあいだ独学で勉強していたんだけど、現地に身を置くというもっともインパクトのある方法でその世界やリズムを感じたいと思ったんだ」
――『The Shape Of Brat Pop To Come』というアルバムのタイトルは、先日亡くなったオーネット・コールマンの『The Shape Of Jazz To Come』からきているんですよね。
リズ「そうそう! たしかにそのとおりだし、リフューズドも90年代に『The Shape Of Punk To Come』ってアルバムを出してるの。私たちはどちらのアルバムにも影響を受けていて、このタイトルをつけることで、自分たちの幅広いリスニング・スタイルも表現できると思ったの。50年代のジャズも90年代のパンクも、そのあいだや、そのあとに生まれた音楽にも私たちは影響されている。それに、どちらのアルバムも当時のそれぞれのジャンルに多大な影響を与えたし、一方ではさりげなくそのジャンルの未来を定義づけたもの。あとはどっちも(私たちの)〈ブラット・ポップ〉と同じように政治色が強かったわ」
――そうですね。
リズ「〈ブラット・ポップ〉というのは、その本質として定義やラベルづけというものに逆らうものだと思うの。だから自分たちのジャンルを作って、ジャンルの定義というものを〈おちょくる〉ことで、なんでも定義づけてラベルを貼ろうとする私たちの文化を風刺する意味もある。このアルバムは、ジャンル分けなんかしなくても、いろんな音楽を取り入れたり、自分たちだけのジャンルを作ってもいいんだよって表明している作品だと思っているから。ラべリングをせずに、自分たちのものを作るっていうメッセージが込められている」
――パンクやハードコアも聴かれるんですね。
リズ「うん、パンク大好き。ミスフィッツとかも」
ルイス「僕はパンクってダメなんだよね(笑)。スクリーモみたいなのも苦手だし。でもリフューズドは別格。彼らは例外さ」
リズ「私はスクリーモも好きよ(笑)。13~15歳くらいのときに、そういうパンクはよく聴いていたわね」
――でもたしかに、ホーリーチャイルドにはパンクに通じるラディカルな精神も強く感じます。現代社会や資本主義経済を批判しているジャケットにも、それが顕著というか。
リズ「そうね、でもルイスだってパンク大好きではなかったけどレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは聴いていたでしょ。2人とも本質的にはあまり自己満足しないし、現状維持に満足するタイプじゃないから、リベリアス(反逆的)な部分は私たちのそういうところから出てきているのかもね」
ルイス「それにパンクはサウンドだけの話じゃないよね。マドンナやビートルズだってパンクだと思う」
リズ「そう、大事なのはアティテュードよね」
ルイス「境界線を超えるために、いろんなことにチャレンジする。そういうパンクな姿勢には、自分も影響を受けていると思うよ」
――あとはYouTubeの動画を観て、パーティー感のあるステージングにも驚いたんですよ。これは〈フジロック〉も相当ヤバいことになりそうだとドキドキして。
リズ「あ、今回はバンドじゃないの。私がヴォーカルにループとか使って、ルイスがドラムで、ギターやベースなど他の楽器を演奏するメンバーがもう一人入った3人編成ね。この前のアメリカ・ツアーはバンドで廻って、日本では3人でステージに立つわけだけど、実はいまのほうがいい感じだなって思い始めてるの。バトルスだって3人でしょ? 演奏にもフォーカスできるし、少ない人数のほうがマジョリティなサウンドを生み出すことができるかもしれない」
――そういう弾けたテンションも、まさに〈ブラット・ポップ〉ですよね。
リズ「私にとって〈ブラット・ポップ〉でいることは、フリーでオープンであること。自分に対して正直であること。ライブ中はすごく表現豊かでいられるしエネルギッシュ。数百、数千人の観衆とつながっているときはそう感じる。すごく強いつながりで、最高の気分。そうね、だから正直であることと、あとは声をあげること。たとえば最近気分のよくないシチュエーションがあって、私が好きではないことを別の女性に対して誰かが言っていたことがあって、それに対して私は〈どうしてそういうことを言うの?〉って声をあげたの。そういうのも〈ブラット・ポップ〉であることだと思うわ。いま世の中や自分の周りで起きていることを正直に表現していきたいし、自分にも自信をもつことができると思う」
取材の翌日には〈フジロック〉で熱演を披露し、↓のInstagramにアップされた写真もご覧のとおりの大盛況に。リズとルイスはプリクラを一緒に撮ったり、日本を満喫することもできたようだ。とにかく親密なムードを放ちまくっていたので、「お互いを信頼し合っているんですね」と声をかけると、リズは「もちろん」と、充実感たっぷりな表情を浮かべて即答してみせた。天真爛漫な2人の再来日がいまから楽しみだ。
ホーリーチャイルド来日公演
日時/会場:2015年12月16日(水) 東京・代官山UNIT
開場/開演:18:00/19:00
料金:前売り5,500円(1D別)
お問い合わせ:SMASH 03-3444-6751
http://smash-jpn.com/live/?id=2401