変容を繰り返してきたイノヴェイターにして唯一無二のクイーン・オブ・ポップが、4年ぶりのアルバムで帰還――音楽的な野心を燃やしながら本質的な不変のメッセージを貫いた『Madame X』について、女王はいま何を語る?

人生を一周して振り出しに戻った

 『Rebel Heart』から4年ぶり、マドンナにとって14枚目となるオリジナル・アルバムは『Madame X』と名付けられた。かつて彼女がスターになることをめざしてミシガンからNYに出てきた10代の頃、恩師と仰いだダンスの先生のマーサ・グラハムが常にイメージ・チェンジするこの若い生徒につけた愛称に、このアルバム・タイトルは由来しているという。そのオープニング・トラックにして先行シングルでもあったマルーマとの共演曲“Medellín”では、17歳当時を振り返る歌詞も挿入され、これは〈人生を一周して振り出しに戻ったアルバム〉だと語っている。

MADONNA 『Madame X』 Boy Toy/Interscope/ユニバーサル(2019)

 さまざまなキャラクターに変装するスパイ=マダムXに自身をなぞらえて展開する新作の発表にあたり、世界に先駆けてロンドン市内のホテルでマドンナがインタヴューに応えてくれた。この日の彼女は、マダムXのシンボルである黒の眼帯を左目につけて登場。口調は静かに、一言一言、注意深く質問に答えてくれた。

 息子のデヴィッドがサッカー選手の育成学校に入学したことで、彼女も2年前からポルトガルの首都リスボンに住んでおり、そこでの生活が新作のインスピレーションになったと説明する。

 「ポルトガルの音楽から影響を受けたの。リヴィング・ルーム・セッションには何度も足を運び、そこで聴いたような音を中心に作り上げた。“Killers Who Are Partying”を最初に書き、そこからアルバムが発展していった。ポルトガルで体験した音が、水中に小石を投げたような感じで、波紋を広げていったの」。

 ここでマドンナが体験したところの〈リヴィング・ルーム・セッション〉とは、文字通り、個人宅で仲間を招き、飲み物や食べ物を持ち寄って地元のミュージシャンが演奏する音楽、それはポルトガルのファドであったり異国の音楽であったりするが、それを楽しむ集いだ。個人宅ばかりでなくバーで同様のミニ・ライヴが行われる場合もあり、彼女はそこに何度も足を運んだという。プロデューサーとしてまず声をかけたのは過去3枚のアルバムで共作しているミルウェイズだ。

 「リヴィング・ルーム・セッションでレコーディングしたサンプルをミラウエイズに送ったの。新作はポルトガルの音楽にあるメランコリーに触発されたモダンなサウンドを作っていきたいと説明した。〈あなたもこの音楽に触発される? そうなら一緒にアルバムを作りましょう〉と言ったの。それで意気投合した。彼との共作は、必ずと言っていいほどポリティカルに仕上がる。私も彼も、気持ちの上で似たように感じているからなのだと思う」。