エゴを捨てて6人で作り上げたメロウなソウルの現在進行形……さらに強固に育った創造的なネットワークは広大な世界をナチュラルに繋ぐ!!

 ネットを介して知り合ったことから付けた人を喰ったようなユニット名が、リアルのバンドとして結束し、研ぎ澄まされていく。これまで3枚のアルバムをリリースしてきたジ・インターネットは、そんな経緯が音そのものに表れ、作品ごとに大きく変貌するところが最大のおもしろさかもしれない。

 霞んだ音像とアンビエントな雰囲気がざっくり〈インディー〉と括られ、ナイーヴな歌モノが〈R&B〉と大雑把に冠される、そんな潮流が広がりつつあった2011年末に彼らのデビュー作『Purple Naked Ladies』は登場した。当初はマット・マーシャンズとシド・ザ・キッドの男女デュオという体裁だった同作は、オッド・フューチャー発という点で話題を呼び、日本ではインディーR&Bという評価も受けた。だが、実験的なシンセ・ポップがシドの気怠い陶酔感に満ちた歌声で浸されていく、真にオリジナルでオルタナティヴな作品であったのも間違いない。

 「オッド・フューチャーという看板で盛り上がってたことは、私が初めて注目されるきっかけでもあったけど、同時に、私の創り上げたもの自体があまり注目されなかったことは……ほろ苦い経験だったわ。いま私たちがここまでやってこれて誇りに思ってるし、たくさんの人たちが私たちのことをちゃんと見て、私たちがどう成長してきたかわかってくれてるのはとってもクールだわ」(シド・ザ・キッド:以下同)。

THE INTERNET 『Ego Death』 Odd Future/Columbia/ソニー(2015)

 シドが言う〈成長〉は、バンド感を前面に出して完成させた2013年のセカンド・アルバム『Feel Good』にまずは表れる。ブギー風味の“Dontcha”をはじめ、タイトル通りの気持ち良いグルーヴを5人編成の〈バンド〉によって築いたこのアルバムで、彼らの名声は一気に高まった。同年にはマック・ミラーのツアー参加などバンド単位での活動も重ね、さらに磨かれていく。それらを経てこのたびのサード・アルバム『Ego Death』で鳴らされているのは、よりソリッドになったバンド・サウンドだ。

 「個人的に、今回はいつも以上にハードなドラムを聴かせたかったの。自分のヒップホップへの愛を表現したかったから、パワフルなドラムでやるべきだと判断した。他のバンド・メンバーのサウンドは自然に生まれてきたわ。スタジオでそれぞれがそれぞれとコラボレーションすることで生まれてきた音。新メンバーのスティーヴ、ジャミールとの相性も抜群だったわ」。

 テイ・ウォーカーが離籍し、サンダーキャットの実弟である鍵盤奏者のジャミール・ブルーナーとソロのシンガー・ソングライターとしても活動するスティーヴ・レイシーを新たに迎え、バンドは6人編成となった。だが逆に音数は減って抑制的になり、ドラムとベースは格段に重くなった。それによってメロディアスさよりもメロウな気怠さが際立つようになったことは、ある意味では、シドの陶酔と倦怠が肝だったデビュー作に立ち返ったかのようだ。オッド・フューチャーのタイラー・ザ・クリエイターが3作目にして初めて参加したのもトピックだが、これまで参加がなかったのは「実はわざとそうしたの。彼の力なしで、ある程度のところまでは自分たちの力でやれるって証明したかったから」だという。過去2作と今作の明確な違いを「より強い自信」とも語るその誇りが、削ぎ落とした音の中から湧き上がってくるような本作は、〈エゴの死〉という表題とは逆の印象を受ける。

 「タイトルは、そうね……(自分たちが)謙虚になることを表しているわ。ここまで来る間に私たちのほとんどが、それぞれ抱えてきた問題や困難を乗り越えるためには自分自身を見つめ直して謙虚にならないといけないという経験をしてきたから。実際にタイトルを付けたのはアルバムを作り終えた後だったの。6人全員の〈今〉を反映したものにしたかった」。

 実るほど頭を垂れる……ということではないだろうが、自信を深めた6人が〈今〉からそれぞれに収穫を増やし、また新たな実りを紡ぐ日がそう遠くないことを望みたい。  

 


LIVE INFORMATION
ジ・インターネット来日公演

2016年1月27日(水)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:18:00/19:00
料金:前売り 5,800円(1D別)
お問い合わせ:SMASH 03-3444-6751
http://smash-jpn.com/live/?id=2405