待望の4年ぶりのオリジナル・アルバムはブラジルの粋な絆の結晶!
オーケストラによる寛雅なイントロに続いて、セルソ・フォンセカがアコースティック・ギターを爪弾きながら「Please don't smoke in bed」と優しげな声で歌い出す。ホナルド・バストスとの共作曲であるこの1曲目《Like Nice》は、英語詞。冒頭の一節は、ジャズ・スタンダードの《Don't Smoke in Bed》に引っかけているのだろう。ベッドの中には、恋人なのか、秘めた恋のお相手なのか、誰か女性がいるという設定。でも、シルクの毛布にくるまって独りで過ごす甘やかな夜のような曲だ。セルソ・フォンセカ&ホナルド・バストスの名盤『Slow Motion Bossa Nova』(2002年)に収められていたとしても不自然ではないほど高雅な雰囲気を漂わせている。
本作でストリングスの編曲と指揮を手掛けているのは、エドゥアルド・ソウト・ネト。前作 『No Meu Filme』(2011年)、そしてセルソ・フォンセカ&ホナルド・バストスの過去5枚のアルバムすべてに関わってきた名匠だ。だからこの新作には、これまでのセルソ&ホナルドの路線が引き継がれている。話題のひとつとしては、セルソとは『Página Central』(2009年)を一緒に制作した間柄であるマルコス・ヴァーリが2曲でフェンダー・ローズを弾いていることが挙げられる。そのうちの1曲は、唯一のカヴァー 《Stormy》。クラシックスⅣが67年に放った全米ヒット曲で、これも英語で歌われている。「ポルトガル語はこの世でもっとも優美な言葉」とアート・リンゼイは自身のアルバム『Envy』(84年)に記しているが、セルソのポルトガル語訛りの英語もまろやかで麗しい。
そういえば、《Stormy》は、英国の粋人ジョージィ・フェイムも『Going Home』(71年)でカヴァーしている。セルソ・フォンセカとマルコス・ヴァーリとジョージィ・フェイム。この三者は、“粋な絆”で結ばれていると感じずにはいられない。マルコス・ヴァーリの名曲のタイトルを借りるなら、 《Like Nice》というより、“So Nice”なアルバムである。