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自身の音楽を〈2%ジャズ+98%ファンク〉と形容するのはメイシオ・パーカーだが、だとしたら同じアルト・サックスを操る彼女はどういう比率になるだろう。このたび『フロム・マイ・ソウル』でデビューを果たした前田サラ。資料に躍る〈エモーショナルなブロウと歌心に溢れたプレイが魅力、ファンキーでソウルフルなサックス・プレイヤー〉という形容は伊達じゃない。
福岡の北九州市で生まれた彼女は、教会育ちという環境もあって早くから音楽に親しんできたそう。やがてサックスに魅了されると、16歳で上京してからは進学せず、バイトしながら教会やストリート、ライヴハウスで演奏し、さまざまなミュージシャンと交流を重ねながら、ひたすら腕を磨いてきたそうだ。その甲斐あって19歳の時に自身のバンドを結成。その頃、教会のイヴェントで渡米した際にはあのロン・ブラウン(デューク・エリントン楽団やスティーヴィー・ワンダーらのバンドで演奏したほか、ゴスペル・ジャズ作品でも有名)と知り合ってサックスのレッスンを受けたり、一方では歩道で練習中に中村達也に声をかけられたことをきっかけに、the dayのサポート・メンバーに抜擢……と、大きな出会いは彼女を前進させる糧となった。ただ、それもこれも、彼女のプレイが放つエモーションとエナジーに名うてのミュージシャンたちを惹き付けるものがあったからに他ならない。その実力の程は、今回のアルバムでも確実に表現されているはずだ。
その『フロム・マイ・ソウル』は、リッキー・ピーターソンをプロデューサーに迎え、彼の本拠となるミネアポリスでの録音を敢行。リッキーといえばデヴィッド・サンボーンやベン・シドランとの共演で知られる鍵盤奏者の大物だが、ここでは90年代のプリンスを支えたブレーンとしての活躍を思い出すべきだろう。冒頭で挙げたメイシオにも通じるファンキーなソウル・インストとしての今作の佇まいは、リッキーのファンク・サイドが発揮された結果でもあるわけだ。その旗振りで集まったのは、リッキーの実弟ポール・ピーターソン(ベース)に、ジョー・エリオット(ギター)、マイケル・ブランド(ドラムス)、ジェイソン・ディレア(サックス)、ジェフ・カーヴァー(トランペット)という面々。殿下ファンなら元ファミリーのセント・ポールや、元NPGのマイケルという顔ぶれに思わず反応してしまいそうな豪華メンバーである。
そんなバンドと共に勢い良く駆けるオープニングは、かの〈アーメン・ブレイク〉を生んだウィンストンズのヴァージョンにも近い“Amen”。続いてカーク・フランクリンの“Brighter Day”で穏やかな昂揚を誘う流れからは、ゴスペルをルーツに持つサラのスピリットも伝わってくるかのようだ。そのようにアルバム前半にはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの“Simple Song”など著名曲のカヴァーが並び、バックの演奏に負けないダイナミックな存在感を見せつけてくれる。
オーティス・レディング“Can't Turn You Loose”で折り返しての後半は、アヴェレージ以上を行くファンキー・チューン“Only One Boss”などのオリジナル曲で勝負。和製/女性ミーターズ的なバンドのBIM BAM BOOMでも活動しているサラだが、本作ではそういったファンクの血もうまく引き出された格好だ。もちろん突貫だけではなく、表題曲やラストの“Starlight”などのメロディアスで優美なフレージングも印象的に心に残る。
例えば〈これが新人?〉〈女性が吹いてるの?〉という率直な感想を抱く向きもあるだろうが、いずれにせよ聴いているうちにそういう些末なことは吹き飛ばされてしまうはず。リッキーをして「サラの音楽にはデヴィッド・サンボーンと同じようなブルースがルーツに感じられる」と言わしめたサラの100%のプレイは、ここからさらに多くの心に届いていくことだろう。
前田サラ
福岡は北九州の出身、91年生まれのサックス奏者。プロテスタントの牧師で音楽家の父親と音楽好きな母親の元で育つ。小学4年生の時に神戸に移り、父の教会でドラムスの演奏を開始。中学の吹奏楽部でクラリネットを担当したのち、サックスを入手して教会で演奏を始める。16歳で東京に移ってからはサックスに専念し、ストリートでも演奏を開始。17歳の頃からライヴハウスのセッションに積極的に参加し、19歳で自身のリーダー・バンドを結成。その後、中村達也の誘いでthe dayのサポート・メンバーとして加入し、全国のロック・フェスなどに出演して話題を集める。このたびファースト・アルバム『FROM MY SOUL』(ビクター)をリリース。