2021年4月に80タイトルが発売されて話題になったユニバーサルによる大規模再発企画〈ロック黄金時代の隠れた名盤「1965-1975編」〉。タワーレコードでもやはり売れ筋の商品だとのことで、店頭での問い合わせも多かったとか。
7月のブラジル音楽の再発を挟んだ9月22日、同企画の第2弾が到着した。今回の対象は前回の次の時代、76~85年の作品だ。ユニバーサルの豊富なカタログからストリーミングサービスで聴けない貴重盤、入手困難盤、裏名盤など、67タイトルが破格の1,100円(税込)で手に入る。
そこでMikikiは、今回もタワーレコード新宿店のスタッフ3名に協力してもらい、選盤とおすすめするポイントを語ってもらった。聞き手は前回同様、音楽ライターの松永良平。閉店後に新宿店のフロアで繰り広げられたアツい〈レコ屋トーク〉を、どうぞ。 *Mikiki編集部
ブギー一本槍だけどセンスが光るステイタス・クォー『Blue For You』
──ユニバーサルミュージックのCD再発企画〈ロック黄金時代の隠れた名盤〉、前回の〈1965-1975編〉は大好評だったみたいですが、今回は76年から85年編です。タワーレコード新宿店スタッフのみなさんに、今回も特におすすめのアイテムを紹介してもらいながら、いろいろ語り合っていただきます。
村越辰哉(新宿店副店長)「今回もいい意味で雑多なラインナップです」
天野龍太郎(Mikiki編集部)「ニューウェイブやポストパンクも入ってきてますよね」
村越「ベテラン勢のセカンドキャリア的なところと、新しく出てきたバンドの勢いのある初期作品が混ざってる感じです」
──まずは、洋楽フロアチーフの熊谷さんの3枚です。1枚目はステイタス・クォー『Blue For You』(76年)。
熊谷祥(新宿店10F洋楽フロアチーフ)「はい。日本ではそんなに人気がないですけど、イギリスではすごい大物です。あの〈ライヴ・エイド〉(85年)は時差の関係でイギリスからスタートしたんですが、オープニングアクトが彼らだったんですよ。始まった瞬間の盛り上がりがまあすごかった」
──フットボール(サッカー)文化にも通じるノリですよね。酒飲んで大合唱してもっさり盛り上がれる感覚。スレイドとかもそのノリですよね。
村越「なるほど! 確かに」
熊谷「彼ら、ブギー一本槍なんですけど、それでいて細かいフックとか曲に工夫があるし、メロディーもポップで聴き飽きないんですよ。いろんな前情報とかを抜きにして、頭の中を真っ白にしてこの千円盤を手に取ってもらえたら、ロックンロール系が好きな人も気に入ってくれると思うんです。そして、彼らの出世作となった『Hello!』(73年)とか、他のアルバムもぜひ聴いてほしいです」
ブリティッシュフォーク全盛期後の良作、スプリガンズ『Revel Weird And Wild』
──アルバム、たくさん出してますからね。続いては、ブリティッシュフォーク幻の名盤と言われていたアルバム。スプリガンズのセカンドにしてメジャーデビュー作『Revel Weird And Wild(奇妙な酒宴)』(76年)。
熊谷「ブリティッシュフォーク全盛期のバンドに影響を受けて、ブームがある程度終焉した時期に出てきたのか彼らです。デビューしたタイミングは少し遅かったけど、音楽はすごくいい。女性ボーカルのマンディ・モートンは、サンディ・デニーからの影響大。
次作『Time Will Pass』(77年)も今回一緒に出るんですが、そちらはストリングスアレンジをニック・ドレイクとも仕事をしたロバート・カービーという名匠が手がけていて、ロックっぽさも強いし、そっちが名盤として推されることも多い。だけど、今回はフォークっぽさが残るこちらを選びました」
村越「僕は、そのサンディ・デニーっぽさを〈芝居がかってる〉と感じて、ちょっと避けちゃうんですよね」
熊谷「まあ、ブリティッシュフォークってマーダーバラッドとか物語的な内容の曲が多いし、芝居がかったようだという指摘は結構的を射てるんですけどね」
──ダークでファンタジックな世界観は、ゴス(ゴシック)カルチャーにつながっていく部分でもありますよね。今回のラインナップにあるスージー&ザ・バンシーズあたりとも決して無縁ではない気がします。
中本颯一郎(新宿店10F洋楽フロア担当)「確かに、ジャケもゴシックな感じですね」
由緒正しき英国の美メロ、バークレー・ジェイムズ・ハーヴェスト『Gone To Earth』
──そして熊谷さんの3枚目は、バークレー・ジェイムズ・ハーヴェスト『Gone To Earth』(77年)。彼らは今回3枚出ます。
熊谷「9枚目のアルバムで、中期の傑作と言われてます。彼らは、メロトロンやオーケストラを使うのでプログレに分類されるんですけど、変拍子もそんなにないし、テクニックばりばりでもない。もともとビートルズに端を発する英国的なメロディーが身上のバンドなんです。
80年代にエイジアやGTRのようなプログレ人脈のスーパーバンドがデビューしたとき、いきなりポップ化したと揶揄されましたが、こういうアルバムを聴くことで、いきなりじゃなく、ちゃんとポップ化の流れが線になって繋がっていたことがわかると思います」
──由緒正しきブリティッシュロックバンドの系譜なんですね。
熊谷「4曲目が“Poor Man’s Moody Blues”というんですけど、これ、めちゃめちゃ“サテンの夜(Nights In White Satin)”そっくりなんです。〈お前ら、ムーディー・ブルースの真似みたいなバンドだろ〉と言われて怒ったメンバーのジョン・リースが、その晩のうちに書き上げた曲だそうです。でも、この開き直りみたいな曲がシングルとしてヒットしたんですよ(笑)」