既存のフォーマットを嫌い、ニュー・タイプのインストを鳴らそうと立ち上がったシカゴの革命家が世間に受け入れられるまで、そう多くの時間は必要なかった。 静と動、過去と未来、陰と陽、調和と軋轢、繊細さと大胆さ、直線と曲線、喜びと悲しみ――相反するマテリアルをミックスし、〈ロックのその先〉を見せてくれたトータス。アルバム・デビューから20年強が過ぎてもなお、5人の実験精神は萎えることを知らない。音楽の新たな可能性を模索する旅はまだ始まったばかりだ……

 


DISCOGRAPHIC TORTOISE
トータスを知るための6枚

TORTOISE 『Tortoise』 Thrill Jockey/Pヴァイン(1994)

記念すべきこの初作からは、後にアンティバラスとの共演で開花するアフロビート志向はもとより、ジャマイカン・ダブやエチオ・ジャズの影響が強く感じられます。エレクトロニックな分厚い効果音でも評判を集めていく彼らですが、核には強靭な人力リズムがあることを痛感。

 

TORTOISE 『Millions Now Living Will Never Die』 Thrill Jockey/Pヴァイン(1996)

出世作にして、〈ポスト・ロック〉なる呼称を世界に広めた2作目です。〈複雑なポスト・プロダクション × エモい旋律 × 柔らかなノイズ〉というバンドのイメージがここで確立。カラフルなビートに彩られたフォーキーな楽曲スタイルは、ビビオのワープ移籍作などに引き継がれ……。

 

TORTOISE 『TNT』 Thrill Jockey/Pヴァイン(1998)

最高傑作との呼び声も高い3作目。全編でプロトゥールスを導入し、ピッチを変えたり、ウワ音をコピペしたり。MPB風やクラウトロック的な反復ビートが飛び出すほか、曲調は雑多ながら、総じてリラックスした雰囲気があり、ジャック・ジョンソンもお気に入りに挙げています。

 

TORTOISE 『Standards』 Thrill Jockey/Pヴァイン(2001)

この4作目ではアナログ回帰を目論み、ノイジーなディストーション・ギター、ハードなドラミングなど個々の演奏スキルをアピール。彼らにしては曲が短めで、耳触りはゴツゴツした感じです。ハードコア・パンクを出自としていることが、もっとも顕著に表れた一枚。

 

TORTOISE 『It’s All Around You』 Thrill Jockey/Pヴァイン(2004)

ヴォーカル・トラックを装備してファンを驚かせた5作目。オルタナ・カントリー的なムードがそこここに漂い、メロディアスでポップな仕上がりという意味では、新作『The Catastrophist』とも通じるでしょう。表題曲あたりはアンチコン系のヒップホップ好きにもオススメ。

 

TORTOISE 『Beacons Of Ancestorship』 Thrill Jockey/Pヴァイン(2009)

トータス・サウンドの大きな特徴とも言えるヴィブラフォンとマリンバを排し、そのぶんボトムに注力。異型サンバやダンスホール・レゲエ風といった、いつになく粗削り&はっちゃけた彼らと出会え、特にダブステップに挑戦した“Northern Something”で汗だくです! *小泉いな子

 

ALMOST ALWAYS IS NEARLY ENOUGH
高い技術で鉄壁のアンサンブルを支えるメンバーたちを紹介

 トータスは最初からそれぞれに独立した感覚と技術を持っていたアーティスト集団だ。その証拠にメンバーの外部仕事は枚挙に暇がなく、各々が高いミュージシャンシップを発揮することで、常に新しい風をグループ内に吹き込んできたと言っていい。

 例えば中心人物のジョン・マッケンタイア。マイ・ダッド・イズ・デッドを経て、後にガスター・デル・ソルへと発展するデヴィッド・グラブスらを擁したバストロへ加入、そしてトータスやシー・アンド・ケイクでの動きを活発化させる頃には、世界的にも名うてのプレイヤーとして知られるようになっていた。並行して、自身の持つソーマ・スタジオ(2011年に閉鎖)を拠点にエンジニア仕事を本格化。トランズ・アムやアイソトープ217°といったスリル・ジョッキー仲間から、先輩格のレッド・クレイオラ、それにステレオラブやブラーなどのプロデュース/リミックスを手掛け、裏方としても揺るぎない地位を確立する。2000年代以降もジャガ・ジャジストにマトソン2、ファイアリー・ファーナセスやモデスト・マウスらの作品に力を貸していることも追記しておこう。

ジャガ・ジャジストの2010年作『One-Armed Bandit』収録曲“Bananfluer Overalt”
モデスト・マウスの2015年作『Strangers To Ourselves』収録曲“Coyotes”

 続いてのダグラス・マッカムは、イレヴンス・ドリーム・デイ、フォー・カーネーション、ブロークバックほか、いくつものバンド/プロジェクトに参加するシカゴ・シーンきっての多忙者だ。キャレキシコ作品への関与をはじめ、エリアを超えたサポートも目立つ。

キャレキシコの2008年作『Carried To Dust』収録曲“Two Silver Trees”

 さて、お次はダン・ビットニー。80年代にジャンク/ハードコア界隈で鳴らしたター・ベイビーズの一員としてSSTから作品を出している彼は、虎視眈々とキャリアを重ねるパーカッショニストだが、2007年にはトータスのリズム隊と始めたバンプスの初作『Bumps』で多方面から注目されることに。そのバンプスにも名を連ねるジョン・ヘーンドンは、マッカムらと90年代後半にフォー・カーネーションで活動した後、エターナルズなどで手腕を発揮。シカゴ・アンダーグラウンドのコルネット奏者で現在はブラジルに暮らすロブ・マズレクと、サンパウロ・アンダーグラウンド名義で共に行動していたことを記憶するファンも多いだろうか。

サンパウロ・アンダーグラウンドの2011年作『Tres Cabecas Loucuras』収録曲“Jagoda’s Dream” 

 最後に、ジェフ・パーカーは客演のみならず、主にデルマークから数々の素晴らしいリーダー作を発表。それらに触れてみると、メンバー内でもっとも強くジャズの影響が感じられ、トータスの要のプレイヤーであることに気付かされるはずだ。 *岡村詩野