今月は出張版! シカゴの忘れられた名花によるレア作品の初リイシューが実現!

 ソウル界のロス姓といえばデトロイトのダイアナがすぐ思い浮かぶところだろうが、彼女と同時代にシカゴから登場してきたジャッキー・ロスも忘れ難い歌姫のひとりである。46年にミズーリ州セントルイスで生まれた彼女は、説教師だった両親のラジオ番組で3歳の頃から歌っていたという教会仕込みのシンガーだ。父親が亡くなった後でシカゴに移り、そこで母の友人だったサム・クックに見い出されてサーからデビューしたのは62年のこと。シル・ジョンソンのバンドで歌った後にチェスと契約し、64年の“Selfish One”は全米11位/キャッシュボックスのR&Bチャートで4位(この時期ビルボードにR&Bチャートは廃止されていた)というヒットを記録している。同時代のモータウンも意識したサウンドに乗る彼女の歌声はメアリー・ウェルズらを想起させるエレガントなもので、チェスの先達にあたるエタ・ジェイムズやミッティ・コリアの力強さとはまた違う優美な個性を見せていた。

JACKIE ROSS 『A New Beginning For Jackie Ross』 Golden Ear/Pヴァイン(1980)

 名作『Full Bloom』(64年)を残してチェスを離れた彼女は、ブランズウィックやジェリー・バトラー主宰のファウンテンで録音を続けるが、商業的な返り咲きを果たすには至らず。70年代以降はマネージャーを務めるジェイムズ・ヴァンリアの指揮下でメジャーやローカルの諸レーベルを転々としていた。そんななか79年にはヴァンリアが新興したゴールデン・イヤーと契約。そこでの輝きを記録したのが、このたび世界初リイシューとなった80年のセカンド・アルバム『A New Beginning For Jackie Ross』(Golden Ear/Pヴァイン)というわけだ。冒頭の“Betcha By Golly Wow”では同郷のラヴライツ版とまったく同じオケが使われているという謎もありつつ、快いモダン・ソウル“The World Needs More People Like You”やオージェイズのカヴァー“You Got Your Hooks In Me”など、軽やかさとポピュラリティーを備えた麗しい名曲集に仕上がっている。

THE SOUTH SIDE MOVEMENT, JACKIE ROSS 『Southside Movement & Jackie Ross』 Pヴァイン(2023)

 また、それに先駆けて登場したのが、同じくヴァンリアが手掛けるシカゴのバンド、サウスサイド・ムーヴメントとのタッグで吹き込んでいた6曲入りプロモ盤の初復刻を軸とする編集盤『Southside Movement & Jackie Ross』(Pヴァイン)だ。ここではグルーヴィーなトロピカル・ソウル“You Are The One That I Need”を筆頭に彼女の瑞々しい歌唱の魅力が全開になっているほか、バンド側の未発表曲群(91年にPヴァインが編纂した『Funk Freak』が初出)も追加した充実の内容になっている。知られざるシカゴの名花をこの2枚でご堪能いただきたい!

関連盤を紹介。
左から、ジャッキー・ロスの64年作『Full Bloom』(Chess)、サウスサイド・ムーヴメントの73年作『The South Side Movement』(Wand)