若かりし頃の彼らにはなかった遊び心と余裕、そして嫌味のない色気――
このエイジング・ロックで甘い思い出に浸りながら、いまを楽しもう!
2012年頃から新曲を書きはじめていたというミュートマスが、試行錯誤を経てついに一枚のアルバムを完成。『Vitals』と名付けられ、リリースされた。前作の『Odd Soul』から実に5年ぶりだ。その直後に実現した来日公演以来、久しぶりに彼らの名前を耳にしたという方もいるかもしれない。今作は、『Odd Soul』のツアー時にはすでにバンドに加わっていたギタリスト、トッド・ガマーマンを含むラインナップで作られた初めての作品となる。当然、新たなスタートという気持ちもあるだろう。そこで現在の心境を探るべく、メンバー全員にメール・インタヴューを行った。
「この『Vitals』をリリースするため、ヴォイテクという自主レーベルを立ち上げたよ。以前のテレプロンプトはワーナーのなかに作った俺たちのレーベルだったけど、ワーナーを離れたからね。ちなみにヴォイテクとはポーランドの有名な兵隊グマの名前だよ。検索してみて。それはさておき、この4年の間、ファースト・アルバムを作っていた時と同じような喜びやフラストレーションを感じていたかな」。
『Odd Soul』ではクリームやレッド・ツェッペリンを彷彿とさせる60~70年代のブルース・ロックにアプローチしていた彼らだが、今回はデビュー時に回帰したような、シンセ主体の煌びやかなサウンドを鳴らしている。リード・ギタリストが不在のまま作った前作がギター・ロックで、新たにギタリストを迎えた新作がエレポップ色の濃いものになっているとは……。
「トッドのもっとも得意な楽器はキーボードなんだよね(笑)。バンドに入るために凄くがんばってギターを練習していたよ。今回はギターよりシンセを多く使いたい気持ちがあったんだ。そこから光や喜びを感じてもらえたら嬉しいよ」。
もちろん、単純にファースト・アルバム『Mutemath』の頃に戻ったわけではない。〈チルウェイヴ〉なんて言葉も思い浮かぶアルバム中盤のメロウな流れや、ニューロマ風味の“Joy Rides”から感じられる享楽的かつどこか退廃的なムード作り、そして“Used To”を筆頭としたレトロ・ソウルへの接近は、バンドの新たな挑戦と言えそうだ。
「全体的に懐かしい感じだよね。歳を取って、気付いたら俺たちが父親になっていて、俺たちの父親が亡くなっていく。歌詞はこの歳になって感じたものにしたかった。改めて『Vitals』を聴き直してみると、自分たちの青春の音を使って、大人になることについてアルバムを作った気がするよ」。
老化を認める一方、だからといってこのまま渋くキメ込み、人生の黄昏を迎えるにはまだ早い、ここでもう一度、青春時代の活力を取り戻そう――本作にはそんな思いが込められている気がしてならない。何せタイトルも『Vitals』だし。
また、「ヴォーカルを引き立てたかった」と言っている通り、とりわけ“All I See”“Composed”などのバラードにおける、ファルセットを交えながらじっくりとソウルフルな歌声を聴かせるフロントマン、ポール・ミーニーのパフォーマンスは特筆すべき素晴らしさ。ここも今作の大きな聴きどころだろう。
北米およびUKツアーでしばらく大忙しの彼ら。しかし、「日本に関しては良い思い出しかないね。日本のファンはいつも凄く素敵な手作りのお土産を作ってくれるし、地元に戻っても手紙をくれる。本当に感謝しかないよ。近いうちにまた会いたいね!」と本人たちは早くも来日に意欲を燃やしている。