熟達した自身の世界観へ近づいてみせた会心の一作

類家心平 UNDA T5Jazz(2016)

 類家率いるRS5pb(Ruike Shinpei 5 piece band)の、2作目にして初のスタジオ録音盤『UNDA』はじつに鮮烈で、より熟達した自身の世界観へ近づいてみせた感がある。あるいは前身の4 piece bandを立ち上げてから今年が10年ということで、積み上げられた彼ら音への練磨がそう思わせているのかも知れない。

 「吹奏楽をやって、クラシックもニニ・ロッソも、トランペットが入ったあらゆる音楽を聴きました。そして高校に入学した頃マイルス・デイヴィスの音と出会い、彼と、彼にまつわるアーティストをとことん聴き漁るようになります。そんなところからプロになった時は、志向として新しい感覚を持ったクラブ・ジャズの方面で活動し始めていました。一方でそんな新しいスタイルに興味を抱きながら、自分のバンドを持ち、インプロヴィゼーションを重視したアコースティックな演奏もやりだした。それが10年前のことですね」

 クラブ・ジャズの影響も残し、より自由度が高く、アンビエントで、少々フリー・ジャズの混沌も漂わす演奏がそこに展開された。長尺で先鋭的なソロ・パフォーマンスが評判を呼び、たしかに見事な成果を生んだ。が、どこか粘着系のしつこさがあり、混濁する変則リズムやサイケデリックな和声に拍車がかかって、一般音楽ファンにとっては取っつきにくさを残したのもたしかだった。求道的と思わす内省的ソロ・プレイの数々も、そのイメージを助長したかも知れない。

 「やはり、菊地成孔さんと出会ったことは大きいと思います。一般に受けてアピールするための手法というか、自分の音を俯瞰して観られるようになりました。そしてバンドにギターを加えたことで、サウンドがエッジィでカラフルな方向へも寄っていきます。今までどおりドロドロした部分はあるにせよ、展開がパキパキと進むようになったのは変化として大きいですね。加えてある思想を、RS5pbの最重要コンセプトとしてみたんです。それがラテン語で“波”を意味する“UNDA”…。親離れじゃないですが、そろそろマイルスの影から抜け出さなければという思いがあり、そこでメンバーとの意識の共有と言うか…ほら、北斎が波の形を切り取って描きましたよね。あれ自体すごい作業ですが、そこへ時間軸も持たせて完成と崩壊のくり返しに命を賭けるような演奏をしようと。ということで今回、その思想をタイトルにしてみたわけです」

 この思想の共有が冒頭の熟達を思わせるのだろうし、それはジャケットの書画製作にまで及んだ。マイルスの影からの卒業を告げるように、最愛のマイルス・オリジナル《メイーシャ》でこの世のものとは思われぬ甘美なプレイを披露。感動はピークへと持ち上がる。

 


LIVE INFO

RS5pb new album 『UNDA』 release tour
○5/2(月)新宿PIT INN(東京)
○5/4(水)八戸ポータルミュージアムはっち(青森)
○5/6(金)CORTEZ(水戸)
○5/8(日)jazz inn LOVELY(名古屋)
○6/10(金)Motion Blue yokohama(横浜)
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