メトロポール・オーケストラとの共演作『Sylva』(2015年)で2度目のグラミー賞受賞を果たし、名実共に世界トップの即興音楽集団となったスナーキー・パピーが6月16日(木)に東京・赤坂BLITZ、18日(土)に神奈川・横浜ベイホールで再来日を果たす。昨年9月には〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉でロバート・グラスパー・トリオハイエイタス・カイヨーテなどと共演し、大所帯によるグルーヴィーな演奏が話題に。2016年に入ると、デヴィッド・クロスビーのような大御所からベッカ・スティーヴンスローラ・マヴーラジェイコブ・コリアーといった新世代ミュージシャンまで参加した〈ヴォーカル・アルバム〉の『Family Dinner Volume Two』を2月に発表し、間を空けず全編インスト&久々のスタジオ録音となる『Culcha Vulcha』を5月にリリースしている。精鋭揃いの音楽コレクティヴは、いよいよ絶頂期を迎えつつあるようだ。

さらに今回の来日公演では、豪華なサポート・アクトにも注目したい。6月16日(木)には初の日比谷野音ワンマンも大盛況に終わったcero、6月18日(土)には福原美穂をヴォーカルに迎えて、mabanuaShingo SuzukiSWING-O関口シンゴなど、origami PRODUCTIONSに縁のあるプレイヤーたちが集結したorigami PLAYERSがそれぞれ登場する。その共演陣のなかから、今回はceroの荒内佑より到着したコメントと共に、スナーキー・パピーの魅力に迫ってみたい。

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SNARKY PUPPY Culcha Vulcha GroundUp/Decca/ユニバーサル(2016)


ceroが2015年に発表した『Obscure Ride』は、ネオ・ソウル~R&B、ヒップホップに加えて、ロバート・グラスパーホセ・ジェイムズなどの現代ジャズ勢も含めた〈現在進行形のブラック・ミュージック〉に大きな影響を受けた一枚だった。本題に入る前に、最近のジャズ全体に対する興味を改めて訊いてみよう。

「やはり第一に、ヒップホップやビート・ミュージックなどマシーン・グルーヴの影響を受けたリズムのおもしろさ。あとはクールであること。例えばリチャード・スペイヴンや(ジャズに分類するなら)テイラー・マクファーリンのように、和声が派手に動かない、もしくはまったく動かず、上ネタとリズムを主体として曲が進行していくクールさ。逆に最近のジャズ的なリズム・アプローチをしつつも、だいぶキャッチーにアレンジされたローレン・デスバーグ『Twenty First Century Problems』(2015年)も最近良かった一枚です」。

スナーキー・パピーも新世代ジャズを象徴するグループの一つであるが、サウンド自体はこういったアプローチと一線を画したものだ。

「非アメリカ圏の音楽を多く参照しているところは、ceroとも通じるところがあるのかなと。ロックやファンクに限らず、アフリカやブラジルなどのワールド・ミュージックの影響が強いですよね。〈溶け合った〉という意味でも、サウンド面においてもフュージョン的だという点で、ウェザー・リポート(と、80年代に発表された各メンバーのソロ作)なんかを思い出しました」

2014年作『We Like It Here』収録曲“What About Me?”のスタジオ・ライヴ映像
 

荒内もこう語るように、トラッド・フォークからデトロイト・テクノまで幅広くジャンルを横断し、テクニカルなフュージョン・サウンドに今日的なアイデアを盛り込むことで、スナーキー・パピーは新たなグルーヴを生み出そうとしている。そのスタンスが明確に表れているのが、最新作の『Culcha Vulcha』だ。近年はライヴ・レコーディングからアルバムを作り上げていた彼らが、久々のスタジオ録音を敢行することで、バンドにとっての集大成とも言える一枚に。持ち味のファンキーな演奏と共に、クラヴィネットやフルート、カリンバといった楽器、ホーン隊やストリングスまで活かしたカラフルなアレンジも聴きどころである。

Snarky Puppy "Tarova" (Culcha Vulcha) Official Track Video
『Culcha Vulcha』収録曲“Semente”のライヴ映像
 

「アルバムの頭から終わりまですべての楽器アレンジがほぼ固まっていて、各セクションの絡みがとても綺麗に構成されているのに、ほとんど編集もしてないように聴こえました。手練れの演奏家が集まって大所帯バンドをやると、スウィングやアフロ、ブラジル音楽など1ジャンルに絞られる傾向があると思うんですが、『Culcha Vulcha』は曲のヴァリエーションが豊富で興味深いですね。特にニュー・ジャック・スウィング風な“Grown Folks”をこの編成でやっているのは最高におもしろかったです。この感じは、いままであまりなかったのではないでしょうか!」

この指摘通り、音色やアイデアをたっぷり詰め込みながら、ポスト・プロダクションに頼ることなく、風通しの良いアンサンブルを実現させているところも世界屈指のライヴ・バンドたる所以だろう。ちなみにスナーキー・パピーには、リーダーのマイケル・リーグ(ベース)を中心に総勢40名を超えるメンバーが在籍し、ライヴのたびにメンバーを選抜している。〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉で観客を大いに沸かせた花形キーボーディストのコリー・ヘンリーや、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』にも参加したドラマーのロバート“スパット”シーライトといった中心メンバーがふたたびやってくるほか、エレクトロニカ/ポスト・クラシカルからアフロ・グルーヴまで射程に捉えたソロ・ワークも見事なUK出身の鍵盤奏者、ビル・ローレンスも見逃せない。

コリー・ヘンリーとビル・ローレンスのキーボード・バトルを捉えたライヴ映像。両者のソロ・ワークに関する記事はこちら
 

そして荒内の一押しは、アルゼンチン出身パーカッショニストのマルセロ・ウォロスキ。「(『Culcha Vulcha』のボーナス・トラック)“Jefe”で見せていた、素晴らしいソロ・プレイをきっかけに気になっています」とのことだが、世界中のビートを研究し、強烈なポリリズムを操る彼の演奏が、バンドの演奏に熱狂をもたらす。

「(アレンジも複雑なので)リスニング向きのライヴになるのか、もしくは足腰がガクガクになるくらい踊らせてくれるのか。気になります」とは荒内の弁だが、今年リリースされた2枚のアルバムを引っ提げての再来日は、世界中のフェスで圧倒的なステージを見せてきたスナーキー・パピーが、どのような進化を遂げたのかを確かめる絶好のタイミングと言えるだろう。

マルセロ・ウォロスキのソロ演奏をフィーチャーしたバンダ・マグダのライヴ映像
フロアの盛り上がりも映した2016年のフル・セット映像
 

最後にceroの近況を尋ねてみると、「年内に何かリリースできたらと画策中」で、現在はメンバー間で新曲を出し合っているところだという。先月末には、親交のあるトランぺッターの黒田卓也と一緒にNYでレコーディングしており、「その成果は秋頃にお届けできるかと!」とのことだ。8月にはcero主導の新イヴェント〈Traffic〉の開催も発表されているが、最近はベニー・シングスモッキーといった海外勢と積極的に共演し、リスナーの橋渡し役としても活躍している彼らが、スナーキー・パピーを前にどのようなステージを繰り広げるのかにも注目しよう。

ceroが2016年に発表したDVD『''Obscures''~Live at ZEPP TOKYO & Obscure Ride Tour Document~』に収録された“Wayang Park Banquet”のライヴ映像

 

Snarky Puppy Japan Tour 2016 

【東京公演】
日時/会場:6月16日(木)東京・赤坂BLITZ
共演:cero
オープニング・アクト:ミシェル・ウィリス
開場/開演:17:30/18:30
料金(税込/1D別):1階standing/7,000円 2階指定席/8,000円

【神奈川公演】
日時/会場:6月18日(土)神奈川・横浜ベイホール
共演:origami PLAYERS(mabanua、Shingo Suzuki、関口シンゴ、SWING-O. and more)
オープニング・アクト:ミシェル・ウィリス
開場/開演:16:00/17:00
料金(税込/1D別):7,000円

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