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武満徹

武満徹

タン・ドゥンによる《ジェモー》再演に注目!

 都会の夏を彩る、サントリー芸術財団によるサマーフェスティバルの季節がやってきた。今年は、サントリーホール開館30周年、作曲家・武満徹の没後20年を記念し、特別プログラム「国際作曲委嘱作品再演シリーズ」も用意されている。

 サントリーホールは、開館した1986年に武満を監修者として迎え、「国際作曲委嘱シリーズ」を始めた。武満は、複雑化する国際社会の中で、様々な価値観を持つ文化の存在を知らせ、音楽を通じて語り合う時間を設けることで、少しでも人間性が豊かになることを夢見ていた。そして、海外から作曲家を招き、オーケストラ作品を委嘱した。この企画は武満亡きあと、湯浅譲二、そして細川俊夫に引き継がれ、現在に至る。文化の成果は見えにくいが、杉山洋一のように、ここでブソッティと出会い、イタリアへ渡り作曲家・指揮者としての才能を開花させた人もいる。聴衆も、間違いなく育っているはずである。

 今回、再演されるのは、シリーズの第1回に初演された武満の《ジェモー》と、それに影響を受けて書かれ、シリーズの第17回に初演された、タン・ドゥンの《オーケストラル・シアターII:Re》である。

 タン・ドゥンはシリーズに招かれた1993年当時、まだ36歳だった。その後も武満の評価は変わらなかった。1996年、亡くなる2週間前にグレン・グールド賞を受賞した武満が、若い作曲家を選出する指名権を与えられて告げた名は、タン・ドゥンだった。

 武満とタン・ドゥンの作風は、異なるかもしれない。けれども、どちらの作品からも、根本的に人間を信じる強さが感じられる。発想の広大さも、似通っている(武満が少年期を中国で過ごしたからか)。また、彼らは同じキーワードを口にしている。愛、である。武満が未来に希望を託した作曲家は、時を超えて、パワーアップしながら夢の続きを紡いでいる。そうしたタン・ドゥンの手で、武満の大作がどう再現されるのか。それも楽しみの一つである。

 《ジェモー》は、全4部からなる音による恋愛劇で、生命の誕生と、時に相反するふたつのものが愛によって帰一し、死に至るまでが描かれる。タン・ドゥンの作品は、聴衆も参加し、ダイナミックな劇場空間が創出される。会場が一体感で包まれた初演を、覚えている方もあるだろう。

 初演当時と比べ、私たちの社会はより複雑化している。コミュニケーション・ツールとしてのインターネットは、手放せない。しかし一方で、人間関係は希薄になってきている。武満とタン・ドゥンの音楽は、いずれも音による呼び交わしがあり、心を通わせたコミュニケーションの上で成り立つ。そこに立ち会う人は、懐かしくも新しい、忘れられないひと時を過ごすこととなるだろう。 *小野光子

譚盾(タン・ドゥン) (C)Nan Watanabe
 

LIVE INFORMATION
サントリーホール30周年記念 国際作曲委嘱作品再演シリーズ
武満徹の《ジェモー(双子座)》
タン・ドゥン~Takemitsuへのオマージュ〈武満徹没後20年〉


○8/26(金)18:30開場/19:00開演  会場:大ホール
○曲目:武満徹(1930-96):ジェモー(双子座)(1971-86)-オーボエ、トロンボーン、2つのオーケストラ、2人の指揮者のための
譚盾(タン・ドゥン)(1957-):オーケストラル・シアターⅡ:Re(1993)-2人の指揮者と分割されたオーケストラ、バス、聴衆のための
武満徹(1930-96):ウォーター・ドリーミング(1987)-フルートとオーケストラのための 譚盾(タン・ドゥン)(1957-):3つの音符の交響詩(2010)
○出演:譚盾(タン・ドゥン)、三ツ橋敬子(指揮)荒川文吉(ob)ヨルゲン・ファン・ライエン(tb)スティーブン・ブライアント(B) 東京フィルハーモニー交響楽団