STILL FEEL GOOD
ニュー・アルバム『And The Anonymous Nobody』のかつてないヴァラエティー

間にポス&デイヴのコンビ作品『First Serve』(2012年)やJ・ディラのビートを使用したミックステープ『Smell The Da.I.S.Y. (Da Inner Soul Of Yancey)』(2014年)などはあったものの、オフィシャルな新作への期待がいかに潜在していたのかは、さまざまな反響の大きさが物語っている。クラウドファンディング・サーヴィス〈Kickstarter〉で60万ドル以上(!)の支援を集めて話題になったデ・ラ・ソウルのニュー・アルバム『And The Anonymous Nobody』がついに登場した。

DE LA SOUL 『And The Anonymous Nobody』 A.O.I./ソニー(2016)
今回はミュージシャンたちとリハーサルなしで取り組んだセッションの模様を録音し、そこからサンプリング・ソースを取り出す形でデイヴ・ウェストらと制作されている。オリジナルの演奏をネタ元にする作りは以前からヒップホップにとってポピュラーな手法ながら、往時のように気ままなサンプリングの成果を商業作品にすることが困難になった状況も睨み、キャリア30年のヴェテランも新たなメソッドに挑戦したというわけだ。
そんな新作の大きな特徴となるのは、幅広いフィールドから招いたゲストの顔ぶれ……なんて特に珍しくもないことのようだが、これまでもティーンエイジ・ファンクラブとのコラボ企画など外では幅広くリンクしつつ、自作は身近な界隈のメンツで固めるのが常だったデ・ラだけに、これは極めて異例のこと(昔はR&Bシンガーがフックを歌うことにすら抵抗を見せていた)。もちろんそんな意識の変化には、ゴリラズらとのコラボや大型フェス出演などで得た反応も作用したのだろう。
そのゴリラズのデーモン・アルバーンをはじめ、デイヴを自作に招いていたスウェーデンのリトル・ドラゴンあたりは頷ける人選。そこに大御所デヴィッド・バーンやダークネスのジャスティン・ホーキンスが並ぶのも自然に感じるが、逆にアッシャーや2チェインズは意外にも思えるコマーシャルな名前だ。さらにスヌープ・ドッグやピート・ロック、ジル・スコットにロック・マルシアーノ、エステルといった布陣は結果的に、まさに彼らが客演してきたゴリラズ作品にも近い雰囲気を想起させる。本人たちが思った以上にガシガシとラップしまくるわけではないのも印象的で、昨今のリスナー像に対して自覚的に親しみやすさを提示した一枚なのかもしれない。 *轟ひろみ