コラム

ギタリスト・鈴木大介が武満の〈歌〉に潜む多様性やひらめき炙り出す新アルバム『武満徹 没後20年記念 森のなかで』

ギタリスト・鈴木大介が武満の〈歌〉に潜む多様性やひらめき炙り出す新アルバム『武満徹 没後20年記念 森のなかで』

絶妙のリアリゼーションが最大限に引き出す武満徹の「歌」

 武満徹の『ソングス』のCDを2008年に制作した経験を持ちながら、私は五木寛之が作詞、ハイ・ファイ・セットが歌った《燃える秋》を長く、駄作と決めつけてきた。1979年に三越の岡田茂社長(当時)が10億円の巨費をつぎ込んで東宝に制作を依頼した映画の主題歌。第2回日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を授かり、「生前最大の印税収入を上げた」と言われるが、「本当はヒット曲を書きたかった」という武満の願望が、最も変な形で表れているように思えた。

鈴木大介 武満徹 没後20年記念 森のなかで BELLWOOD RECORDS(2016)

 ところが鈴木大介の武満没後20年記念新譜「森のなかで」に収められた同曲は様相を一変し、素晴らしい音楽に仕上がっている。自身で手がけた編曲について、鈴木は「最初に聞かれるタンゴは、実際武満さんのスコアではバンドネオンを含む小編成のタンゴ・バンドのスタイルで書かれ、ピアノの対旋律もかなり細かに書き込まれている。ギターへの編曲ではできるだけその雰囲気を残し、後半のハイ・ファイ・セットの歌で有名なメイン・テーマへとつなげた」と解説する。そう、「燃える秋」は映画全体の音楽の一部であり、タンゴに続く挿入歌だったのだ。

 「武満さんの映画音楽には、彼のコンサート・ピースには聴かれない、ポピュラリティーや異国情緒、思惟を結ぶことなく放っておかれた偶然性やインプロヴィゼイション、そしてなによりくっきりした輪郭と感応的な輝きを持つ掴み取りやすい構築のメロディが存在している」。鈴木が自身のソロ、あるいは松尾俊介とのデュオ、さらに村治奏一が加わったトリオのために行ったギター演奏用のリアリゼーションでは、そうした武満の“歌”に潜む多様性、ひらめき、意図的な俗っぽさがくっきり、あぶり出しの線画のように現れる。

 NHKドラマの『夢千代日記』(1981~84)で始まり、羽仁進監督の映画『不良少年』(1961)で終わる16のトラックのほぼ真ん中に最晩年の3つの小品『森のなかで』(1995)を置く構成は秀逸。「3曲は武満徹の生身の姿、すなわち演奏会用の作品と映像用の音楽とを包括的に反映した真実のポートレイトなのだ」という鈴木の言葉が、アルバムの意図を告げる。

 鈴木の演奏音源を聴いた武満は「今まで聴いたことがないようなギタリスト」と驚きを隠さなかった。死に至る病が2人の共同作業の機会を奪ったが、鈴木は以後20年、一貫して自身の武満観を深め、ジャンルを超えた共演者との挑戦を続けてきた。今年12月21日、東京・渋谷の東急文化村オーチャードホールでもアコーディオンのcoba、ギターの渡辺香津美、パーカッションのヤヒロトモヒロとともに「没後20年 武満徹の映画音楽」のライヴに臨む。

 


LIVE INFORMATION

没後20年 武満徹の映画音楽
○12/21(水)18:30開場/19:00開演 
会場:Bunkamura オーチャードホール
出演:渡辺香津美(g)coba(accordion)鈴木大介(g)ヤヒロトモヒロ(perc)
www.kajimotomusic.com/jp/

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