機械でもできることなんて大したことじゃない

――高松さんはいかがですか?

高松「土屋さんが関わってくれると、楽器はもちろんアレンジ面でも、魔法が起きたみたいに曲の雰囲気が変わっていくんですよ。それは本当に印象的だった。あと、音楽的に絶対の信頼を置ける人から客観的な意見をもらえたのは、すごく貴重な経験だったなと思いますね」

――acid androidとのコラボ企画について語った座談会で、〈高松くんはプロデューサーとして自分より厳しい〉といったことを土屋さんが言ってたじゃないですか(笑)。

高松「いやいや(笑)、そのときはまぁ……。ちょっと言い方が悪いんですけど、関係性がまだ薄かったというか、知り合ってそんなに経ってないときだったので。たぶん、いろいろ言いにくかったんじゃないですかね、僕とかにも」

一同「ハハハハハ(笑)」

〈acid android in an alcove vol.8 × THE NOVEMBERS PRESENTS 首〉でのTHE NOVEMBERSのライヴ映像
 

吉木「小林くんの話とも少し被りますけど、姿勢や音楽など、(自分たちが)こだわってなかったことに気付かせてもらえたというか。土屋さんは目的地に辿り着くまでの手法をいっぱい知っていて、〈こうしたら?〉といろいろ提案してくれる。なんかこう、プロデューサーとしての凄みがあるので、〈土屋さんがそう言うならやってみようかな〉という気持ちにさせられるんですよ」

――バンドでレコーディングする場合って、まずはドラムの音決めから始まるじゃないですか。そういった点でなにか勉強になったことはありますか?

小林「そこに関しては、エンジニアさんと昌巳さんが細かく打ち合わせしてましたね。このマイクでこうやって録ろうとか、この空気感を録るにはこうしたほうがいいとか」

――バンドは思い切り良く演奏しろと。それを俺たちがきちんとイイ音で録ってやるから、くらいの感じ?

小林「そうですね。あとはなにより、僕らはミスをせずに上手く演奏することがいいテイクだと思ってたんですけど、それは全部思い込みだったということも学んで。それは衝撃的でしたね。僕らがこだわって、〈ここをもっと上手に弾けたらいいテイクだったのに……〉とか話していると、〈それって感動となんの関係があるの?〉って昌巳さんは言うんですよ。僕らがミスらないで弾けたとしても、それが音楽のもたらす感動となんの関係があるのかって」

――ああ、なるほど。

小林「〈ジョイ・ディヴィジョンを聴いて感動しなかった? 彼らは別に巧くないけど感動したでしょ?〉って。巧さなんて格好良さとは関係ない、テクニックなんてそんなもんだよ、みたいなことをおっしゃってくれたんですよね。〈確かに、僕はみんなより何十年も長くギターを弾いてるから巧いよ。だけど、巧いから感動させられるわけじゃないからね。小林くんたちは、いまテイクであーだこーだ揉めてるけど、巧く弾けて本人たちは満足したとしても、それってそれだけのテイクなんじゃないの?〉みたいな」

ジョイ・ディヴィジョンの79年作『Unknown Pleasures』収録曲“She's Lost Control”のライヴ映像
 

――ミスしないで弾くのは当然の大前提で、その上のレヴェルを求めてるということですか?

小林「というよりは、僕らがミスだと思ってたものを〈そこがいいのに!〉と言われたんですよ」

――なるほど。

小林「〈グルーヴって人と人とのズレから生まれるものでしょ。ズレをなくすのは機械でもできるんだよ。機械でもできることなんて大したことじゃない〉とも言われましたね。僕らがこれまでミスやバグ、ノイズだと思ってたものは全部、だからこそ美しいし、宝物だと思わないとダメだよって。そういう視点を忘れちゃダメだという話で。音楽はすごく崇高なものだし、自分たちの科学では理解できない、人智を超えているようなところがある。だから、そういうつもりで接しないと、これまでみたいなチマチマした話で感動が削ぎ落されていって、機械でも作れるようなものばかりになっちゃうよ、と」

――なるほどねえ。

小林「本当に憑き物が落ちるような話でした。自分の下手さを嘆くより、いま持っている魅力がいかに尊いのかを真面目に考えたほうがいい。自分たちからしたらココはちょっと……と思うかもしれないけど、そこに感動している僕の気持ちはなんなの?みたいなことをおっしゃってましたね」

――それを言われて、納得できたわけですね?

小林「えっと、半分納得できるところと、まだちょっと……昌巳さんに僕らの良さを見い出してもらったけど、自分たちではまだ自信を持てない。その違いってなんだろうと。あの……やっぱり〈エゴ〉だったんですよね、悪い意味で。自己満足の最たるものというか」

――なるほど。

小林「あとは僕たち、(パソコンの)画面を見ながら作業することが多かったりするんですよね、波形とか気にしながら。でも昌巳さんは〈目を閉じて聴いてみたときに、本当に気になるんだったらやり直してみれば?〉と言うんですよ。(画面を)見ちゃってるからそう信じ込んでいるけど、波形なんて音楽の一解釈でしかないし、音楽そのものの姿じゃないよって。目を閉じればこの画面なんて意味がなくなるわけだから、それでも直そうと思うんだったらそうすれば、みたいな。だから、否定はしないんだけど試されてたんですよね、何もかも一つずつ」

――例えば、ここでミスしたからもう一回やり直したいなと思ったとするでしょう。でも、格好良いしグルーヴもあるし、いい演奏なんだからそれでいいじゃんと言われた時に、そう言われても、俺ミスしてるしなーという気持ちは残りませんか?

小林「もちろん、あからさまなミスもあるんですけど、なんて言うんですかね……。これはいままでだったらナシだったけど、こういう見方をすればアリなんだって。そういう見方自体を教わった感じですかね、うん」

――言ってみれば、自分たちがそれまで気にも留めてなかったような価値観を知って、視野が広くなったというか?

小林「視野が広くなったのと、こう、一度手にしてなんとなく馴染んじゃった手法とかも、もう一回疑ってみてもいいなと思えるようになった。本当にこれで合ってるのかな?と疑うことで、より自由になれるという」

――自分たちがルーティンとして何も考えずにやってきたようなことも、もう一度疑って見返してみたら新しい道や発見があったりする。

小林「まさに、そうですね」

 

昌巳さんと出会う前には戻れない、それが一番の弊害だった

――そのように土屋さんからいろんなものを受け取ったことを思えば、今回の『Hallelujah』でも土屋さんにお願いする手もあったと思うのですが、あえてセルフ・プロデュースという形になりましたね。

小林「それはバンドの11周年とうっすら関係しているんですけど、昌巳さんと『Elegance』を作ってツアーを回って、自分たちにもいろいろ成長できたという自負があったんですよ。あとは試したいアイデアとか、先のことを考えたときにワクワクするような何かがあった。そういう気持ちで11周年を迎えるにあたって、いまの自分たちが持っているものや、これまで手にしてきたものを出し惜しみしないで、〈これが俺たちの最高傑作だ〉と言えるものを残せたらという気持ちが湧いてきたんです。だからこそセルフ・プロデュースでいこうと。自分たちの力で出し尽くしたかったというか」

――土屋さんと出会う前も、ずっと自分たちでやってきたわけでしょ。土屋さんと出会う前のセルフ・プロデュースと、今回のレコーディングとで何が変わりました?

小林「むしろ、昌巳さんと出会う前には戻れないというのが一番の弊害でしたね。つまり、出会う前に戻ってさらに良いものを作ればいいんだったら、シンプルな話じゃないですか。そうじゃなくて、昌巳さんと出会ってしまったがために、いざ自分たちだけで音を決めたりフレーズを作ったり、和声をデザインしていっても、なんと言うか……〈土屋昌巳クォリティー〉とつい比べてしまうんです。昌巳さんならこんなに綺麗な音を作りそうだと思っても、いざ自分たちだけでやってみると全然作れなかったり。コードをいじっていても、昌巳さんは指一本で魔法みたいなことを起こしたのに、自分たちだけだとどこにも行けない、みたいな。できるようになったかもと思っていたことが、ほとんど何もできなかったんです」

――ええ~、そんなことないでしょう。

小林「いや、本当にそうなんですよ。昌巳さんがいなくなったことがこんなに大きかったのかというくらい、以前の自分たちのようには本当に行かなくなった。特に、僕はそうでしたね」

――高みを知ってしまったから、そのレヴェルに自分たちを再度持っていかないと納得できないんだけど、どうしても辿り着けないと。

小林「そうなんですよ! 美味しい鰹節を一度食べてしまうと、パックの鰹節が生臭く感じるじゃないですか。それと一緒なんですよ。俺、鰹節で人生経験したんだけど(笑)」

――ウチの猫に美味いものを食べさせると、舌が贅沢になって普段のドライフードを食べなくなるとか。

吉木「本当にそうだね(笑)! まったく一緒だよ」

――ハハハ(笑)。じゃあ、そのギャップに衝撃を受けてから、どう克服したんですか?

小林「アルバムが完成したいまだからこそ言えますけど、もうダメかなってちょっと思ったんですよね。いろんな気持ちがダメなほうに傾いていったり、いろんなものが重なって気持ちが折れかけていたんですけど、なんて言うんですかね……自分たちが昌巳さんのようにやろうとしても、いまは無理だろうという当然の結論に行き着いて。だったら自分たちがいま持ってるもの、いいなと思う良さとか美しさみたいなものを、徹底的に肯定しようと。いまの自分たちの武器はこれだ、俺たちはここが美しいんだって、みずから言えるようなものを改めて見つめ直すことにしたんです。背伸びするのをやめたというか。それで、さっきケンゴくんが言った〈スカッとしたものを作ったぜ〉という話に繋がるんですけど、自分たちがカッコイイと思うものを、自分たちが持っているもので、自分たちの力で徹底的にやるぞ、と。そうなった時に、〈俺たちは何を持っているんだろう?〉というところから(制作は)始まったんです」

土屋昌巳も『Hallelujah』にコメントを寄せている(詳細はこちら

 

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indigo la End presents 「インディゴラブストーリー vol.1」
2016年10月19日(水)東京・渋谷CLUB QUATTRO
共演:indigo la End 

11th Anniversary & 6th Album Release Tour - Hallelujah –
2016年10月23日(日) 栃木・宇都宮HEAVENS ROCK VJ-2
2016年11月11日(金) 東京・新木場STUDIO COAST
2016年12月17日(土)台北The Wall

FOREVER ※小林祐介ソロ出演
2016年12月3日(土) 東京・渋谷7th FLOOR
共演:麓健一波多野裕文

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Bang On! vol.25
10月21日(金) 21:00~22:00 タワーレコード渋谷店5F
THE NOVEMBERSが全員集合してトークの模様を公開生配信!
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