井上道義と新日本フィルの武満徹が復活、大竹しのぶも参加

 私が最初に聴いた武満徹の音楽の実演は1975年9月1日、FM東京が新宿の東京厚生年金会館大ホールで主催した小澤征爾指揮新日本フィルハーモニー交響楽団の特別演奏会における《カトレーン》の世界初演だった。時に武満45歳、小澤40歳、独奏を担ったアンサンブル・タッシのリーダー格のピーター・ゼルキン(ピアノ)28歳、ついでながら、高校生だった私は17歳。みんな若かった。

 FM東京の委嘱作《カトレーン》への思い入れは強く、後に新日本フィルと日本人独奏者たちによる再演も、生放送で行った。その時の指揮者が井上道義。小澤は生誕100年に当たったラヴェルの管弦楽曲を後半に演奏したが、井上は勅使河原宏監督の《ホゼー・トレス》はじめ、武満の“もう1つの顔”である映画音楽と組み合わせ、新鮮な印象を与えたのを覚えている。

 今でこそマーラーショスタコーヴィチの名指揮者のイメージが強い井上だが、1977~82年にニュージーランド国立交響楽団の首席客演指揮者を務めていた時期は、日本の作曲家を世界に広める意気にも燃えていた。NHKのFMで放送されたNZ国立響との外山雄三の《管弦楽のためのラプソディー》などの名演は、今もマニアの間で語り草だ。

 その井上が《カトレーン》《ホゼー・トレス》を携え、新日本フィルの指揮台へ戻ってくる。2017年1月26日、東京・サントリーホールで開かれる第568回定期演奏会だ。

 14年に大阪フィルハーモニー交響楽団首席指揮者に就いた直後、喉頭がんを発病したが、治療に成功して半年で復帰。06年に還暦を迎えた折は「生まれ変わったのだから、もう一度、暴れてやる」との怪気炎に圧倒されたものの、見事なショスタコーヴィチ全曲演奏をやり遂げた。がん復帰後は作曲家の内面を見つめる視線がぐっと深みを増し、持ち前の企画力の幅も広がった。その時点での、武満回帰。果たして、冒頭に武満少年が音楽を目指すきっかけとなったシャンソン、《聞かせてよ、愛の言葉を》を蓄音機で再生する一方、ベトナム戦争への反戦歌として谷川俊太郎が詩を書いた《死んだ男の残したものは》の歌手には、強烈な歌唱力の持ち主でもある女優の大竹しのぶを起用した。

 さらにデビュー作の《2つのレント》《3つの映画音楽》、「4」を意味する《カトレーン》(独奏はコンサートマスターの崔文洙をはじめとする新日本フィル楽員)、「5」にまつわる《鳥は星形の庭に降りる》など、数字を伏線どころか前面に掲げた選曲もマニアックだ。自ら語りも引き受けるというから、何が飛び出すかわからない面白さがある。

 


 

LIVE INFORMATION

新日本フィルハーモニー交響楽団
第568回定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉
井上道義指揮/オール武満徹プログラム

○2017年1/26(木)18:15開場/19:00 開演 
曲目:シャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」(蓄音機での再生)
武満 徹:死んだ男の残したものは
武満 徹:2つのレント(抜粋)
武満 徹:リタニ - マイケル・ヴァイナーの追憶に -
武満 徹:弦楽のためのレクイエム
武満 徹:グリーン
武満 徹:カトレーン(オ-ケストラ版)
武満 徹:鳥は星形の庭に降りる
武満 徹:訓練と休息の音楽 −『ホゼー・トレス』より−(3つの映画音楽)
武満 徹:ワルツ −『他人の顔』より−(3つの映画音楽)
出演:井上道義(指揮・お話)大竹しのぶ(歌)木村かをり(p)崔 文洙(vn)重松 希巳江(cl)富岡 廉太郎(vc)
会場:サントリーホール
www.njp.or.jp/