次代を描く瑞々しいシンガー・ソングライターがデビュー!

 瑞々しさと鋭さを同時に響かせるアコースティック・ギター、ブルージーさとポップネスを自然に内包したメロディー、そして、衝動、焦り、不安、希望といったアンビヴァレントな感情を同時に響かせるハスキー・ヴォイスが強く心に響く。初めて聴いたときは〈和製ジェイク・バグ〉という言葉が頭に浮かんだが、そんな枠にはとても収まりそうにない。

 8月に行われた〈未確認フェスティバル 2017〉でグランプリを獲得した17歳のシンガー・ソングライター、リツキ。小5の頃からギターを弾きはじめ、ゆらゆら帝国、フリッパーズ・ギター、andymoriなどバンドの音楽に親しんできたという彼は、高校1年のときに自作曲を作りはじめ、バンド・メンバーを探す。〈未確認フェスティバル 2017〉にもバンドで出演するつもりだったが「応募の1か月前にメンバーが〈体育祭の準備で忙しいから〉とバンドを抜けてしまって、しょうがなく弾き語りで出ました」という。

 「めざしたいバンドのイメージがあって。ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』のなかに、主人公たちがジャズ・バーに行く場面があるんですけど、あの感じをわかる人とバンドをやりたいんです。即興性があって、自分の衝動がダイレクトに音、メロディー、疾走感に繋がっていて。音楽なんだけど哲学的、文学なところもあって、理想とか頂点に向かっている雰囲気というか。そういうものを体感できるような音楽をやりたいです」。

リツキ DAWN TO YOUTH eggs(2017)

 結果的にバンドではなく、シンガー・ソングライターとして出発したリツキだが、彼のめざす音楽のヴィジョンは、全曲アコギの弾き語りによるデビュー盤『DAWN TO YOUTH』からも強く感じ取ることができる。鋭利で衝動的なギターのストロークと共に〈そろそろ時間だろう 家を出ようあの理想郷へ〉と叫ぶように歌う“偏見”、80年代UKネオアコの凛とした空気を想起させる“角で会いましょう”、軽やかさと憂いの共存したメロディーが印象的なロックンロール“スコットランド・ダンス”、沈み込む感情を写実的に描いたスロウ・ナンバー“笑顔のイデア”――これら4曲から伝わってくるのは、衝動と音楽が直接結びついているという確かな手応えだ。

 「自分が聴きたい曲を作っている感じなんです。好きなバンドの曲を聴いていても、最初から最後まで〈最高!〉ということはあまりなくて、ここのメロディーは好きじゃない、とか、前奏が長すぎる、みたいなことが多い。歌詞にも作った人の状況が影響しているから、自分に完全に当てはまることはないし、そういう曲を歌ってもあんまり楽しくない。だったら、自分で理想の曲を作ってみようと思ったのがきっかけですね」。

 〈昨日と今日と憂鬱の訳を探しているだけ〉(“偏見”)など、まるで欧米文学の翻訳のような味わいがある歌詞もリツキのソングライティングの特徴だ。好んで読んでいるというサリンジャーやトルーマン・カポーティなどの影響もあるかもしれない。いずれにしても自分の感情、思いを日記のように書き綴るのではなく、〈詩〉として成立させようとしていることは確かだろう。

 「抽象的な歌詞のほうが好きなんです。自分が聴いてイヤじゃない程度には具体的なことを書くこともあるけど、自分のなかのイメージにぴったりくる言葉を探しながら書いていることが多いですね」。

 現在、高校2年生。「大学に進学して、焦らずにライヴをやっていこうと思っています。普通の生活をしながら音楽を作っていたほうが良い気もするし、将来、音楽でやっていける自信もないので」と照れたように話すリツキは、急激に注目を集めている現在の状況に戸惑っているようにも見える。彼がどんなミュージシャンになっていくのかは、まだ誰にもわからない。しかし『DAWN TO YOUTH』を聴けば、ここに素晴らしい原石が存在していることを確信してもらえるはずだ。ギターと歌だけで新しい時代を呼び寄せる、凄まじい才能の登場である。