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昔といまでは全然違う

 もっとも、50が以前と何も変わっていないかというとそんなことはなく、この4年半の歳月は彼の内面にひとつの大きな変化をもたらしている。今年1月、50はあの悪名高い“Piggy Bank”(2005年)で徹底的にコキ下ろしたファット・ジョーと共演してファンを驚かせたが(DJケイ・スレイ“Free Again”参照)、今回のアルバム中の“Irregular Heartbeat”ではやはり“Piggy Bank”の攻撃対象のひとりだったジェイダキスとのコラボが実現(彼とは2010年にすでに“Dump”を録音しているが、今回はいっしょにスタジオ入りもした模様)。さらに“Chase The Paper”ではジェイダキスが所属するロックスのスタイルズPをゲストに招くなど、かつて繰り広げた確執を解消する動きに転じているのだ。

 「ヒップホップにはライヴァル意識から生まれるバトルが存在する。時にはそれが喧嘩に繋がることだってあるさ。そういうことは、俺がヒップホップに夢中になったときからずっとカルチャーの一環として存在していた。ジェイダキスに限らず、ロックスのメンバーとは実際喧嘩になるまで揉めたことはないんだ。アーティスト同士が互いのスキルを競い合っているのを確執と勘違いされるのはよくあることだ。まあ、確執と受け止められても仕方がないけどね。で、後になって曲を聴き返してみると〈何でこんなにいがみ合っていたんだ?〉ってことになる。相手を嫌いになる正当な理由がないから、こうして普通に共演できてしまうんだ」。

 この流れで言及しておくと――インタースコープからの離脱はすなわちドクター・ドレーのアフターマス、そしてエミネムのシェイディとも袂を分かつことを意味するが、ドレーのプロデュースする“Smoke”がアルバムに収録されていることからもわかるように、この三者間に確執はなく協力体制は今後も継続していくとのこと。2014年中にはリリースされるという『Street King Immortal』ではきっと、ドレーのビートはもちろんエムのヴァースも聴くことができるだろう。

 「『Street King Immortal』はデビュー・アルバム『Get Rich Or Die Tryin'』(2003年)に近い。恐らく、あれよりもさらにパーソナルな内容になる。俺はいまの自分の視点から語ったものをみんなに提供したいと思ってる。若いときは何をやるにも勢いが物を言うけど、それは大人になってから責任を取れるものじゃない。歳を重ねると共に、いろいろなことが理解できるようになるんだ。だから、昔といまとでは制作のプロセスも全然違う。『Get Rich Or Die Tryin'』があれだけ生々しかったのは、自分の体験をそのまま言葉にしているからだ。でもいまは、自分なりにテーマやコンセプトを設けることで作品と向き合っているよ」。

 やっぱり、50がいるのといないのでは大違いだ。ブラック・ヒッピー勢との意外な親交の深さ(『Street King Immortal』の先行シングルとして昨年3月にリリースされた“We Up”にはケンドリック・ラマーが参加していたほか、『Animal Ambition』のデラックス・エディションにはスクールボーイQの客演した“Flip On You”が収録。また、50が2010年に敢行した北南米ツアー〈The Invitation Tour〉にはオープニング・アクトとしてジェイ・ロックが同行していた)もおもしろい展開が期待できそうだし、2014年のダークホースになるのは案外この男なのかもしれない。 

ケンドリック・ラマーが参加した2013年のシングル“We Up”

 

▼『Animal Ambition』参加アーティストの作品を一部紹介

左から、スタイルズPのニュー・アルバム『Phantom And The Ghost』(D Block)、トレイ・ソングズの2012年作『Chapter V』(Atlantic)
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