クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けているジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に長く身を置きながら、NHORHMとしてへヴィメタル・カヴァー盤をリリースし、BABYMETALへの並々ならぬ愛をつづった記事でMikikiの年間アクセス・ランキングの首位を獲得するなど、メタル愛好家としても知られる彼女。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置から、近年再び盛り上がりを見せるへヴィメタルを語り尽くすのが本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉です。お陰様で大大大好評をいただいています!
第4回となる今回は、メタル・シーンでギター・ヒーローと崇められながらもジャズ/フュージョン界にも身を置く米・カリフォルニア出身のギタリスト=アレックス・スコルニックを、西山氏ならではの視点で解説します。 *Mikiki編集部
今回は、大好きなギタリスト、アレックス・スコルニック(Alex Skolnick)の紹介を書こうと思います。
このギタリストは、アメリカのスラッシュ・メタル・バンド、テスタメント(Testament)のギタリストです。
テスタメントは、キャリアの長いバンドで、89年発表のアルバム『Practice What You Preach』は、メタル史の中でも名盤ですし、私もよく聴きました。ソリッドで強力に前進するサウンドで、これぞスラッシュ・メタルというべき、攻撃力のあるバンドですね。
2年前に、最新作『Brotherhood Of The Snake』(2016年)をリリースしましたが、もうこれが素晴らしくて、最新作にして最高のアルバム。今が一番格好良いんじゃないでしょうか。昔からリフの作り方に個性があって、速いし攻撃的なのに耳に引っ掛かる癖の強いリフが多いイメージなのですが、さらに進化して現代的な音になっています。成熟しているけれど、よりハードコアに、ストロングに。本当格好良いです。2017年の来日ツアーは、私は残念ながら行けなかったのですが、行った人たちが滅茶苦茶盛り上がっていました。
アレックス・スコルニックはこのテスタメントのリード・ギタリストで、世界的に有名なギター・ヒーローの一人なのですが、実はジャズ・ギターにおいても大変に優れた人なんです。私はジャズ・ギタリストとしてのスコルニックも大好きで、ジャズのリーダー・アルバムもほぼ全部聴いています。
92年にテスタメントを脱退してから(2005年より復帰)、ニューヨークにあるジャズの名門ニュー・スクール大学に入って、ジャズ・ギターの勉強をしていたそうです。その後、アレックス・スコルニック・トリオ名義で、ジャズ・アルバムを沢山発表していて、それが大変素晴らしいんですね。
どうせメタルのギタリストの余芸でしょ、なんて思っていたら、驚きますよ。一級品のコンテンポラリーなギター・トリオです。ギター・プレイも、トラディショナルなアプローチから現代的なアプローチまで、ジャズ・ギターの歴史を踏まえつつ、メタルのギタリスト本領発揮のプレイもあって、メタル・ギター・ヒーロー好き且つジャズ・ピアニストの私にとっては、夢のようなプレイヤーです。
バンドは固定メンバーで、ベースはネイサン・ペック(Nathan Peck)、ドラムはマット・ゼブロスキ(Matt Zebroski)、とても良いトリオです。
そのスコルニックがリリースしてきたジャズ・アルバムでは、有名ロック曲やメタル曲のカヴァーが主に演奏されています。演奏もアレンジも現代のジャズに換骨奪胎されていて、メタラーにもジャズ・ファンにも聴かれるべき、素晴らしい内容なんですよ。
最初のジャズ・アルバムは、『Goodbye To Romance: Standards For A New Generation』(2002年)。キッスやスコーピオンズなど、メタル曲のカヴァーが中心です。
アメリカのジャズ専門誌・ダウンビートでも高評価を得たそうですが、特に“No One Like You”(スコーピオンズ)のアレンジがとても良いです。まるでジャズ・ギターのための曲みたいですよ。スコルニックがオクターブ奏法をしているだけで、悶絶します。ヨーロッパ盤のボーナス・トラックに、この曲のライヴ録音が入っていますが、ジャズは何といっても、ライヴでのその日限りのインタープレイ。ライヴ演奏を聴くと、この人がメタルを弾いているとは思えない演奏です。
このアルバムに収録されている“Dream On”(エアロスミス)のアレンジも好きですが、2016年にリリースしたライヴ盤『Live Unbound』にライヴ・ヴァージョンが収録されていて、そちらの演奏が、それはそれは素晴らしいです。
続いて『Transformation』(2004年)。こちらも、“Highway Star”(ディープ・パープル)など収録されています。
“The Trooper”(アイアン・メイデン)はNHORHMでもアレンジできないかとトライしていて、でもどうしてもこのリフはピアノで弾くとダサくなってしまうので諦めていたのですが、スコルニックのヴァージョンは、ジャズ・ギター・トリオの格好良さが詰まっていて、これはずるい……反則だ! ギターでやったら格好良いに決まってるやん! しかも、本物のメタル・ギタリストだし!
『Last Day In Paradise』(2007年)の“Tom Sawyer”(ラッシュ)も良いんですよね。このカヴァー、原曲の大事なエッセンスが一つも抜けることなく、ジャズ・アンサンブルとしてワークするように組み込まれていて、素晴らしいアレンジです。
残念ながら、日本では大きく流通がないのですが、かの有名なテスタメントのギタリストで、しかもこの内容だったら、ジャズ方面でも取り上げられてもいいのでは、と、いつも思います。
紹介したこれらのアルバムは、輸入盤がショップで買えますが、ダウンロードでの販売もありますので、ぜひチェックしてみて下さい。
今年秋には、新作『Conundrum』がリリースされるとアナウンスがありました。リリース・ツアーもするそうですが、いつかジャズ・サイドのスコルニックを日本で観てみたいものです。ジャズでも来日希望!
アレックス・スコルニックのオフィシャルサイト
http://alexskolnick.com/
PROFILE:西山瞳
1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。
以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。
2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。
Live Information
7/20(金)神奈川・横浜 上町63(tel 045-662-7322)
西山瞳piano 吉野弘志bass 池長一美drums
7/22(日)東京・小岩 Cochi(tel 03-3671-1288)
西山瞳piano Maiko violin
7/25(水)東京・小川町 Lydian(tel 03-5244-5286)
西山瞳pianoソロ
7/31(火)東京・大泉学園 in F(tel 03-3925-6967)
西山瞳piano 小美濃悠太bass 則武諒drums