那智勝浦の自由人、ギターに音楽への気持ちを込める
とびきりお洒落でピースフルなギター・インスト・アルバムである。
繊細なフィンガー・ピッキングで綴られるオールドタイミーなラグタイム・ナンバーから、スライドギターが縦横無尽に駆け巡るファンキーなブルース、じっくり聴かせる“テネシー・ワルツ”からエリック・サティの“グノシエンヌ1番”まで、幅の広いカヴァーのレパートリー。ブルースの一言では括れない。世の中の概念にとらわれない自由な空気感に、心が休まる。
「僕はクラシック音楽も大好きで、サティのほかにショパンのワルツを演奏したこともあるけど、名曲というのはシンプルで、いつ聴いても新鮮で、そして何より聴く人を気持ちよくさせるものだと思いますね」
濱口祐自は、黒潮と熊野の森に抱かれた和歌山県は那智勝浦町の出身。そして、現在も勝浦を拠点としている。飄々として、あくせくしたところがなく、そして還暦を間近に控えているとは思えないほど、声が若々しい。加えて、好きなアーティストや音楽の話になると、もう止まらない。丸出しの和歌山弁。気持ちのいい人だ。
さて、アルバム制作のきっかけは、本作のプロデュースを務めた久保田麻琴に〈発見〉されたこと。
「YouTubeにアップされている僕の動画を見たみたいで、突然電話がかかってきたんですよ。話しているうちに〈あぁ、あのサンセット・ギャングの人か〉と。その後、電話のやりとりをしているうちに、レコーディングをしませんかということになって、久保田さんが機材を持って熊野まで来てくれたんです。それから何回か録音をして気づいたらCDを出す話になっていました(笑)」
昨年秋には録音の合間に渋谷のサラヴァ東京でライヴも行い、早くもコアな音楽ファンのハートを掴んでいる濱口。彼がギターと出会ったのは、小学生の頃。
「隣に住んでた四つ上の兄さんがウクレレをやっていて。ウクレレの高音の3本の弦って、ギターと同じでしょ? その3弦で“禁じられた遊び”とか練習していたんですよ。その後、一緒にギターを買いに行ったのを憶えてえていますね」
そして、19歳の時にブルースと出会う。
「B.B.キングの演奏を見てすごいなぁ、と思って。後にミシシッピ・ジョン・ハートや、ステファン・グロスマンのフィンガー・ピッキングに惹かれましたね。東京の大学に入ってサッカー部に入ったんですけど、夏の合宿の時にもギターを持って行って練習していました。一日十時間くらい練習してましたね。今思うと、そんなのよく許されたな、と思いますけど(笑)」
大学卒業後は、マグロ漁師である父の生業を継がず、自由に生きることを選択。
「それでも一回くらい乗っておかないと」と遠洋マグロ漁船に乗って立ち寄ったパブアニューギニアで買い集めた現地のカセットテープ、また、70年代末に渡米して触れた最盛期の西海岸の空気。さまざまな体験が、濱口の音楽観を広げていく。1985年から97年まで、自ら林に分け入り採ってきた竹で古い民家を改造したクラブ〈竹林パワー〉を経営しながら演奏活動も始めた。実は竹を扱わせてもプロ級の濱口。インタヴュー場所には自作の竹スピーカーが置かれ、ギターを見せてもらうと、ピックガードの補強など、ところどころに竹が使われていたのが印象的だった。
最後に、アルバムの聴きどころを。
「フィンガー・ピッキングとか、自分のスタイルに影響を与えてくれた先人達へのリスペクト、そして、ライ・クーダーからも感じるんだけど、曲を慈しむ気持ち。〈この曲が好きだ〉という想いを全曲に込めました。そうしたところがリスナーにも伝わるといいな、と思いますね」
音楽を愛する気持ちと、自由な精神が生んだアルバム。こんなアルバムを作れる濱口祐自は、やはり若い。
LIVE INFORMATION
「濱口祐自 From KatsuUra」Release 記念LIVE
2014年6月25日(水)19:30開演 東京都・渋谷 WWW
出演:濱口祐自/Black Wax
Special guest : Damião Gomes de Souza
Live mix by 久保田麻琴
濱口祐自 LIVE
2014年7月22日(火)愛知・名古屋 みのや北村酒店
開演:19:30
2014年7月23日(水)京都・coffee House 拾得
開演:19:00
2014年7月24日(木)大阪・難波屋
開演:19:00
2014年7月26日(土)徳島・バーアンドLIVE 寅家
開演:19:00
2014年7月27日(日)愛媛・松山 スタジオOWL
開演:19:30
2014年7月28日(月)和歌山・LIVEHOUSE OLDTIME
開演:19:30