沖縄民謡の立役者、大城志津子を歌い継ぐ
艶やかな声で、沖縄の島唄を歌う。石川陽子のデビュー作『三味の喜び』は、「師匠である大城志津子さんの歌をもっと知ってもらいたい」という、師匠が引退前の最後の弟子の切望が制作のきっかけになった。
「師匠は、独学で三線を学び、その技術の高さは、沖縄随一です。今現役で活躍していらっしゃる有名な演奏家の中にも、師匠に習われた方がいます。作曲も多くしていて、その曲を私が工工四(楽譜)どおりに弾こうとしても同じ曲にはならない。譜面にない独自の音を挟みこむのが師匠の個性で、教えてもらわないとわからないんですよね。住み込み時代、弟子は私ひとりだったので、一対一で厳しく教えられました」
アルバムは、大城志津子のオリジナル曲とデビュー曲《朝花》などの民謡で構成されている。いずれの曲も「師匠に相談することなく、私が歌いたい歌を選びました」と笑うが、冒頭で聴けるのは石川陽子の唯一のオリジナル曲だ。師匠に捧げるために書かれた、その新曲《大木カジュマルや》は、島太鼓や三板の伴奏、お囃子が入る他の収録曲とは異なり、三線の弾き語りのみのシンプルな演奏で、彼女の想いがじんわりストレートに伝わってくる曲になっている。
「レコード会社の方からアルバムへの想いをこめて、自分の言葉で歌詞を書き、ぜひ曲を作って下さいとアドバイスをもらって、初めて書きました。ウチナーグチの歌詞は、言葉の流れが大切で、そこが難しかったのですが、今後も頑張って書いていきたいと思います」
大城志津子をガジュマルの大木に喩えた《大木カジュマルや》をはじめ、全ての歌詞がウチナーグチ。沖縄出身以外の人が理解するのは難しいけれど、濃厚な情感が薫る、音楽的な言葉だとあらためて思う。小学生4年生まで那覇と宜野湾で育ち、その後大阪に移住した彼女は、祖母が経営する沖縄料理店で流れる民謡や、師匠と先輩の会話を聞いてウチナーグチを覚えたという。その先輩のうち、同じ門下生でもある喜久山節子、金城恵子らがレコーディングに参加している。
「ウチナーグチは、言葉の抑揚、イントネーションで意味が変わってしまうので、喜久山先生にはスタジオでそこを厳しく指導されました。私にはこう歌いたいと思うところはあったのですが、先生は、私以上にCDを出すことの影響力に責任を感じてくれたようで……」
師匠の教えは、「歌も三線も語るように奏でるのが大切」というもの。それを守りつつ、「風景が浮かんでくるような歌を歌っていきたい」と言う。
23歳で沖縄に帰郷して十数年。CDデビューしたことで、新たな道が拓け、国内のみならず、海外にも沖縄の歌を届けることが今後の目標に加わったようだ。
LIVE INFORMATION
「三味の喜び」リリース記念コンサート
○9/29(土)18:30開演 会場:那覇 桜坂劇場ホールB
○10/19(金)19:00開演 会場:東京 南青山MANDALA
TOWER RECORDS INFORMATION
アルバムリリース・ミニライブ
タワーレコード 那覇リウボウ店
○9月8日(土)14:00~
tower.jp/store/kyushu_okinawa/NahaRYUBO