武満徹の生涯を圧巻の網羅性と詳細さで紡ぐ、1000ページ超の大年代記!

 1948年、ピエール・シェフェールが世界初のミュージック・コンクレート作品《5つのエチュード》を発表し〈電子音楽〉が産声をあげた。つまり今年2018年は電子音楽70周年という節目に当たるわけだが、この年を祝福するにふさわしい書籍が誕生した。「日本の電子音楽」(2006)から12年、電子音楽研究の第一人者、川崎弘二氏の待望の最新刊が発刊。そのテーマは武満徹。

川崎弘二 武満徹の電子音楽 アルテスパブリッシング(2018)

 武満徹が日本現代音楽発展に如何に貢献したかは今更語るまでもない……。本当にそうか? 本書より以前に、ここまで詳細に武満徹を語った書籍がかつてあっただろうか?

 月並みな感想だがまずその体積に驚かされる。1000ページを優に超える情報量。注釈や索引の充実具合も目を見張るものがあるがそれを差し引いても凄まじい量の文章に圧倒される。しかも内容の充実具合、即ち密度も尋常ではない。本書は年代記の構成をとっているが、武満徹が電子音楽を着想した(奇遇にもシェフェールの作品発表と同じ)1948年から没する1996年まで48年間の歴史を纏めている。たった1年間に平均20~40ページも割き、作品・演奏会からインタヴューなどありとあらゆる活動を詳細に記している。そこに用いられた一次資料の量たるや、これはもはや執念の域である。

 〈電子音楽〉と銘打ってはいるものの、彼の作品全てを網羅して解説している。しかし根底に電子音楽というテーマが横たわっており、これはこの作曲家の着想が常に“新しい音や技術”に向けられているということを物語っている。映画音楽や放送作品・舞台に付される音楽にも具体音を起用したり電子音楽的発想の処理を施すなど、無数の仕事の中にそれは確認できる。また純電子音楽作品の解説にも力が入っており、比較的人気な作品《ヴォーカリズムA・I》の項でも譜例から鑑賞者の批評に到るまで驚くべき網羅性で語られている。

 これだけの体積×密度という情報の膨大さに興奮を禁じ得ないのは僕だけではないはずだ。