クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けているジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に長く身を置きながら、HR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト・NHORHMの新作ではデーモン閣下と対談し、BABYMETALへの並々ならぬ愛を綴った記事でMikikiの年間アクセス・ランキングの首位を獲得するなど、メタル愛好家としても知られる彼女。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置からへヴィメタルを語り尽くすのが本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉です!

第7回となる今回は、待ってましたのBABYMETAL回。先日西山氏が足を運んだ〈BABYMETAL WORLD TOUR〉のレポートと共に、YUIMETAL脱退と新曲“Starlight”への想いの丈をたっぷり、お届けします。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


2018年10月23日、〈BABYMETAL WORLD TOUR 2018 in JAPAN〉の一日目、幕張メッセ・イベントホールの公演に行ってきました。

★昨年と一昨年の様子を記した西山瞳のブログ記事
2017年:〈BABYMETAL 巨大キツネ祭りin JAPAN〉1日目@さいたまスーパーアリーナ
2016年:〈BABYMETAL WORLD TOUR 2016 LEGEND -METAL RESISTANCE- RED NIGHT〉@東京ドーム

公演直前の10月19日に新曲“Starlight”の発表があり、それを聴きはじめると同時に目に飛び込んできたのが、〈BABYMETAL新体制についてのお知らせ〉。

この1年体調不良でステージに現れなかったYUIMETALの、BABYMETAL脱退のお知らせでした。

たまたま、“Starlight”を初めて聴くのと同時に読んだので、曲の示すものとリンクして、なぜか涙が止まらなくなりました。

もうあの三人の姿をステージで見ることができないのか、という悲しみ。

彼女の意志を尊重して送り出し、新たな出発をしようとしているチームBABYMETALの決意のMV。

個人的には、しばらく欠席だったYUIMETAL本人のメッセージがやっと発表されて、何というか少し安堵もしました。

 

そもそも私はBABYMETALを聴きはじめた2014年時点では、YUIMETALとMOAMETALの区別がつかなかったのですが、その区別がついた時がPoint of no Returnですよ。

SU-METALの圧倒的カリスマ感と対比するYUI&MOAは、圧倒的可憐さ。その2人それぞれの笑顔にどれだけ心を押されたでしょうか。もう2人とも本当に愛おしくてですね、なんて素敵なバランス、なんて素敵な三人の組み合わせなんだろうと、神バンドのメタル・サウンドと、SUとYUIとMOAで、これ以上ない完璧な黄金比だと思っていました。

その1人が欠けるとなると、本当に残念だし、3人一緒のステージはもう観れないのかと思うと、何かが過ぎ去ったような気分にもなりますが、これだけ素晴らしい感動を世界中に与えてくれた彼女たちには感謝していますし、これからのBABYMETAL、これからの水野由結ちゃんを、応援したいと思いました。

気持ちは複雑ですけど、彼女とチームBABYMETALが選んだことですしね。

 

そんな気分で迎えた10月23日幕張。

この日は、新体制の一発目となる〈BABYMETAL WORLD TOUR 2018 in JAPAN〉一日目です。

若干不安と緊張に包まれた会場。私はスタンド席からの観戦です。

先に演奏したGALACTIC EMPIREは、私は〈スターウォーズ〉も大好きなので、とても楽しみにしていました。

〈スターウォーズ〉を全然観ていない人もいますし、新体制への不安と期待の入り交じったテンションの方も多かったのでしょうね、GALACTIC EMPIREが登場した時、立って聴こうとしたんですが、周りが誰も立っていなかったので、座ったまま鑑賞。おかげで、じっくり聴くことができました。けれど、〈スターウォーズ〉ファンとしては、アレンジと芸の細かさに拍手! “Cantina Band”の時に飛んでいたバルーンは、デス・スターのデザインだったんでしょうか。

GALACTIC EMPIREのパフォーマンス映像
 

そして入れ替わり、ついにBABYMETAL。

BABYMETALが始まると…

ステージに、7人いる!

 

The Chosen Seven〉というのは、正式に7人体制になるということなのか!、

いや想像はしていたけど本当にこれから7人でやるのか?、

驚きました。

7人並んでの1曲目は、ヴィジュアルの圧がすごくて、非常に格好良かったです。より儀式感が増したというか、荘厳なステージがこれから始まるのか……と、マンガみたいにゴックンと唾を飲み込みましたよ。

そして、SU-METALは以前から存在感すごかったですが、さらにカリスマが尋常でないことになっている……

メイクがそれまでの可愛いメイクから、囲み目の暗いメイクに変わっていたので、眼力がより強化されているのか、そもそも経験値アップのため戦闘力爆上げのオーラが凄いことになってきているのか……

ひれ伏すしかない圧倒的なカリスマでした。

 

そして、MOAMETALを探すのですが、7人ともアイメイクが濃いため、どの人も同じように見えて、MOAMETALはどこだ……?と目で追うことしきり。

段々慣れてきて、マイクを付けているのがMOAちゃんだとわかりましたが、じゃあ逆サイドにいるのはどんな子だ……?と、メンバーの顔を追うのに必死でしたよね。

たぶん同じように、最初のうちは〈まさかの7人体制だ〉、〈どこにMOAMETALがいる?〉、〈新加入はどんな人だ?〉と、多くの人が思ったのでしょう。満員の幕張は、個々の戸惑いが人の数だけ増幅されている感じもしました。

それも、会場全体で段々と慣れてきた感じがありました。

というか、チームBABYMETALが〈これが新体制だ!〉と、舞台上で声高らかに宣言してきたので、慣れるしかなかった。

 

新曲“Starlight”は、生で聴くと、本当に素晴らしかったです。

SU-METALのまっすぐな高音の伸びが心地良く、天を照らすようで、ステージ照明とも相俟って、異次元との架け橋のようでした。

また、YUIちゃんのことを思って、涙ぐんでしまいました。これは鉄板の曲になっていくんでしょうが、私にとっては今後いつ“Starlight”を聴いても、YUIちゃんのことを思い出す曲になるんだろうな、と思います。

 

名曲“THE ONE”が始まると、ステージも最後だなと思うわけですが、今回は時間が物凄く短く感じました。えっ、もう終わっちゃうの?と。

普段もBABYMETALのコンサートは時間は短めなんですが、散々待ったから短く感じたんでしょうね。(“THE ONE”の新しいアレンジは、個人的には前のほうが好きでしたね。)

2016年作『METAL RESISTANCE』収録曲“THE ONE”
 

この体制、受け入れることができない人もかなりいらっしゃるんじゃないかな、とも思いました。

私自身は、肯定派でも否定派でもなく、BABYMETALのメタモルフォーゼをただひたすら見届けたいと、そういう感じです。

しかし、7人になったことで、〈SU、YUI、MOA、神バンド〉という、長年親しんできた黄金比が崩れてしまって、ステージ中に見るところが散漫になりました。神バンドのパフォーマンスも含めて好きだったので、ステージ後方にバンドが固定されると、その楽しみは一気に減りましたね。

また、7人歌って踊ってだと、メタル色よりアイドル色が強くなった印象で、メタラーとしてBABYMETALを応援していた人の中には、少し及び腰になる人もいるかも、とも思います。

 

しかし、それもBABYMETALが選んだ道。

ゆいちゃんともあちゃんがニコニコして踊ってくれてる時代は終わったのだと。

我々の期待どおりに安定なんかしないぞと、ガツンと見せつけてきましたよね。

“KARATE”も“Distortion”も、MVは〈何か〉と戦っているのですけど、それがBABYMETALの姿勢だし、それこそが私が好きになったBABYMETALの根幹の部分かなと。

 

ヘヴィメタルって、常に社会へのカウンターの音楽だと思うんです。

あんな大きな音と極端に速いテンポで、一般的な気持ち良さと違う部分をエクストリームに表現し、怒りや悲しみも含めて、極端に増幅して音楽に乗せる。

BABYMETALがヘヴィメタル・ファンに受け入れられたのは、やはり存在そのものがカウンターだからだと思うんですよね。

 

この新体制がどのように成長していくのか、まだわからないことだらけですが、BABYMETALをこれからも追いかけていきたいと思います!

10月28日〈DARK NIGHT CARNIVAL〉、10月30日、31日の神戸ワールド記念ホールに参加の皆さん、楽しんで下さい!

2016年作『METAL RESISTANCE』収録曲“KARATE”
 
2018年のシングル“Distortion”

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。

2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

NHORHMの最新作『New Heritage Of Real Heavy Metal III』、リリース!!

NHORHM New Heritage Of Real Heavy Metal III APOLLO SOUNDS(2018)

 


Live Information

11月2日(金)東京・中目黒 FJ's(tel 03-6303-1214)
“西山瞳piano & 東かおるvocal”
市野元彦guitar 西嶋徹bass 橋爪亮督tenor sax
開場/開演:19:00/19:30
チケット:前売3,500円/当日4,000円

★★『New Heritage Of Real Heavy Metal 3』CD Release Tour ★★
西山瞳piano 織原良次fretless bass 橋本学drums
11月27日(火)東京・新宿Pit inn(tel 03-3354-2024)
11月29日(木)愛知・名古屋 Star Eyes(tel 052-763-2636)
11月30日(金)大阪 Mr.Kelly's(tel 06-6342-5821)
12月1日(土/昼)大阪・枚方 メセナ枚方会館多目的ホール(HIRAKATA LOVE JAZZ 2018)
出演:NHORHM他2バンド ※各1時間弱のステージ
開場/開演:14:30/15:00
チケット:前売3,000円 全席自由
12月2日(日/昼)岡山 サウダーヂな夜(tel 086-237-3651)
12月19日(水)※ファイナル、詳細後日発表

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