沖縄・八重山の大陸的な大らかさ、自然の豊かさを歌にのせて
沖縄・八重山の伝統を時に継承し、時に更新してきた唄者、大島保克。前作『島渡る~Across the Islands~』は初の全曲オリジナル作品集だったが、かたや3年ぶりの新作『越路 Kuitsui~八重山二揚集~』は、大島作のオリジナル《与那岡》を除いて全曲が八重山の伝統島唄で構成されている。
「前回が全曲オリジナルだったので、今回はしっかり伝統曲に向かおうと思いまして。今の年齢の(伝統曲の)音源を録りたかったんですね。前作での手応え?そういうものはないんですけど……やり続けてきたことで掴み取れたものは多少あるかもしれませんね」
収録曲のすべてがこれまでのライヴで歌ってきた歌。生まれ故郷の石垣島のものだけでなく、八重山各島の歌が取り上げられている。大島によると、八重山の歌の調弦は〈本調子〉〈二揚げ〉という2種類に大別できるという。
「本調子は割とベーシックなんですけど、二揚げは朗々とした格調高いものが多いんですね。今回はそのなかでもゆっくりとした曲で構成してみました。自分自身、ゆっくりとした歌を得意としているので」
彼の歌を支えるのは、大島に寄り添うような歌を聴かせる鳩間可奈子と、心拍音のような太鼓を響かせるサンデー。2人とも大島作品には欠かせない存在だ。
「長い間一緒にやってきてますし、“あ・うん”の呼吸でできるメンバーなので、本当に助かりました。囃子が決め所の歌も多いので、そういうものはやっぱり可奈子が入ってないと。僕のキーが高いので、それに合わせられるのは彼女ぐらいですしね」
録音が行われたのは沖縄市のイガルー・サウンド・スタジオ。意外にも彼の作品で沖縄録音が行われたのは今回が初めてだという。
「東京だと三線の音を僕が判断しなきゃいけない部分もあったんですけど、沖縄だと(エンジニアに)任せられる。あと、(三線の)コンディションも沖縄のほうがいいんです。それと、沖縄で録るという安心感。それが大きいですね」
安心できるメンバーと環境のもと、じっくり歌に集中できたという今回のアルバム。そこから浮かび上がるのは、八重山の歌が持つ独特の美しさであり、八重山の神話的世界観である。
「もちろんどこの民謡にも美しいものはありますけど、八重山のものは大陸的な大らかさがあるとは思いますね。山があり海があり川があり、という自然環境の豊かさが歌に表れてるんじゃないかな」
大島保克、46歳現在の姿を写し取った充実の伝統島唄アルバム。奥深い八重山の世界へ、いざ。