クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けているジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に長く身を置きながら、近年はHR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト、NHORHMとしてのコンスタントな活動や、ファンであるBABYMETALの音楽的な魅力を鋭く考察して界隈で大きな話題となるなど、メタル愛好家としての信頼はグイグイ上昇中。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置からへヴィメタルを語り尽くすのが、本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉です!

第8回となる今回は、NHORHMの最新作で聖飢魔II“EL.DORADO”をカヴァーしたことをきっかけに対談を実施した、デーモン閣下及び聖飢魔IIへの熱い想いを吐露。対談記事も併せてお読みいただくのがオススメです(対談記事はコチラから)。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


10月17日に、メタル曲を演奏するプロジェクトNHORHMのサード・アルバム『New Heritage Of Heavy Metal III』が発売になりました。

おかげさまで沢山の方に聴いて頂いて、ご好評も頂き、光栄です。

『New Heritage Of Heavy Metal III』トレイラー
 

最初こそ〈ヘビメタをジャズでー(笑)?〉みたいな言われ方も多かったですが、ジャズ・ピアニストとしての美学とメタラーとしての矜持を両立し、どちらに向けても恥じることのない、過去の自分の音楽を結実させたものにしようと真面目に取り組んできたつもりです。

ですので、3枚にわたって沢山の方に聴いて頂けて本当に感謝しております。ありがとうございます。

まだ未聴の方は、ぜひ聴いて下さいませ。

11月27日~12月2日にツアーもありますので、ぜひライヴで聴いて頂けると嬉しいです(下記スケジュール参照)。

また、ジャズ・ファンは原曲を知らない、メタル・ファンはジャズの演奏をどう聴けばいいのかわからない、ということがあり、私のブログで曲紹介と解説を、アルバム3枚分連載してきました。こちらもぜひご覧頂ければ嬉しいです。
http://blog.livedoor.jp/hitomipf79/archives/52452948.html

 

 

今回は、先月のデーモン閣下との対談記事もありましたので、やはり書かねばなりません、私と聖飢魔IIのことを。

私は高校の時、それまで頑張っていたクラシック・ピアノをやめて、イングヴェイ・マルムスティーンとの出会いをきっかけにメタルを聴きはじめたのですが、クラシックから突然メタル、というわけでもなく、思い返せばそこに至るまでに、メタル初等教育を受けていました。

それが、聖飢魔II。

 

聖飢魔IIの大教典(アルバム)『聖飢魔II〜悪魔が来たりてヘヴィメタる』が発布されたのは、私が小学校に上がる一年前の85年でした。

小学校〜中学校の頃は歌番組が沢山あり、毎週すべて観ていましたが、アイドルには興味がなく、〈歌の上手い人〉と〈ロック〉を好んで楽しみにしていました。

中でも楽しみにしていたのは、B’zと聖飢魔IIです。

B’zは、雑誌のインタヴューで〈セックス・ピストルズ、クイーン、ボン・ジョヴィ〉という名前を挙げていたのが、中学で洋楽を聴きはじめるきっかけになりました。

聖飢魔IIは、歌は滅茶苦茶に上手いし、バンドもカッコいいし、演出もおもしろければトークもおもしろいので、テレビ欄に名前が出ると、必ず観ていましたね。

 

そして、高校時代にメタルを聴き出してから、じゃあ日本のメタルはどうなんだと聴き出した時に、LOUDNESSと同時にやはり避けて通れないのが、『悪魔が来たりてヘヴィメタる』だったわけですよ。

散々TVで観て聴いていたのに、メタルという観点から見たことがなくて、そう思って最初の頃のアルバム、『THE END OF THE CENTURY』や『地獄より愛をこめて』(共に86年)を聴くと、めっちゃメタルです。しかも私の好きな系の。

〈(アイアン・)メイデンみたい!〉、〈“Kill The King”みたいや!〉、発見がいっぱいありました。〈えええ、こんな感じだったのね、ちゃんとメタルやんか! ありがとうございます!〉っていう感じでした。

※レインボーの78年作『バビロンの城門』収録

そうやって、高校の時にまた聖飢魔IIに注目するようになり、小学校から高校まで、新曲が出るたびに注目して聴いていたのと、メタル的文脈で遡って聴いていたのもあったので、結果的にほとんど通っていたわけですね。

 

そして時は経て2015年、メタル曲をジャズで演奏したアルバムを作ろう、という話が持ち上がった時に、ディレクターと相談しながら考えていたのは、アルバムに1曲はジャパ・メタを入れたいということ。

1枚目にはBABYMETALを収録しましたが、1枚目が好評で、ディレクターが勢いで〈三部作にしよう!〉と言った時に、こちらも勢いで反射的に思い付いて口に出た言葉が、〈じゃあ、三部作の最後の曲は聖飢魔IIの“EL.DORADO”で終わろう!〉。

これはもう、悪魔に洗脳されているとしか……。

 

そんなわけで、3枚目に収録したジャパ・メタの一曲は、“EL.DORADO”一択でした。

聖飢魔IIの名曲“EL.DORADO”は、私が好きな大教典『地獄より愛をこめて』が初出ですが、99年12月に行われた最終ミサ〈THE ULTIMATE BLACK MASS〉の最後に演奏され、この演奏を最後に、聖飢魔IIは解散しました。

聖飢魔IIの2009年作『悪魔 NATIVITY“SONGS OF THE SWORD”』収録の“EL.DORADO”
 

特にそれまで意識したことはなかったですが、私の中で、〈バンド解散=“EL.DORADO”〉という公式になっていたのですね。

まあ考えてみれば、有名バンド・伝説的なバンドは数あれど、ここまで美しく解散の儀式をしてくれたバンドは、他にないですから(99年世紀末最後の日に解散が決まっていたバンドなので)。

 

“EL.DORADO”は複数回録音されていて、活動絵巻教典(映像ソフト)でも何度となく収録されていますが、私はやはり『地獄より愛をこめて』ヴァージョンが好きなんです。

このヴァージョンのみ、キーがEマイナーで、以降のヴァージョンはキーが違うのですが、当然のことながら時代が新しくなると録音が随分良くなり、バンドの迫力は新しい録音の方がリアルです。アレンジも若干変わったり、ギター・ソロが変わったり、テンポも微妙に変わったり、どんどんブラッシュ・アップされています。

ですが、私がこの最初のテイクがたまらなく好きなのは、〈この時、この一瞬の演奏の魔力〉を強烈に感じるからで、それは私がジャズに魅了されている者だからなのではないかなと、感じています。

ジャズの演奏は曲の大半が即興なので、その演奏は1回しかありえなく、同じものは二度と聴けません。レコーディングも、一発録音と言われる同時演奏録音スタイルですから、その瞬間のアンサンブルをそのまま切り取ったもの。

その一瞬の美しさや閃きを求めて、ジャズを聴いているんですね。

その瞬間性みたいなものが、この最初の“EL.DORADO”に詰まっていると感じるんです。特にデーモン閣下の歌唱が、この時だからこそのフレッシュなエネルギーと緊張感に溢れていて、ぞくぞくする。

 

少し話がずれますが、ジャズのライヴ盤の名盤って、〈いま、自分たちが時代を切り開いているんだ〉という自覚に満ち満ちた演奏だと感じること、ありませんか? 音源で聴いていても、誰かがNext Doorを開く凄い瞬間に立ち会ったみたいな気持ちになるんですが、それに近いものを『地獄より愛をこめて』の“EL.DORADO”に感じるんですね。

ジャズのスタンダード・ナンバーと言われ、演奏される曲は、いまとなっては古い曲ですが、当時流行していたミュージカル・ナンバーなど。それを、即興演奏によってプレイヤーの音楽に変えていくわけですが、元の曲は、ジャズ・ミュージシャンがいくら自由な演奏をしても圧倒的に存在感の残る曲。そういう曲が、レガシーになっていきました。

現代に至っても、ジャズ・ミュージシャンが自分の演奏のために取り上げる曲は、多かれ少なかれ、普遍的な美しさと強度を持っているとプレイヤーが信じている曲です。

繰り返し演奏されてきたこと、そして最終ミサで演奏されたこともあり、聖飢魔IIのファンの中での“EL.DORADO”という曲の存在と意味は、非常に大きなものだと思いますが、この曲のメロディーの持つ圧倒的で普遍的な美しさは、ファンを飛び越え、ジャンルも飛び越える強度を持っていると思っています。三部作の最後に、この素晴らしい曲を演奏できて、本当に良かった。

 

デーモン閣下にコメントを頂いた際に、〈何か他の曲もやって〉と、ありがたいお言葉を頂戴しました。

“悪魔組曲作品666番ニ短調 第四楽章DEAD SYNPHONY”(『聖飢魔II〜悪魔が来たりてヘヴィメタる』)とかもおもしろそうだし、“怪奇植物”(『THE END OF THE CENTURY』)なんかもメロディーが綺麗なので何かアレンジできそうだし、“GO AHEAD!”は歌メロが綺麗なうえ、インスト部分がおもしろく使えるかなとか、“アダムの林檎”(『地獄より愛をこめて』)でMCのオマージュをしたらお客さんに引かれるかなとか、いろんなことを考えてはいました。が、とりあえず月末のツアーでは、ある1曲は演奏します。こちらは、ジャズ・スタンダードの“Milestones”(マイルス・デイヴィス)的なアプローチでアレンジできたので……。

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。

2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

NHORHMの最新作『New Heritage Of Real Heavy Metal III』、リリース!!

NHORHM New Heritage Of Real Heavy Metal III APOLLO SOUNDS(2018)

 


Live Information

★★『New Heritage Of Real Heavy Metal 3』CD Release Tour ★★
西山瞳piano 織原良次fretless bass 橋本学drums
11月27日(火)東京・新宿Pit inn(tel 03-3354-2024)
11月29日(木)愛知・名古屋 Star Eyes(tel 052-763-2636)
11月30日(金)大阪 Mr.Kelly's(tel 06-6342-5821)
12月1日(土/昼)大阪・枚方 メセナ枚方会館多目的ホール(HIRAKATA LOVE JAZZ 2018)
出演:NHORHM他2バンド ※各1時間弱のステージ
開場/開演:14:30/15:00
チケット:前売3,000円 全席自由
12月2日(日/昼)岡山 サウダーヂな夜(tel 086-237-3651)

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