ボーダレスな音世界

 新作でも、前作同様に多数のプロデューサーやミュージシャンを起用しつつ、彼女とミルウェイズ・チームの音を基盤に他の参加者の色をうまく反映させている。加えてポルトガル・レコーディングでは、昨年のアルバム『Mundu Nobu』で注目されるアフリカ系ポルトガル人のディノ・ディサンティアゴが全面的に協力した。

 「ディノが、それは多くのポルトガルの音楽や才能あるミュージシャンを紹介してくれた。彼の存在はこのレコードには欠かせないの。私がポルトガル語で歌うのを助けてくれ、英語で共作したミュージシャンとのコミュニケーションを助けてくれた。また“Funana”という、彼がインスピレーションになった曲も書いたの。いずれボーナス曲としてリリースするつもり」とのことで、他にもアフリカのミュージシャンを起用した新作未収録曲もあるとも付け加えた。

 『Madame X』にはポルトガルのミュージシャン以外にも、コロンビアやブラジルの人気アーティスト、アメリカのラッパーやプロデューサーが参加し、ミルウェイズが中近東系のフランス人であることなども踏まえると、人種も国籍もさまざまでボーダレスな世界が展開されている。例えばアフリカン・ビートを織り込んだ“Batuka”はそれを象徴する聴き応えのある曲だ。

 「“Batuka”という曲名はパーカッションの名前なの。枕のような形をした革製の楽器で、膝に乗せて3拍子のビートを演奏する。発祥地であるカーボベルデでは、それに合わせて人々が歌い踊る。ここで参加しているバツカデイラス・オーケストラはディノを通して知り合った。クラブでの彼女らのパフォーマンスを観て感動し、ぜひとも共作したいと思ったの。私のレコードに参加してくれた人たちはポルトガルやアフリカ、出身地もさまざま。スタジオでは3/3ビートに8ビートのドラムスを重ねて4/4ビートにしたから、作業は複雑で長い時間を要した。さらにティンパニーを加えて……」と制作過程を熱く説明してくれた。