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[不定期連載]プリンスの1995~2010年

 創作やリリースの自由を求め、ワーナーに所属したまま94年に自主レーベル=NPGを設立したプリンス。それに伴う関係悪化を経てワーナー経由で『The Gold Experience』を発表したのが95年のことだ。以降はメジャー流通も独自配信も使い分けながら自由に活動を続けてきた彼だが、それゆえに分散したカタログは後年の入手が困難になってもいた……。

 ってことで、この9月にリイシューされた作品は、ワーナーとの手切れになった〈混沌〉の一作と、そこから数か月後に〈解放〉の喜びを噛み締めつつNPG時代に本格突入していったEMI流通作。プリンス史上もっともややこしい時期の産物とも言えるが、復刻シリーズの流れで並列に考えれば価値や質の高さは言うまでもないし、並べて聴くことでさまざまなものが浮かび上がってくるはずだ。

 

PRINCE 『The Versace Experience: Prelude 2 Gold』 NPG/Legacy/ソニー(1995)

 結局CD化されんのか!という向きもあろうが、もともと95年7月のパリ・ファッション・ウィークにおけるヴェルサーチのコレクションでショウ出席者のみに配布された非売品のサンプラーで、今年4月の〈RECORD STORE DAY〉用に限定復刻されたカセットテープが、ここにきて初CD/LP化。レギュラーな形でのリリースはこれが初の機会となるわけで、それはそれで喜ばしいものだろう。

 中身は数か月前に紹介したカセットテープと当然同じものだが……NPG名義作『Exodus』からの既発シングル、当時リリースを控えていたソロ名義作『The Gold Experience』、結局お蔵入りすることになるマッドハウス『24』などの収録曲(や別ヴァージョン)を抜粋(x-cerpt)して繋いだDJミックス仕様の作品となっている。

 他で聴けないヴァージョンの“Chatounette Controle”と“Pussy Control(Control Tempo Edit)”や、結局お蔵入りした『24』からの“Sonny T.”“Rootie Kazootie”といった音源も流れに沿って登場してくる(当然ながらセパレートなトラックでサーチできるのもありがたい)が、こういうレア・アイテムがレギュラーな形でリイシューできるのであれば、配信すらされていない『GoldNigga』や『Exodus』などのニュー・パワー・ジェネレーション作品、NPGのレーベル諸作も普通に復刻してほしい……とか今後の展開に期待したくなる。

 

PRINCE 『Chaos And Disorder』 Warner Bros./Legacy/ソニー(1996)

 ワーナーからの最終作とされた96年7月のアルバム。時系列でいうと、3月にはスパイク・リー監督作のサントラ『Girl 6』が出ており、そちらがプリンス絡みの既発曲+初出ナンバー3曲という不思議な内容になっていたから、リリース枚数の帳尻合わせか?という見え方も当時はあったものだ。そんな状況下だからか、あるいは割れたヴァイナルなどを配したアートワークの印象もあってか、純然たるオリジナル・アルバムの本作も〈やっつけ仕事〉的な契約満了盤と見なされてきたが、仮にそうであってもここに込められたテンションの高さは単に楽曲そのものの勢いに導かれたものに他ならない。

 実際に本作に収められているのは、もともと『The Dawn』なる3枚組アルバムをめざして周到に準備されていたマテリアルを主な下地とする11曲だ。〈混沌と無秩序〉を歌う冒頭の表題曲は異様なテンションで迫るドライヴィンなロック・チューン。マイケルBとソニーTのリズム隊を軸とするこの時期のNPGらしいダイナミックな演奏とロージー・ゲインズの豪快な合いの手、主役の激しいヴォーカルがとにかくかっこいい。他にも、アイデア一発のようなリフの野太いハード・ロック“I Like It There”、煌めく曲調の転換が妙なポジティヴさをつれてくる“The Same December”、スピリチュアルな“Into The Light”など、バンドとの録音はどれも前後の作品に劣るものではないだろう。

 また、ひなびた風情の先行シングルらしからぬ“Dinner With Delores”は当時のオルタナなシンガー・ソングライター陣を意識したような乾いた感触で、ブルースの“Zannalee”などが並ぶ様子を思えば、むしろ本作は意図的に〈ロック・ アルバム〉としてコンパイルされたものだとも言えるだろう。やや尻すぼみ感のある構成はアレだが、それはそれとして。

 

サントラは入手困難のままなので……プリンス・ファミリーの音楽も用いた96年公開作のDVD「ガール6」(ツイン)

 

 別掲の『Chaos And Disorder』が出る頃にはほぼ完成していた脱ワーナー後の初作で、96年11月に初のEMI流通でリリースされた大作だ。当人にしてみれば頬にSLAVE(奴隷)と書いてアピールを続けてきた成果がようやく報われた格好だったのだろう、表題が謳う通りの〈解放〉された状況下で制作されたことは明白。3枚組それぞれに12曲を合計60分ぴったりで収録したトータル3時間ちょうど、というこだわりやエゴを誰に意見されることもなく形にできたことは、これまでも『Crystal Ball』や『The Dawn』といった3枚組のプランをストップされてきた彼にとっては念願だっただろうし、初めて他アーティストのカヴァーを披露しているのも同様だ。

 ただ、そんな器の部分から構想したためか全体の流れはやや緊張感に欠ける部分もあり、そもそも解放される前提で作っているからこそ表題やジャケがイメージさせるほどの激しさが表現されているわけではない。むしろ〈解放〉以上のテーマとなるのは、この年の2月に結婚したマイテとの恋愛~結婚~妊娠と連なる愛の物語であって、それゆえに明快なストーリーが“Soul Sanctuary”や“The Holy River”“Saviour”といった愛の賛美に落とし込まれたDisc-2の完成度が飛び抜けて高く思える。そこにテクノやヒップホップへのアプローチなどのアイデアが出入りするため、散漫に思える部分もあるにはある。

 もちろん送り手の意図に反して、構成から切り離された楽曲単位で見ればクォリティーは水準以上のものも多々。なかでもカヴァーはどれも絶品で、スタイリスティックスの“Betcha By Golly Wow!”とデルフォニックスの“La, La, La Means I Love U”といった甘いフィリー・クラシックも、ボニー・レイットの名曲“I Can’t Make U Love Me”も、ジョーン・オズボーンの荘厳な“One Of Us”も原曲とは違う方向で殿下ならではのカヴァー術が極められている。他にもDisc-1冒頭の軽やかなジャズ・ファンク“Jam Of The Year”や、新NPGの粋なプレイも楽しめる“Sex In The Summer”、この時点でインターネット徘徊者の孤独を歌っていた“My Computer”などはこの時期ならではの表現を堪能できるはずだ。つまりは大仰なパッケージングに構えることなく聴くべき3枚、ということである。

 

左から、スタイリスティックスの71年作『The Stylistics』(Avco)、デルフォニックスの68年作『La La Means I Love You』(Philly Groove)、ジョーン・オズボーンの95年作『Relish』(Mercury)