
バンド活動を楽しむバンド
しかし、ゲット・アップ・キッズやウィーザーらが参加したトリビュート盤『Where Is My Mind?』(99年)が作られるなど、オルタナ・ブームの定着と共に、その先駆者として改めて評価されたピクシーズの再結成を求める声は高まるばかりとなった。そして、解散から11年。2004年についにオリジナル・ラインナップで再結成が実現すると、世界中のファンが伝説のバンドの帰還を歓迎。その年の7月には〈フジロック〉出演という形で初来日が実現した。
その後は世界中からオファーが相次いだのだろう。バンドは世界各地をツアーしながら、しっかりと手応えを取り戻すように活動を続けていった。2013年にはキムがソロ活動に専念するため、バンドを脱退。マフズのキム・シャタックを迎えてツアーを続けるが、2014年からはア・パーフェクト・サークルなどで知られるパズ・レンチャンティンが参加。女性ベーシストにこだわるのは、ピクシーズ・サウンドには女性ヴォーカルが不可欠だからだ。
再結成から10年、満を持して2014年にリリースした初のアルバム『Indie Cindy』は3枚のEPをコンパイルしたものだったが、多くの人が新作を待っていたのだろう。同作は全米23位/全英6位のヒット作になった。その後の彼らは、トム・ダルゲティをプロデューサーに迎えた『Head Carrier』(2016年)、同布陣でこのたびリリースされたばかりのニュー・アルバム『Beneath The Eyrie』とマイペースながら順調にリリースを重ねている。

PIXIES Beneath The Eyrie Pixiesmusic/BMG/ワーナー(2019)
再結成後のアルバムを聴き、ピクシーズらしさは変わらないと思いながら、ちょっと物足りないと感じているリスナーも少なくないようだ。しかし、ヴォーカリストとしても大きな役割を担うパズとバンドの相性がいいということに加え、解散前の反省なのか、年齢を重ねて成熟したのか、現在の彼らはバンドを長続きさせようと意識しているように思える。ノイズ・ポップというジャンルが定着し、時代や世界と取っ組み合う必要がなくなったいま、もしかしたら彼らは心底、バンドを楽しんでいるのかもしれない。 *山口智男