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いわゆる〈歌もの〉にはしたくない

――尾崎くんは『fractal』を聴いて、どんな印象でしたか?

尾崎「僕がsleepy.abに出会ったときのままの浮遊感があって、懐かしい気持ちでいっぱいになりました。乗り物に乗ってウトウトしているときや、無意識の境界にいて、後ろに流れていく風景をボーッと眺めながら聴きたいアルバムだなって。

綿密に絡み合ったり、ときに絵の具みたいに溶け合うサウンドはやはり流石で、どこか大きな木の箱の中で鳴らされているような、丸みを帯びた特殊なルーム感がアルバム全体を通してある。それがとても心地良かったです」

――〈浮遊感〉というのはやはりsleepy.abのひとつの特徴ですよね。この7年を振り返ると、アンビエントだったり、あるいはニューエイジがあらためて注目を浴びて、それがヒップホップやR&Bと融合して、新たなトレンドを生んでいましたが、それってもともとsleepy.abが内包していた要素だったとも思ったりして。実際、制作をするにあたって、同時代の音楽シーンをどの程度意識しましたか?

成山「sleepy.abはこれまでUKロックとかポスト・ロックって捉えられがちだったと思うんですけど、昔から結構いろんな要素が含まれていたと思っていて。確かに、最近はヒップホップとかブラック・ミュージック的なもののなかに音のヒントがあるというか、おもしろいものがあると思うんですけど、具体的な名前とかは特に出てきてないですね。

ただ、いわゆる〈歌もの〉にはしたくなくて、特にリズムに関しては新しいアプローチを模索した部分もあります。〈普通にいいね〉みたいなのもあるじゃないですか? でも、そういうのは照れちゃうというか、〈ちょっと崩して、やっと発表できる〉みたいな、sleepy.abってわりとそういうこともしてきてて。

だから〈シングルっぽい曲〉みたいになっちゃうと、〈これあんまり出したくないな〉と思って、“メロディ”(2006年作『palette』収録)とかは最後まで〈嫌だな〉と思ってたり(笑)」

sleepy.abの2006年作『palette』収録曲“メロディ”
 

尾崎「僕らがsleepy.abを知った頃って、まだバンドが遊びの延長というか、音楽をアートとして捉えられてなかったんですけど、sleepy.abは僕らにとって〈アートをやってるバンド〉で……いまの成山さんの話を聞いて、やっぱり音楽でアートをやるって難しいことだよなと思って。

でも、sleepy.abは昔からアートとしての輝きを持っていて、〈僕らもこうなりたい〉とずっと思ってたんです。だから、いまの話を聞いて、変化することも大事だけど、ずっと続けてきて、それでも変わらない部分があるということが、sleepy.abにとってすごく大事というか……僕はそう思って、勝手にいい気持ちになったというか(笑)、素敵だなって思いました」

―― “CACTUS”に関しては、〈歌もの〉でありつつ、サウンドやリズムのアプローチ含め、整合性が取れたからこそ、アルバムの取っ掛かりになったと言えますか?

成山「すごくバランスがいいというか、〈いまのsleepy.abってこうだな〉って、自分たちのなかで見えたんです。曲作りは山内のインストから始まることが多くて、“CACTUS”もモチーフは山内が作って、〈これにどうやってメロディーをつけようか?〉と考えるんですけど、山内の音って〈SFっぽい、けど懐かしい〉というものが多いので、歌詞もスッと、はじめからあったみたいに、なぞるような感じで出来ることが多いですね」

――立体感のあるサビのギターは特に印象的です。

成山「あれは山内のギターの音と、一志さんの打ち込みと、どっちがどっちかってくらいせめぎ合ってて、ベースも含めてバランス的にはみんな攻めてるんですよね。それが歌を超えていくんだけど、でもヴォーカルも違うところにちゃんとあるというか」

 

山内憲介のギターは次元を超えたサウンド

―尾崎くんはアルバムのなかでどの曲が特に印象に残りましたか?

尾崎「“gleam”はムームのような箱庭っぽさを感じて、好きでした。あと“ideology”はこのアルバムのなかでいい意味で異質なものがあったので、聴いていて〈おっ!〉という引っかかりになっているなと。メイン・テーマになっているギター・フレーズが好きです」

sleepy.abの2020年作『fractal』収録曲”gleam”
 

成山「“gleam”は山内のエレクトロな要素が前面に出ていて、山内のおもちゃ箱ひっくり返した感があっていいなと思う。これにも歌を入れようかなと試みたんですが、コーラスを軽く入れるくらいがいいかなと思いやめたんですよね。今回はインストの”decode””gleam””cryptograph”でアルバムを三編に区切っているので、ちょうど真ん中で大きな役割をはたしている曲というか、“gleam”でリセットして、霧がかったようなまた違う風景になるイメージでしたね」

――尾崎さんが次いであげた“ideology”については?

sleepy.abの2020年作『fractal』収録曲”ideology”
 

成山「“ideology”はいままでにもあったsleepy.abの暗黒系?というか、そういうイメージで作ったんですけど、これまでより一歩進んだ手ごたえがあります。とてもタイトにできて。リヴァーブやディレイなんかをほとんど使わず、いつものsleepy.abの湿度みたいなのをあえてなくしたら、とても心地よいいい硬さというかクールさが出てきて、自分たちでもハッとした楽曲ですね」

――“息継ぎ”にはアレンジとプログラミングでtuLaLaさんが参加されているそうですね。ピアノを基調としつつ、音数少なめのトラックが新鮮でした。

成山「“息継ぎ”はもともとベースの田中(秀幸)が持ってきたモチーフで、それをアレンジしてもらって……この曲もスッとメロディーが出てきました。わりとシンプルで、いままでのsleepy.abにはあんまりない、ちょっと大人な感じもありつつ。この曲のギターも〈ポツンと宇宙に1人でいる感じ〉みたいなことを言って、山内が〈なるほど〉って(笑)。〈光が地上から上がって行く感じ〉とか、俺が言うのはいつもそういうこと」

『fractal』収録曲”息継ぎ”
 

――その言葉を山内くんなりに解釈して、無数のエフェクターを駆使して独自の音に変換していくと。

尾崎「山内さんのギター・サウンドはギターの次元を超えたサウンドですよね。自分のサウンドをすでに持っていながら、いまも試行錯誤してるのはすごくかっこいい」

――今回ドラムはサポートのエミリオ・ボナンニ(Emilio Buonanni)が叩いていますが、彼はどんな人物なのでしょうか?

成山「エミリオは札幌で活動してる葉緑体クラブっていうバンドのドラマーです。シカゴ出身で、音楽学校を出てるんですけど、日本の音楽が好きで、いまはこっちに住んでいて。専攻がクラシック・パーカッションだったこともあって、ヴィブラフォンとかピアノとか、何でもできるんですよ。(尾崎に)面識ある?」

尾崎「ライブハウスのトイレの前ですれ違ったことがあって、すごくフレンドリーな人でした(笑)」