ストゥージズの歴史をイギー・ポップが語り、友人ジム・ジャームッシュが撮るという音楽対話
映画「ギミー・デンジャー」は、67~74年に活動したパンク/オルタナティヴの先駆的バンド、ストゥージズの歴史を、03年の再結成、10年のロックの殿堂入りまで振り返るドキュメンタリー。フロントマンのイギー・ポップが自ら、友人のジム・ジャームッシュに話を持ちかけて作られた。ジャームッシュは(イギーも含む)ミュージシャンをよく配役し、意外な選曲を物語にうまく織り込む音楽通の監督として知られるが、オフビートな語り口とドライなユーモアが持ち味の劇映画とは異なり、本作は関係者の証言で年代順に物語を進行させる正攻法の作りで、彼らしさの発揮はイギーの少年時代やバンド初期の逸話を漫画や古いTVや映画からの映像でユーモアを添えて彩るところくらいか。また、冒頭で監督が〈史上最高のロック・バンド〉と宣言するが、その評価を客観的に証明しようとはしない。登場するのはメンバー(本作完成までに大半が死亡)と家族、マネジャーという身内だけで、外からの検証の視点はないのだ。
そういった点ではドキュメンタリーとして物足りなさもあるが、おもしろい作品には仕上がっている。大半を占めるのはイギーのインタヴューで、彼の存在感と愉快な語りだけでも観客を2時間近く引きつけるに十分な魅力があるからだ。彼は当時の様々な出来事をウィットに富んだユーモラスな説明で包み隠しなく語るが、監督はそんなイギーを本名ジェイムズ・オスターバーグでクレジットしており、過激なパフォーマンスで知られた男の内側にある知性と人間性を愛情をもって見つめる。最も興味深いのは、彼らのサウンドがどのように作られたかの分析だ。自動車産業が盛んなミシガン州出身で、工場の生産ラインの騒音とブルーズからジャズまでの黒人音楽からの強い影響の融合が根本にあり、さらにハリー・パーチなどの実験的な作曲家の前衛音楽も愛聴していたという。
なお、あくまでストゥージズの映画だと、イギーのソロ活動は一切触れられないが、デヴィッド・ボウイとのコラボを含む70~80年代の彼の作品が、バンドの再評価を助けたことを説明しておいた方がよかっただろう。