Photo by Tsuneo Koga

マッコイ・タイナーに思いを馳せて

 マッコイ・タイナーを知ったのは大学生の頃、彼が演奏した“Satin Doll”(63年)の譜面を見つけて、数あるジャズ・ピアニストの一人くらいの意識で練習したことがあるだけで、まだ特別な思いはなかった。のちに後期〈ジョン・コルトレーン・カルテット〉在籍時の映像を見ると、他のピアニストにはない重厚でたたみかける演奏に圧倒されたが、なんだかハーモニー感に乏しく、ペダルを多用するせいか粗っぽい印象を持ってしまい、真似しようと思う対象ではなかった。

 それと、1989年に出版されたキース・ジャレットのインタヴュー本をバイブルのように読みふけっていた中に、マッコイを批判するかのように4度和音のことを良く言わない節があった。マイルス・デイヴィスのネガティブなコメントを読んだこともある。ジャズ○○信者あるあるな話で言葉を鵜呑みにするのは良くないし、マッコイにとっては実に風評被害な話だが、ご多分に漏れず筆者も聞きかじっただけで食わず嫌いですませていたのだ。けれど、アーティストのある印象だけを切り取ってその人の全てだと思い込むのは実に良くないということをこれから綴りたい。