Page 3 / 4 1ページ目から読む
photo by Jay Gullixson

ニューヨークで聴いた初めての生演奏

 彼の演奏を初めて生で拝見したのは2004年5月12日、ニューヨークの〈イリジウム〉にて。フロントにファラオ・サンダースとラヴィ・コルトレーンという対照的な二人を擁したクインテットであった。最初に演奏されたのが確か当時の新作『Land Of Giants』の一曲目“Serra Do Mar”だったと思うが、出だしの音からして独特のタッチ、ペダリングで、音が少し濁りながらもあまりにも美しいモーダルな泣きのハーモニーが表出。左手低音でクラスターを〈グギョンガギョン〉とやることも歌というかサウンドの重要なコクになっていて、とても紳士的で粋であるのだけれど、黒人の心にある叫びというか人生の〈痛み〉を感じる演奏にいきなり涙が出てきた。そうかピアノという楽器の魅力を引き出すというのはこういうことかと既成概念が崩れ落ちた瞬間。やはり生で観なきゃダメだ!

 左手の強烈さは彼が左利きだったことで納得出来るわけだが“Serra Do Mar”のテーマ部分でも左手の動きが独特で、うっかりしていると弾き損じてしまう。ビバップ以降ホーンライクな演奏が良しとされ全ての楽器が同じ発音で演奏されているのがジャズなんだ、という見方もあるが、マッコイの生演奏を拝見してからは、ピアノは弦打楽器でありペダルで共鳴させたりのばしたり濁らしたりできる、その表現力を使わないでどうする!と教えてくれているようであった。そしてその時のベーシストがレゲエのフィールを醸し出していたのがやけにかっこよかった。そう、ジャズ・ミュージックにはもっとレゲエ・フィールがあるべきだ。

 その日はセカンド・セット目を堪能し、それでもまだまだ聴き足りないと店内は約10分間拍手が続いたが、ついに彼らはアンコールには応えず終演。マッコイがさっさとNYタクシーで帰路につく姿が目に焼き付いている。