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〈makran=最果て〉から文化的遺伝子を伝えていく

――〈makran〉というレーベル名の由来はなんでしょうか?

「古代ギリシャ語で〈遠い場所・遥か彼方〉を意味する言葉です。この言葉をレーベル名にしたのはいろいろと理由があります。

古代シルクロードについて、諸説ありますが、その最東端を日本とする説があります。そのシルクロードは、交換したり繋いでいったり、文化を伝達していくものだと思っています。

また、シルクロード文明は古代ギリシャから強く影響を受けている。そういう意味では、かつては日本と古代ギリシャが間接的に繋がっていたと、先ほどの説をふまえて言えると思います。

当時は文化が長くゆっくりと時間をかけて繋がっていましたが、いまの時代は即効性のある音楽がどんどん出てきて、消費過多な状況になっているなかで、そういったことがとても大事だなと思って。

それらをリンクさせて、古代ギリシャ語の〈最果て〉というのがパシッとハマったんですよね。日本と古代ギリシャをかつて繋いでいたシルクロードの〈最果て〉みたいな」

――makranが標榜している〈Journey〉とはなんなのか、具体的に教えてください。

「いま〈インターネット・ミーム〉のような用語があるように、〈ミーム〉がバズ・マーケティングの用語として〈短期爆発的な拡散〉といった意味で使われていると思います。

しかし、本来〈ミーム〉という言葉は、〈文化的遺伝子〉という意味を持っています。その文化が持っているさまざまな情報、儀式や書物、所作、言葉の話し方など、そういうことが多角的に伝わっていって、それが代々繋がっていく、というのが本来の意味合いです。

〈文化的遺伝子〉というくらいなので、後世にカルチャーとしてゆっくり伝えて浸透させていくものなのです。makranはレーベルとして、そういうことを考えています。なので、〈Journey〉という言葉を掲げています。

〈旅〉の目的って、旅先でのレクリエーションなどが目的だったりすると思うのですが、旅が終わってみると、意図していなかった意味づけがそこに生まれていることがある。たとえば気球に乗るために旅先へ行ったとしても、長く時間が経った後その旅を振り返ったときに、レクリエーションではなく道中で出会ったなにかが影響することがあると思います。そのように、時間を経てゆっくりと深い層に定着していくような、そういった意味合いを込めています」

――ちなみに、makranのロゴの山脈はなにを意味しているのでしょうか?

「〈連峰を望む〉というのがテーマのロゴになっています。一つの大きな山の頂上を目指して登りきって終わりということではない、ということです。それは、〈Journey〉という言葉であったりmakranの語源であったり、スロウに長くやっていくことに繋がっています。

また、ロゴに描かれている月には〈月日が流れていく〉という意味を込めていて、連峰には一つの大きな山を登って終わりではなく、山脈を歩いていく、ということを込めています。一つの大きな山を登ったら、そこから見える風景って頂点から見る360度で終わりだと思うんですが、山脈をずっと歩いていく登山だと、どんどん風景や空気感が変わっていく。そういう意味を込めているんです」

 

バズでアーティストを消費するのではない長期的視点

――プロデュースや楽曲制作の面でも、〈ゆっくり、じっくり〉ということを意識されているのでしょうか?

「個人的には、〈バズ〉というもの自体がアーティストの寿命をすごく縮めるものだと思っています。バズによって、〈こういうアーティストだ〉という、ある種のタグ付けがされてしまう。それがどんどん消費されていくと、アーティストの寿命が縮んでいきますし、それ以外のことをやりづらくなってしまう。アーティストとしてのキャリア・プランを考えたときにも、よくないと思うんですよね。

これは、長い時間を大局的に見たときの話ですが。アーティストのキャリアも含めて、すべて〈長期的〉ということを意識しています」

――ということは、makranは即効性の時代に対するカウンター・カルチャーなのでしょうか?

「そうですね。なので、すごく数値的に説明づらいと思います。makranは、みんながTikTokでやるみたいな、瞬間的な再生でバーっと広がて、わかりやすいキャッチーさで人を惹きつけるものではないので。そういう瞬間的にバッと拡散するよりも、誰かの深いところに刺さった〈1位〉みたいなことを大切にしています。

あと、新型コロナについては一つの節目を感じています。これほどみんながゆっくりとした時間をとれた、自分の時間を持ったというのは、人類の歴史上あったのだろうか思うんです。例えば、電車の乗り換えで降りる新宿駅とかスクランブル交差点とかを通り過ぎるために聴いていた音楽、ある意味〈機能〉としての音楽がこれまで評価されていました。しかし、コロナ禍以降、じっくり座って聴く音楽が再評価されていくのかなと思っています」

――日本を唯一の拠点と考えずにアジアへ、さらに欧米へ届けることをmakranは目的としています。そのための具体的な施策や明確なヴィジョンはありますか?

「makranは実際の距離を越えて展開していくことも今後重要だと思っていて、いまその準備をしています。

東欧から東アジアまで、なかなかメインストリームに出てこない音楽やシーンに絡んでいったら、もっとおもしろいのになとずっと思っているんです。そのあたりは言語圏が複雑に入り組んでいるので、なかなかアプローチが難しいこともありますが、かつてシルクロードが存在していたと考えると、そうでもないなと。また、ポピュラー・ミュージックの登場以降になにも起こっていない空間というか、そういった場所にアプローチをかけていくと、おもしろいのではないかと思っています」

 

現実と解離したmakranの世界

――makranに所属しているアーティストたちはみな独創性があり、しっかりとした世界観を持つアーティストばかりですが、レーベルとしての決めごとはあるのでしょうか?

「いま所属しているアーティストたちは、みんな初めてのリリースがmakranからで、なんの色もついていない状態でスタートしています。

作家性や世界観について言うと、僕が7~8割音楽を制作してプロデュースしているのですが、〈こういうテーマでこう歌って〉と線路を引くようなプロデュースはしていなくて、自発的に引き出すことを意識しています。

普段からそのアーティストが何を考えているのか、例えば〈いまなにを聴いてる?〉とか〈最近なんの映画を観た?〉〈書物はなにを読んだ?〉とか、自然な会話の流れのなかで訊き出したりしています。そこからアーティストがアクティヴにクリエイションできるように、点を置いていく。なので、アーティストの自発性が強いと思っています」

――所属アーティストの〈6つの質問〉では、交流のあるアーティストとしてmakranのアーティストを挙げている方が多かったです。レーベル内での交流はあるのでしょうか?

「レーベルの所属アーティストで集まって遊ぶということはないのですが、各々SNSのDMなどでやり取りしているらしく、知らないところで共作が出来ていることもあります(笑)。みんな影響しあっていますね」

――makranのクリエイティヴィティーの柱となっているTakakiさんは、他にどのような点に注意を払っていますか?

「注意しているというより、自然とそうなっていくことがあります。そういった点で言うと、〈現実と解離〉したイメージがあります。歌詞を読むと日常的なことを歌っていると思われるかもしれないのですが、空想の世界の空気感のようなものを創ることを意識しているんですす。

自分のサウンドや音像、非言語的なものが与えるイメージや影響があるので、それは受け取る側によって変わってくるかもしれません。受け手に押し付けない流動的な世界観なので、ぼやっとしていてわかりにくいかもしれませんが……。直接なにかを想起させすぎてしまうようなサウンドは使わない、ということもあります」