こんにちは、TOWER DOORSスタッフです。
TOWER DOORSが注目のアーティストやレーベルを選出して猛プッシュする企画〈TOWER DOORS POWER PUSH!!!!〉。第7弾として今年10月からプッシュしているのが、新鋭レーベルの〈makran〉です。先日掲載した特集記事では、makranがどんなレーベルなのか、どんなアーティストが所属しているのかを紹介しましたました。
とはいえ、makranというレーベルの正体は、まだまだ謎に包まれたまま。今回はさらにmakranの核心へと迫るため、創設者のRyuuta Takakiにインタビューを行いました。レーベル名の由来から、makranが掲げる〈Journey〉という言葉の真意、クリエイティヴへのこだわりや野望まで、たっぷり語っていただきました。
アーティスト、職業作家的ミュージシャン、プロデューサーという3つの顔
――makranというレーベルを立ち上げた経緯はどのようなものだったのでしょうか?
「もともと僕はアーティストとして、自分の表現として曲作りをしていたんですけど、いったんアーティスト活動をお休みするタイミングがありまして、その期間に自分の名前を表に出さずにラッパーやシンガーなどをプロデュースするなど、いろいろなことをしていました。
そのなかで自然発生的に、ALFRDやAutumn Fruit、Shnayhon Yosoといったようなアーティストと出会っていって、makranを立ち上げることになりました」
――Ryuuta Takakiさんは、音楽家としてどのような経歴があるのでしょうか?
「ずっとインストを作っていて、いわゆるトラックメイカーとして活動していました。本当はバンドをやりたかったのですが、交友関係が広いわけではなかったので、一人で完結する音楽になっていきました。
ヒップホップ系や電子音楽系のイベントでライブをしていましたね。僕の音楽スタイルはヒップホップとエレクトロニカの中間だったので、どこに出ても浮いてしまって(笑)。なかなか自分のやっていく場所が定まらなかったです」
――以前、もし依頼があればアニソンからメタルまでなんでも制作するとおっしゃっていましたよね。
「そうですね。一時期、広告音楽を作っていた時期があったので、そこでどんなジャンルの音楽でも作らないといけない状況を経験したことがありました(笑)。アーティスト的な感覚と、職業作家ではないですけど、そういう感覚とのバランス感が培われて、それがいまのプロデュース・ワークに活かされていると思っています」
〈makran=最果て〉から文化的遺伝子を伝えていく
――〈makran〉というレーベル名の由来はなんでしょうか?
「古代ギリシャ語で〈遠い場所・遥か彼方〉を意味する言葉です。この言葉をレーベル名にしたのはいろいろと理由があります。
古代シルクロードについて、諸説ありますが、その最東端を日本とする説があります。そのシルクロードは、交換したり繋いでいったり、文化を伝達していくものだと思っています。
また、シルクロード文明は古代ギリシャから強く影響を受けている。そういう意味では、かつては日本と古代ギリシャが間接的に繋がっていたと、先ほどの説をふまえて言えると思います。
当時は文化が長くゆっくりと時間をかけて繋がっていましたが、いまの時代は即効性のある音楽がどんどん出てきて、消費過多な状況になっているなかで、そういったことがとても大事だなと思って。
それらをリンクさせて、古代ギリシャ語の〈最果て〉というのがパシッとハマったんですよね。日本と古代ギリシャをかつて繋いでいたシルクロードの〈最果て〉みたいな」
――makranが標榜している〈Journey〉とはなんなのか、具体的に教えてください。
「いま〈インターネット・ミーム〉のような用語があるように、〈ミーム〉がバズ・マーケティングの用語として〈短期爆発的な拡散〉といった意味で使われていると思います。
しかし、本来〈ミーム〉という言葉は、〈文化的遺伝子〉という意味を持っています。その文化が持っているさまざまな情報、儀式や書物、所作、言葉の話し方など、そういうことが多角的に伝わっていって、それが代々繋がっていく、というのが本来の意味合いです。
〈文化的遺伝子〉というくらいなので、後世にカルチャーとしてゆっくり伝えて浸透させていくものなのです。makranはレーベルとして、そういうことを考えています。なので、〈Journey〉という言葉を掲げています。
〈旅〉の目的って、旅先でのレクリエーションなどが目的だったりすると思うのですが、旅が終わってみると、意図していなかった意味づけがそこに生まれていることがある。たとえば気球に乗るために旅先へ行ったとしても、長く時間が経った後その旅を振り返ったときに、レクリエーションではなく道中で出会ったなにかが影響することがあると思います。そのように、時間を経てゆっくりと深い層に定着していくような、そういった意味合いを込めています」
――ちなみに、makranのロゴの山脈はなにを意味しているのでしょうか?
「〈連峰を望む〉というのがテーマのロゴになっています。一つの大きな山の頂上を目指して登りきって終わりということではない、ということです。それは、〈Journey〉という言葉であったりmakranの語源であったり、スロウに長くやっていくことに繋がっています。
また、ロゴに描かれている月には〈月日が流れていく〉という意味を込めていて、連峰には一つの大きな山を登って終わりではなく、山脈を歩いていく、ということを込めています。一つの大きな山を登ったら、そこから見える風景って頂点から見る360度で終わりだと思うんですが、山脈をずっと歩いていく登山だと、どんどん風景や空気感が変わっていく。そういう意味を込めているんです」
バズでアーティストを消費するのではない長期的視点
――プロデュースや楽曲制作の面でも、〈ゆっくり、じっくり〉ということを意識されているのでしょうか?
「個人的には、〈バズ〉というもの自体がアーティストの寿命をすごく縮めるものだと思っています。バズによって、〈こういうアーティストだ〉という、ある種のタグ付けがされてしまう。それがどんどん消費されていくと、アーティストの寿命が縮んでいきますし、それ以外のことをやりづらくなってしまう。アーティストとしてのキャリア・プランを考えたときにも、よくないと思うんですよね。
これは、長い時間を大局的に見たときの話ですが。アーティストのキャリアも含めて、すべて〈長期的〉ということを意識しています」
――ということは、makranは即効性の時代に対するカウンター・カルチャーなのでしょうか?
「そうですね。なので、すごく数値的に説明づらいと思います。makranは、みんながTikTokでやるみたいな、瞬間的な再生でバーっと広がて、わかりやすいキャッチーさで人を惹きつけるものではないので。そういう瞬間的にバッと拡散するよりも、誰かの深いところに刺さった〈1位〉みたいなことを大切にしています。
あと、新型コロナについては一つの節目を感じています。これほどみんながゆっくりとした時間をとれた、自分の時間を持ったというのは、人類の歴史上あったのだろうか思うんです。例えば、電車の乗り換えで降りる新宿駅とかスクランブル交差点とかを通り過ぎるために聴いていた音楽、ある意味〈機能〉としての音楽がこれまで評価されていました。しかし、コロナ禍以降、じっくり座って聴く音楽が再評価されていくのかなと思っています」
――日本を唯一の拠点と考えずにアジアへ、さらに欧米へ届けることをmakranは目的としています。そのための具体的な施策や明確なヴィジョンはありますか?
「makranは実際の距離を越えて展開していくことも今後重要だと思っていて、いまその準備をしています。
東欧から東アジアまで、なかなかメインストリームに出てこない音楽やシーンに絡んでいったら、もっとおもしろいのになとずっと思っているんです。そのあたりは言語圏が複雑に入り組んでいるので、なかなかアプローチが難しいこともありますが、かつてシルクロードが存在していたと考えると、そうでもないなと。また、ポピュラー・ミュージックの登場以降になにも起こっていない空間というか、そういった場所にアプローチをかけていくと、おもしろいのではないかと思っています」
現実と解離したmakranの世界
――makranに所属しているアーティストたちはみな独創性があり、しっかりとした世界観を持つアーティストばかりですが、レーベルとしての決めごとはあるのでしょうか?
「いま所属しているアーティストたちは、みんな初めてのリリースがmakranからで、なんの色もついていない状態でスタートしています。
作家性や世界観について言うと、僕が7~8割音楽を制作してプロデュースしているのですが、〈こういうテーマでこう歌って〉と線路を引くようなプロデュースはしていなくて、自発的に引き出すことを意識しています。
普段からそのアーティストが何を考えているのか、例えば〈いまなにを聴いてる?〉とか〈最近なんの映画を観た?〉〈書物はなにを読んだ?〉とか、自然な会話の流れのなかで訊き出したりしています。そこからアーティストがアクティヴにクリエイションできるように、点を置いていく。なので、アーティストの自発性が強いと思っています」
――所属アーティストの〈6つの質問〉では、交流のあるアーティストとしてmakranのアーティストを挙げている方が多かったです。レーベル内での交流はあるのでしょうか?
「レーベルの所属アーティストで集まって遊ぶということはないのですが、各々SNSのDMなどでやり取りしているらしく、知らないところで共作が出来ていることもあります(笑)。みんな影響しあっていますね」
――makranのクリエイティヴィティーの柱となっているTakakiさんは、他にどのような点に注意を払っていますか?
「注意しているというより、自然とそうなっていくことがあります。そういった点で言うと、〈現実と解離〉したイメージがあります。歌詞を読むと日常的なことを歌っていると思われるかもしれないのですが、空想の世界の空気感のようなものを創ることを意識しているんですす。
自分のサウンドや音像、非言語的なものが与えるイメージや影響があるので、それは受け取る側によって変わってくるかもしれません。受け手に押し付けない流動的な世界観なので、ぼやっとしていてわかりにくいかもしれませんが……。直接なにかを想起させすぎてしまうようなサウンドは使わない、ということもあります」
一貫性ではなく〈Journeyの道中で出会う音楽〉も重視する
――アーティストのヴィジュアルやアートワーク、ミュージック・ビデオもこだわって作っていますよね。アーティストの世界を視覚的に表現するときに、どのようなことを心がけていますか?
「先ほどの話と少しかぶるのですが、アーティストの実在性を捉えづらいというか、〈本当にこの世界に存在しているのかな?〉と感じる雰囲気にはしたいですね。例えば、〈高架下で寄りかかっているアー写〉みたいなものは使わないと思います(笑)。
SOMESEEGAIAなどに関しては、異空間に存在しているようなヴィジュアルを心がけて作っています。先ほど言った〈現実からの解離〉をわかりやすく言い換えると、〈世界観ファースト〉ということかもしれません」
――makranのサウンドは〈ダーク〉や〈夜〉といったイメージを想起させるのですが、サウンドの一貫性は意識していますか?
「先ほどと同じ話になってしまうのですが、〈夜〉って非現実的じゃないですか? 夜は、あまり人の生活感を感じられないというか。電車も休んでて、車も動いてなくて、お店も閉まっていて、という感じで日常が出てこない。
MVを作るときも、も普通に街を歩く通行人が映り込むようなことはしないように意識しています。そうではなく、〈このアーティストしか存在していないのかな〉というような世界を作っていくと夜っぽくなる、という理由がまず一つあります。
もう一点はシンプルで、いまサウンド面のプロデュースをしているのが自分しかいない、という理由がありますね。そういう意味で、一貫してしまうというか(笑)。この一貫性は重要とは考えていません。今後自分が手がけるのではなく、他のサウンド・プロデューサーを入れていきたいなと思っています」
――先ほど〈じっくり座って聴くようなサウンドが再評価されるのではないか〉とおっしゃっていましたが、やはりその部分は今後も重視していきますか?
「そうですね。とはいえ、自分が影響を受けてきた音楽のなかには、そうじゃないのもあります。なので、その別の側面を表現するものをリミックスでリリースしたりします。例えば、Shnayhon Yosoのアルバム『elme』(2020年)のラストの曲(“elme”)にレフトフィールド・テクノ的なものが入っていたり、少しフューチャー・トラップみたいなものが入っていたりと。
あと、Autumn Fruitの『Abyss』(2020年)という作品には〈Rasta riddim Remix〉というものが収録されていて、そこではレゲエ風のリミックスを作っています。アルバムというじっくり聴くフォーマットのなかには入っていないくて、〈おまけ〉と言ったらあれなのですが。
クラブ・カルチャーやストリート・カルチャー、レイヴ・カルチャーみたいなものの音楽は、座って聴くものではないかもしれません。しかし、そういった音楽にも〈Journey〉の道中で出会うはずなので、そういうものをボーナス・トラック的に収録することはこれまでも、おそらく今後もやっていきます」
日本にはmakranがある
――今後のmakranの活動について教えてください。
「いまは土台作りだと思っています。リリースがゼロのアーティストが5組でスタートしているのもそういうことで、外の色がついていない状態で〈makranというのはこういう世界だよ〉と確固たるものを提示する。そこから外のアーティストとのクロスオーヴァーで着火して広がっていたり、そういったことがクリエイション面の展望です。
運営面では、ブレイン的な存在を入れて、自分がそのクリエイティヴ・コントロールだけをしていく案があります。サウンドについても、自分が制作する頻度をいまの8割から1割くらいまで減らして、残りの9割はプロデューサーを内包してやってもらう、といったことをしていこうと思っています」
――makranのオフィシャルサイトには、Takakiさんの役割は〈Creative Produce〉〈Art Curating〉、〈Think about Music〉となっています。今後、さらに拡張していくのでしょうか?
「先ほど海外展開をしていく準備をしていると言いましたが、そのうえでも〈Art Curating〉の部分でMVなどの視覚的な面もセットで出すことが重要になってきます。なので、そういうところに関わってもらっている作家にもしっかりフォーカスしていきたいなと思っています。
ただタグ付けをして、〈誰々がアー写やジャケ写を撮っています〉ということで終わらせずに、どういう経緯で、なぜこの作家がこの曲のジャケットを作るのか、という。〈必然性〉と言いますか、〈どうしてこの人が担当したのか〉という、そういった部分にフォーカスして紹介していくことも考えています」
――最後に〈makran〉の野望を教えてください。
「野望としては、〈日本にはmakranがあるよね〉みたいに言ってもらうことですかね(笑)。
4ADとかXL Recordingsのようなレーベルをベンチマークにしている部分があります。彼らはメインストリームとインディーの接点を担っているので、そういう部分が近いなと感じているので。ただ、彼らのようになるのは、何年かかるかわからないですけど」
TikTokなどの新たなSNSの登場やストリーミング・サーヴィス全盛時代の到来によってもたらされたのは、即効性のある音楽が量産されて消費される状況です。そんななかで、才能にあふれた新人アーティストの宝庫ともいえるTikTokにはレーベルのA&Rが張り付いており、アーティストの争奪合戦が起きています。一方、アーティストはバズやミームを生むことでSpotifyで数十万の月間リスナーを獲得するなど、以前とは比べ物にならないほど音楽の即効性が重視されている。数値で測られる人気度のパラメータ、そしてファンと一対一で関わるSNSは、新しいアーティスト像を形作っていると言えるでしょう。
今回Ryuuta Takakiにインタビューをして、そういったストリーミング時代における音楽のプラスとマイナスの両面が見えてきました。makranはそんな〈即効性の音楽の時代〉を疑問視し、それとは真逆の長期的な視点でアーティストのキャリアを考えています。ゆっくり、じっくりと浸透させていく、という現在の価値観に真っ向から反するオルタナティヴ――それが、レーベルが標榜する〈Journey〉であると明確になりました。
また、makranは音楽のみならず、音楽に関わるカルチャーすべて巻き込んでいき、後世へと遺伝子を伝えていこうとしています。〈ミーム〉の本来の意味を取り戻すこと、それもmakranが持つもう一つの表情です。
makranの〈旅〉はまだ始まったばかり。これから長い年月をかけて、〈最果て〉である日本から他のアジア諸国、欧米、そしてマージナルな世界へと、その名を広めていくことでしょう。今後のレーベルの活動は、絶対に見逃せないものになるはず。ぜひ彼らのYouTubeチャンネルやInstagramなどをフォローして、makranの動向を追ってください。
