酒造りのために生まれた交響曲~演奏を聴かせながら醸造させたお酒はどうなるのか?
牛にモーツァルトを聴かせると牛乳が美味しくなるとか、イチゴに聴かせると甘くなるなどといった話しはよく聞く。また観葉植物を育てているひとは植物に話しかけると育成が速いともいう。音や音楽が人間以外の動植物にも影響を与えるのは確からしいがそれがさらに原始的な菌や酵母となるとどうなのだろうか?
そんな疑問のヒントになるかもしれないのが日本センチュリー交響楽団と獺祭、オンキヨーによるプロジェクト〈交響曲 獺祭 磨〉である。
山口県の酒造メーカー旭酒造の銘酒、獺祭の醸造に音楽を聴かせるとどう変化するのか、そのために新作の交響曲の作曲を和田薫さんに委嘱。そして出来上がったのが“交響曲 獺祭~磨 migaki~”であり2月27日に飯森範親さん指揮、日本センチュリー交響楽団によって初演される。その会場にて実際にこの交響曲を聴かせて作られた獺祭も販売されるとのこと。和田薫さんと言えばライヴ・シネマ形式に編曲した伊福部昭のゴジラを日本センチュリー交響楽団を指揮して録音したアルバムが記憶に新しいが、師の伊福部昭を継承した重厚、壮大なオーケストレーションが魅力でその作風はこの交響曲にも遺憾なく発揮されている。獺越、発酵、酔心、熟成、その先へ、の5楽章からなる大作である。
最初の話に戻れば醸造にもモーツァルトのような癒し系音楽が良さそうな気もするが発酵というより活発な成長過程にはこのような言わばテンションを上げる音楽のほうがよいのかもしれない。いずれにせよ地球上のあらゆる生命体にとって音楽は普遍的なものであり影響を与えるのが確かだとしたらそれ以上はどうなのか。今も宇宙空間を進み続けているNASAの無人探査機ボイジャーに搭載されているというグールド演奏のバッハがいつか地球外生命体と遭遇した時どんな反応が生じるのか、5楽章“彼方へ”を聴きながらそんな事を空想してしまった。