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アメリカーナとオルタナティヴ・ロックの酒場での出会い

――今回、そんなザ・ナショナルの初期作品『The National』『Sad Songs For Dirty Lovers』『Cherry Tree EP』がリイシューされました。

木津「僕は、リアルタイムでは知りませんでした。当時はR.E.M.が大好きな高校生で、ウィルコやスフィアン・スティーヴンスは聴いていたんですけど。ザ・ナショナルを初めて聴いたのは『Alligator』(2005年)で、本格的にハマったのは『Boxer』(2007年)から。そういうリスナーは多いんじゃないかな」

――『Alligator』からベガーズ・バンケットに所属したので、それ以前はほぼ無名と言っていいくらいだと思います。

木津「それ以前は自分たちが運営するレーベル、ブラスランド(Brassland)からリリースしていたんですよね」

岡村「既存のレーベルに頼らずに、自分たちでコントロールして作品を作ったのはおもしろいですよね。ザ・ナショナルが登場した2000年前後といえば、NYではストロークスやインターポール、ヤー・ヤー・ヤーズのようなストレートなガレージ・ロック、ロックンロール・バンドが盛り上がっていました」

――いわゆるロックンロール/ポスト・パンク・リヴァイヴァルのムーヴメントですね。

岡村「なので、音楽性の異なるザ・ナショナルがそのタイミングでレーベルにアピールしても、作品を出せなかったのかもしれません。

その代わりに、友人たちと立ち上げたレーベルを拠点にチームのみんなで浮上していくことを選んだ。ストロークスのようにいきなりメジャーからデビューしたわけではないので、レコードを売ることよりも、仲間たちと一緒にがんばっていくことを優先したのでしょう」

――コミュニティー的な在り方を初期から貫いていたのだと。

木津「今回ライナーノーツを書くにあたって当時のレビューなどを調べていたら、ザ・ナショナルの音楽はアメリカーナとオルタナティヴ・ロックのバールーム(酒場)での出会いだ、と書かれていました。

21世紀に変わる頃のアメリカではウィルコの存在感が大きくて、彼らこそがオルタナティヴとアメリカーナという2つの文脈を繋いでいたんですよね。なので、ウィルコの音楽は当時ロックを志していた若者の指針になったはず。ガレージ・ロックのシーンとは別にアメリカーナ系のロック・アーティストが育ちはじめていて、ザ・ナショナルもそれと同期していたと思いますね」

岡村「その一方で、ザ・ナショナルはイギリスのニューウェイヴ/ポスト・パンクが大好きなので、ダークでひんやりとした感覚も持ち合わせている。先日ベーシストのスコット・デヴェンドーフにインタビューをしたら、〈初期はバンドの在り方なんて考えずに録音していたんだ〉と言っていました。なので、木津くんが言ったような資質は自然と出たものなのでしょうね。初期3作は助走段階だと思います」

木津「いま聴くと、試行錯誤しているのを感じますよね。ザ・ナショナルにも初々しい頃があったんだなって。でも、セカンドでは要素がかなり出揃っています――オルタナティヴ、アメリカーナ、英国ニューウェイヴ的な感覚、そしてなによりストリングスのアレンジですよね。これらが、ブライスが加わって5人のバンドになったことでうまく組み合わさった。ストリングスといっても、ブライスのアレンジは音楽をゴージャスにするためのものではなくて室内楽的なもので、同世代のバンドの作品と比べても洗練されていますね」

※ブライス・デスナーが正式なメンバーになったのはセカンド・アルバム『Sad Songs For Dirty Lovers』からだが、ファースト・アルバム『The National』の制作にも関わっている

岡村「私はリリース当時、正直に言って、〈すごくいいバンドが出てきた〉とは思わなかったんです。でも、だからこそ、いま聴くとザ・ナショナルの素質が展開されている作品として聴けるので、すごくおもしろいんですよね」

木津「この頃はキラーな曲があまり多くないので、仕方ないと思います。ただ、そのなかでも『Cherry Tree』に入っている“About Today”は素晴らしいですよね。映画で何度も使われていますし、ミニマルな言葉でザ・ナショナル的な文学性を表している曲です。その後の方向性を決めた重要な一曲だと思います」

『Cherry Tree EP』収録曲“About Today”

岡村「セカンドには、9.11を受けて書かれたダークな“It Never Happened”があります。絶望的な感覚が自然と表れているのは、当時の彼らがNYという9.11の現場にいたことが大きかった。その体験が、リベラルなバンドとしての自覚を強めたのかもしれません」

『Sad Songs For Dirty Lovers』収録曲“It Never Happened”