眠れない夜のメランコリックな時間、遠い記憶に想いを馳せて……またも作風を転換して桁外れのヒットを記録中の新作『Midnights』が放つ麗しい魅力に迫る
眠れぬ夜のイマジネーション
米ローリング・ストーン誌から英ガーディアンまで欧米メディアがこぞって絶賛。満点となる5つ星を付けて、〈知的でリッチ〉〈思いの他にフレッシュ〉〈彼女の最高傑作〉と賞賛の言葉を惜しまないテイラー・スウィフトのニュー・アルバム『Midnights』。30歳の娘に勧められて聴いたというブルース・スプリングスティーンは〈いいアルバムだよ。彼女には凄く才能がある。とてつもなく素晴らしいソングライターだ〉とベタ褒め。親友セレーナ・ゴメスはもちろん、U2のボノや女優のリース・ウェザースプーンも興奮気味で、〈大好き〉〈素晴らしい〉を連発する。しかもセールス面での記録がぶっ飛んでいる。英米をはじめとする世界各国のアルバム・チャートで軒並み1位を獲得。アメリカでは過去7年間でもっともビッグな初週セールス記録を打ち立てた。同作からのファースト・シングル“Anti-Hero”も、もちろん各国チャートのトップを制覇。アメリカではシングル・チャートの1~10位を彼女の曲が独占するという異常事態になり、これはもちろん史上初の快挙。毎回アルバムを発表するたびに狂騒を巻き起こしてきたテイラーとはいえ、今回は特に桁外れという印象だ。
『Midnights』と題された通算10作目のアルバム。そのタイトルを耳にして、夜のしじまを思わせる、ぼんやりした音像の、眠りを誘うアルバムじゃないかと勝手に想像していたら、これが違っていた。彼女が眠れぬ夜に書き綴った、というこのアルバム。過去の出来事や想い出、恋愛などを振り返りながら、あれこれ思いを巡らせる。イマジネーションをどんどんワイルドに膨らませ、深夜のベッドルームから飛び出していく。ここ数作においては架空の人物や他者のストーリーテラーというスタイルに傾倒していたが、プライヴェートを題材にしたかつての彼女らしい作風も復活した。
例えば先述のシングル“Anti-Hero”は、彼女自身の悪夢にインスパイアを受けたというもの。いくら年齢を重ねても、自分に自信が持てなかったり、鬱になったり、自己嫌悪に苛まれるという、彼女自身のメンタルヘルスにまつわる葛藤が歌われる。MVには、以前から告白していた摂食障害との闘いを思わせる、体重計に乗って顔をしかめるシーンも差し挿まれ、スーパースターであるにもかかわらず、一般人と同じ問題を抱え、悩まされていることを知らせてくれる。とはいえ、リリックの重いテーマとは裏腹に、サウンドは至って軽妙、ポップなシンセが高らかに鳴り響く。