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辛い時期を乗り越えられた

 だが、今年の元日に公開された“Anyone”と3月の“Hold On”あたりから、〈なんだか今度のジャスティンは違うぞ〉と異方向のベクトルを感じた人も多いはずだ。一度聴いたら忘れられない溢れ出すメロディーと、多彩な声色を使いつつも驚くほど直球なジャスティンのヴォーカル。いままで以上に歯切れが良くて、のびのびと披露される、そんな彼の歌声から伝わる充実感や昂揚感は、このアルバム『Justice』全体にも漲っている。

 さまざまなハイライトが盛りだくさんのアルバムだが、なかでもいちばんの特長は、80年代的なメロディーやサウンドが随所に窺える点だ。本人いわく「ちょっとフィル・コリンズっぽいよね」という“Deserve You”のドラミングなどに代表される派手な音使いは、まさにその典型だろう。〈歌謡ディスコ〉とでも形容したい“Die For You”も、やはり80年代的なアレンジが光っている。ウィークエンドやデュア・リパ、ドージャ・キャットらがリヴァイヴァルさせているレトロ調サウンドを、見事に現代テイストで刷新。同曲に挿入されたキング牧師の激しい口調のスピーチに関しては、「キング牧師は死ぬ覚悟でこのスピーチを発していたはず。この曲に相応しいと思ったんだ」とジャスティン。そういった社会派のメッセージを導入しているのも、新生ジャスティンならでは。この3月に27回目の誕生日を迎えた彼の成長ぶりを窺わせる。自身の弱みや失敗をさらけ出すことも、いまの彼はもう恐れない。感傷的でメランコリックな“Unstable”というナンバーでは、不安定だった自身の過去を振り返る。

 「1年ほど前だったけど、最悪の状態だったんだ。その当時のことを歌っている。誰にでも辛い時期ってあると思うけど、妻がいてくれたから僕は乗り越えられた。みんなに共感してもらえるんじゃないかな。恋愛を歌うのもいいけれど、こういう不安定な気持ちを歌うことも大切じゃないかと思うんだ。特にいまだとコロナ禍で仕事や恋人、生活そのものを失って不安になってる人も多いと思うんだ」。