画面の暴力に引き裂かれ、苛まれる世界——ルールを取り払うことで新たな制約に挑んだ3人は、かつてない自由さでバンドの新しい扉を開くことに成功した!

スクリーンだらけの毎日

 「チャーチズというバンドが、エモーショナルで繊細でありながらも、ダークでアグレッシヴなバンドにもなりうるということを証明しているのがこのアルバム。そのバランスはバンドにとってとても大事なの。ポップソングなんだけれど、しっかりと意味のある作品を作る。それを恐れずに堂々とできるようになっているのがいまの私たちだと思う」。

 そう語るローレン・メイベリー(ヴォーカル)と、マーティン・ドハーティ(キーボード/ヴォーカル)、イアン・クック(キーボード/ベース/ヴォーカル)から成る英グラスゴー出身のエレクトロ・ポップ・バンド、チャーチズ。2011年に結成され、BBCの〈Sound Of 2013〉選出を経てファースト・アルバム『The Bones Of What You Believe』(2013年)が全英TOP10入りを記録し、以降もコンスタントにアルバムを発表、早い段階から来日公演も実現するなど日本でも人気の3人組だ。その結成から10年という節目に届いた通算4枚目のアルバム『Screen Violence』は、かつてないシチュエーションのなかで新しいプロセスに踏み出した意欲作となった。

CHVRCHES 『Screen Violence』 Goodbye/BEAT(2021)

 「『Screen Violence』というタイトルは、私たちが以前ボツにしたバンド名候補の一つだった。2019年のツアーが終盤に差し掛かった頃、みんなで次は何をしようか考えはじめたんだけど、その時に自分たちのアーカイヴをいろいろ見てたら、バンド名の候補リストが出てきて、なかにはホントにダサいものもあったけど(笑)、そのリストの中に〈Screen Violence〉という言葉を見つけた。当時それを選ばなかったのは、たぶんレトロすぎると感じたからだったと思う。でも、その言葉が持つ二重性がいいなと私は思ったのよね。映画や映像制作っぽい言葉に捉えられるし、すごくヴィジュアル的な言葉だから、言葉を聞けば何となく像が見える。でも同時に、画面を通しての暴力/画面による暴力という意味では、近年よく目にするようになっている。私たちはデヴィッド・クローネンバーグの『ヴィデオドローム』(83年)の話をたくさんしていたんだけど、あの映画が作られたのは昔だとしても、そのコンセプトは現代にすごく関連していると思う。当時はそれがTVや映画だったというだけ。クローネンバーグの〈Screen Violence〉というアイデアは、いま携帯電話やSNS、インターネットと私たちがいかに関わり、影響を受けているかに大きく関係している。特に最近はそうよね。でも、アルバムのタイトルを決めた時点では、その翌年(2020年)がここまで〈スクリーン〉だらけの毎日になるなんて考えてもなかった」。

 具体的なアルバム制作のスタートは2020年2月。パンデミックで移動が制限される前のギリギリのタイミングだったそうだ。

 「イアンがLAに来て、パンデミックが始まるまでの数週間でデモを仕上げることができたのはラッキーだった。その最初のデモ作りの期間以外はすべてリモートで作業をしたの。今回は先にタイトルを決めて作る初めてのアルバムだったから、イメージや世界観がすでに決まっていたし、リリックもそれに合うように書いていって、制作するのがすごく楽だったと思う。イメージだけがあって、果たしてそれがどんな内容になるのかは私たちにもわからなかったんだけど、これまで通りの状況に普通の作り方でアルバムを作っていたら、たぶん仕上がりはきっと違っていたはず。この時期だからこそ出来たアルバムだと思う」。

 ローレンとマーティンはLA、イアンはグラスゴーという離れた場所で隔離生活を送りながら、スクリーンを通じてリモート作業でレコーディングが進められた本作は、グレッグ・カースティンら外部クリエイターにプロデュースを仰いだ前作『Love Is Dead』(2018年)から一転し、ふたたびセルフ・プロデュースによるもの。それは物理的な制約に伴う選択だったかもしれないが、結果的にはバンドの3人による独創性とクリエイティヴィティーの掘り起こしを促すことになった。

 「イアンとマーティンが、チャーチズが結成されて間もない頃に聴いていたバンドの話をしはじめたから、ロックダウン中はニュー・オーダーやジョイ・ディヴィジョン、キュアー、デペッシュ・モード、グレイス・ジョーンズ、ゲイリー・ニューマンなんかをたくさん聴いて過ごしていて、そういう音楽から得た要素をコンテンポラリーなソングライティングの中に落とし込むようになった。歌詞的にも、昔はニック・ケイヴみたいな物語っぽい歌詞にハマっていたんだけど、それはもう何度もチャーチズでやってきたし、ちょっとルールを変えてみてもいいかなと思うようになった。自分たちで制限するのではなく、いろいろやってみて様子を見るというアプローチに興味を持つようになって、それがバンドの音楽の新しい扉を開いてくれたと思う。あと、ロックダウンのおかげで、皆で一緒にしっかりと作業をするという良いエクササイズができたんじゃないかな。私たちは常に動いているタイプのバンドだけど、曲作りしかできることがなくなってしまって、でも、それが安らぎを与えてくれた。毎朝起きて友人たちと曲を作るという義務があったのは、バンドにとってすごく良いことだったわ。そういうアプローチで曲を作ったのはかなり久しぶりでもあったし。結果的にセルフ・プロデュースになったけど、グレッグ・カースティンたちとの作業から学んだことも活かされているし、その意味でも本当にラッキーだったと思う。イアンとマーティンが本当にいい仕事をしてくれて、ミックスまで手掛けてくれた。ミックスについてはそこまで詳しいわけではなかったから、新しいことに挑戦して見事に成し遂げた二人をすごく誇りに思う」。