(左から)ジャスティン・ヴァーノン、アーロン・デスナー
Photo by Graham Tolbert

2020年にリリースされたテイラー・スウィフトのアルバム『folklore』と『evermore』。現代最高峰の女性シンガー・ソングライターであり、セールス面でもトップランナーであり続けるテイラーが、リモートで制作したこの2作品がコロナ禍で停滞する音楽シーンに大きな輝きをもたらし、アーティストたちにとっても、リスナーたちにとっても指標の一つとなったのは言うまでもない。

そのテイラーの2枚のアルバムをプロデュースしたのがアーロン・デスナー、そう、今や全米を代表するバンドと言ってもいいナショナルのギタリストにしてソングライター、そして数多くのアーティストを手がけるプロデューサーだ。テイラーの作品を手がけたことによって自身も大きく改革したと認めるそんなアーロン・デスナーと、ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとが組んだユニット、ビッグ・レッド・マシーンが、ニュー・アルバム『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』をリリースする。

2018年のセルフ・タイトル作『Big Red Machine』に続く2作目になる今作は、まさにテイラーの去年の2作品の延長線上にあるフォーキーで自省的な一面が、他者とのつながりを促すような曲が多く並ぶ。即興的でビートを強く押し出した作品だったファーストとは対照的と言ってもいい。

アルバムにはテイラー・スウィフトはもちろん、アナイス・ミッチェル、フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールド、ナイーム(スパンク・ロック)、ベン・ハワード、ディス・イズ・ザ・キットのケイト・ステイブルズ、シャロン・ヴァン・エッテン、リサ・ハニガン、マイ・ブライテスト・ダイヤモンド……と実に多くのゲストが参加。二人がイベントやフェスも手がける仲間であり同志であり、果ては〈PEOPLE〉という様々な業種の仲間たちを集めたコミュニティーとしてともに活動していこうとする開かれたスピリットの持ち主であることを象徴してもいる。

そのビッグ・レッド・マシーンの新作について、アーロン・デスナーに話を訊くことができた。もちろん、テイラー・スウィフトとのコラボレーションのいきさつやエピソードもたっぷり話してくれている。今回、このアーロンとの対話は、MikikiとTURNにて同時公開となっているが、それぞれ違う話が展開されているので、両A面のような感覚でぜひハシゴして読破してもらえれば幸いだ。ここまでガッツリとアーロンの発言記事がネット・メディアに掲載されるのも日本では滅多にないこと。まぎれもなく現在のアメリカの……いや世界規模で見ても最重要人物の貴重なロング・インタビューである。

BIG RED MACHINE 『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』 Jagjaguwar/37d03d/BIG NOTHING(2021)

 

『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』の参加アーティストたち
Collage by Graham Tolbert

様々な人々が交差する〈コミュニティー・ミュージック〉

──ニュー・アルバム『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』は、あなたやジャスティンの個別の活動、あるいは〈PEOPLE〉※での活動……すなわち〈コミュニティー・ミュージック〉という思想、アイデアが全て地続きになっていることを改めて証明しうる作品だと思いました。ある意味で、このアルバムはあなたとジャスティンのこの15~20年もの活動の集大成ではないかと。

※編集部注 〈37d03d〉とも。ジャスティン・ヴァーノンとアーロン&ブライス・デスナーが主導するコレクティヴ/プロジェクト/レーベルで、フェスティヴァルを主催するとともに、音楽や映像などのコンテンツを配信するプラットフォームも運営。2020年8月にレーベルとしてのコンピレーション・アルバム『37d03d MixTape01』をリリース

「このアルバムを、これまでのコラボレーションや探求、友情と結びつけているのは、本質を突いていると思う。このアルバムは、楽曲と同じくらい、コミュニティーや友情を象徴している。長い間、築き上げてきたものが実を結んだと言える。

ビッグ・レッド・マシーンの1作目も、今作のようなものを作ろうとしていたんだ。様々な声のコミュニティーであり、キャラクターは異なるけど、共通したテーマがある、という。でも、前作はジャスティンがほとんどの曲を歌っている。それに対して今回のほうがよりコミュニティー作品という感じがするし、このプロジェクトで自分たちが思い描いていたものに近い。

これはいつも言うことなんだけど、これまでやってきた全てのことがあったからこそ、この作品が生まれた。テイラー・スウィフトとの仕事もそう。あの前にやってきたことがあったからこそ、できたと思っている」

『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』収録曲“Renegade (Feat. Taylor Swift)”

──今回のアルバムの作業はコロナ禍以前の2019年からスタートしているそうですね。どのようなきっかけから始まり、どのように進んでいったのか教えてください。最初は、このセカンド・アルバムに対してどのようなヴィジョンを描いていたのでしょうか?

「ビッグ・レッド・マシーンは本当に楽しいプロジェクトで、1作目を作って、演奏をして、多くの刺激をもらった。その勢いのまま僕自身、音楽を作り続けていて、ビッグ・レッド・マシーンの曲がまだまだ自分から出てくると感じたんだ。

2018年5月にジャスティンとブラッド・クックとドラマーのJT・ベイツがNY北部にある僕のスタジオに来てくれて、そこで彼らに新しいアイデアを聴かせて、みんなで即興で肉付けした。ジャスティンがいろいろ歌ってくれてね。それが今作の種蒔きの瞬間だ。そこから完成するまでには長い時間がかかった。で、コロナ禍になる直前にジャスティンとテキサスで会って、そこで多くの曲の構想が出来上がった。それによって、完成させるまでに必要な勢いが生まれた。

テイラーには、出来た曲を聴いてもらって、感想と励ましを山のようにもらったよ。そのあたりから、いろんな友達が、僕が完成に近づきつつある楽曲群に取り組んでいることを感知して、ロビン・ペックノールドやアナイス・ミッチェルといった友人たちが仲間に入ってきて、アイデアを出してくれて、歌を提供してくれた。自然な成り行きだったよ。そうしているうちに、〈出来たかも〉ってなって(笑)。信じられなかったし、凄くワクワクした」

『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』収録曲“Latter Days (Feat. Anaïs Mitchell)”

──曲はあなたとジャスティンとの共作が軸にはなっていますが、少しずつ異なる組み合わせで作られています。様々なアーティストと一つのアルバムで共作するのは作業上も大変だったかと思いますが、どのように進めていったのでしょうか? 最初からそれを想定していたのでしょうか?

「様々なアーティストとの共作は最初から念頭にあって、それを形にすることができて良かった。制作の初期段階は、僕とジャスティンで進めて、その後しばらく僕が一人で取り組んで、次第に人とも作業を共有するようになった、という流れだった。正直、一人での作業もかなり長い間あったけど、いろんな人とのコラボレーションという、このプロジェクトの指針となっているところに最終的に行き着くことができた。多くの友人たちが、大事なアイデアを出してくれたよ」

──フリート・フォクシーズのロビン(“Phoenix”)、ベン・ハワードとディス・イズ・ザ・キット(“June’s A River”)、シャロン・ヴァン・エッテンとリサ・ハニガンとマイ・ブライテスト・ダイヤモンド(“Hutch”)、そしてテイラー・スウィフト(“Birch”と“Renegade”)……。このアルバムには本当に多彩なゲストが参加していて、あなた方がさながら人間交差点のように多くのアーティストとつながっていることに改めて気付かされます。

「ああ。以前にも仕事をしたことがある人たちばかりで、お互い慣れ親しんだ者同士で会話ができて、自分の音楽頭脳の一部というか、家族の一員の人たちなんだ。例えばリサはこれまでにも多くの作品を一緒に作ってきた。シャロンはナショナル以外で初めて僕を信頼してプロデューサーに起用してくれたんだ。テイラーも今となっては、何でもお願いできるような人の一人で、いつも熱意でもって応えてくれる。ロビンはずっと前から一緒にやりたいと思っていた人で、彼に関しては今回初めて声をかける形になった。

『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』収録曲“Phoenix (Feat. Fleet Foxes & Anaïs Mitchell)”

正直、物凄く考え抜いて選ぶわけではなく、出来た曲にもよるんだ。例えばアルバムには複数のドラマーが参加してくれていて、それぞれスキルが違う。だから大抵は、どんな曲かで〈これはJTにお願いしよう〉〈これはビッグ・シーフのジェイムズ(・クリヴチェニア)だ〉って決めてお願いをする。大掛かりなマスタープランがあるわけじゃなくて、自然な形でつながった家族のようなものなんだよ」

 

アーロン・デスナー
Photo by Josh Goleman

アーロン・デスナーとビッグ・レッド・マシーン、それぞれの出発点

──そもそもビッグ・レッド・マシーンの始まりは、あなたとブライスがキュレートしたチャリティー・オムニバスの『Dark Was The Night』(2009年)の頃に遡ります。あの時にあなたが“Big Red Machine”というタイトルの曲を作り、ジャスティンに送ったことがきっかけになったそうですね。それに対しジャスティンが〈a beating heart(脈打つ心)〉と解釈したことがこのユニットの出発点になった……。実際のところ、あなたはその“Big Red Machine”という曲に、当初はどのような意味を与えていたのでしょうか?

「あの曲を書いたそもそものきっかけは、ジャスティンに『Dark Was The Night』に参加してもらいたくて声をかけた時だった。ジャスティンはすぐに“Brackett, WI”という素晴らしい曲を送ってくれたよ。それが本当に美しい曲でね……彼のファースト・アルバム(2008年作『For Emma, Forever Ago』)よりも冒険をしている曲だった。

2009年のコンピレーション・アルバム『Dark Was The Night』収録曲ボン・イヴェール“Brackett, WI”

それを聴いて、彼にもっと何か書いてもらえないかなと探るつもりで、“Big Red Machine”という素描の状態の曲を送ったんだ。変拍子で、長調も短調も入り混じっている、正直少しとっ散らかった曲だったんだけど、彼は僕の意図を汲み取ってくれて、3日後には、自分で書いたものを送り返してくれた。

2009年のコンピレーション・アルバム『Dark Was The Night』収録曲アーロン・デスナー“Big Red Machine”

そこで彼は“Big Red Machine”を〈脈打つ心〉と解釈してくれたわけだけど、僕が最初にその名前をつけた由来は違っていたんだ。もともとは僕の故郷のシンシナティの野球チーム、シンシナティ・レッズに由来していてね。僕が生まれた76年に、彼らはワールド・シリーズを制覇して〈Big Red Machine〉と呼ばれていた。それを、無作為に、自分が書いた音楽につけただけだった。

そうやって、実際に会う前に既に二人で曲を書いたことが、強い友情を築く礎になった。何年も経って、その続きをやろうってことになって、この“Big Red Machine”を、一緒に主催した〈Eaux Claires Festival〉で一緒に演奏した。かなりゆるい、即興に近い形で。それがきっかけで、僕が他にも曲を演奏して、彼がそれに合わせて歌う、ということをやるようになって、ビッグ・レッド・マシーンというバンドが生まれたというわけなんだ」

──“Big Red Machine”という曲を作った時の意味、ヴィジョンは、そこから10年以上が経過し、ユニット名となってから拡張しています。〈PEOPLE〉のような活動にも発展していき、一つの〈姿勢〉のようにもなった今、あなた自身はどのように受け止めていますか?

「いや、こうなっていくだろうなんて全く想像していなかった。最初はただ楽しくてやっていただけだから。ただ、二人とも、自分たち以外のアーティストや仲間をフックアップする、つまり、他の人たちにも表現の場を与えることに積極的だ。

あと、ミュージシャンとして成長するためにはコラボレーションや、思い切った冒険をするのが大事だと思っている。そういう意味でも、ビッグ・レッド・マシーンは、〈曲とは何か〉〈バンドとは何か〉〈アルバムとは何か〉という部分で違うやり方を取り入れて、いろんなことが試せるチャンスだった。ナショナルやボン・イヴェールの作品を作るのとは違うんだ。ビッグ・レッド・マシーンのほうが、なんでもあり。どんなものが生まれるかは、やってみないと誰にもわからない。逆にどんな作品にだってなり得る。そこにワクワクさせられるんだ」

──ファースト・アルバムは、今回のアルバムとは異なり、もっと即興的な側面と、構造化された実験主義とも呼べるような側面とが表出された作品でした。今振り返ってみて、『Big Red Machine』は、どのような作品だったと位置付けますか?

「今でも凄く大好きな作品だ。聴き返すたびに〈どうやってこれを作ったんだっけ〉と思ってしまう。でも確かに緩いよね。新作のほうが野心的で、ソングライティングに力を入れている。わかりやすいテーマもあるし、より完成度の高い作品になった。

2018年作『Big Red Machine』収録曲“I Won’t Run From It”

でも1作目も、このプロジェクトの種が撒かれているのを聴き取ることができる。アイデアを試しているという意味でね。あのアルバムで初めていろんなドラムをプログラミングして、いろんなテクニックを試していた。サウンドを抽象的に使ったりとか、ペンキが乾き切ってない状態で〈完成〉と見做したり、あるいは〈これ、自分でも何だかよくわからないけど、めちゃくちゃ気に入った〉と思えたり。ナショナルのアルバムだと、全てがとことん考え抜かれているのに対してね。窓を開けっ放しにしておくことをよしとすることに何か魅力がある。それは新作にも言えるよ」

──故郷であるオハイオ州はシンシナティで音楽活動を始めた若い頃から、このように他者との関係性の中で音楽を模索し、創作していくというイメージ、夢を持っていたのでしょうか? 今回のニュー・アルバムには過去を見つめ直す、問い直すような側面があるようにも見受けられますので、あなたの出発点・原点が、そもそもそうした〈PEOPLE〉的な思想に基づいていたのかどうか、そのあたりも訊かせてください。

「兄弟のブライス(・デスナー)が地元のシンシナティで音楽フェスティヴァルを始めたのがきっかけかな。〈Music Now〉といって16年前に始めたんだけど、発想としては〈新しい委託制作〉というのか、〈人にこれまで演奏したことのない音楽を作ってもらう〉というものだった。バンドにいるとどうしても、各地を転々として同じ曲を繰り返し演奏することになる。そうしたルーティーンへの反動だったんだ。そういう作業って行き詰まる要因になりかねないからね。その時から、こういった活動が大事だってことを本能的に察知した。

僕たちの音楽へのアプローチは、コラボレーションをする機会をできる限り作ることだったり、領域を超えて人とつながることだったり、壁を壊すことや、やっていることが理解できない人から学ぶことだったりする。何か不可解なエレクトロニック・ミュージックを作っているミュージシャンがいたら、手の内を見せてもらいたいと思う。でも、いきなり電話して〈手の内を見せてほしい〉とは訊けないから、何か一緒にやれる機会を作るんだ。自分とは音楽性が全く違う人たちと同じ部屋で作業することができるかもしれないからね。

実際、そうすることで、最高の作品をこれまで作ってこられたと思っている。いろいろ学ぶことができるから。人によって音楽への向き合い方が違うんだ。ハーモニーの感性だったり、何をどう使うかって考え方だったり。若い頃から考えていたわけじゃないけど、結果的に今、自分がそういう活動をしているのは理にかなっていると思っているよ」

 

壁を壊すこと、商業主義から解放されること

──今作には“The Ghost Of Cincinnati”という、アルバムの中で随一の美しさを放つ曲があります。これは映画監督のニコール・リーゲル(Nicole Riegel)と歌詞を共作し、あなたが作曲・演奏を行っている曲で、ニコールの新作の脚本「Dandelion」にインスパイアされたものだそうですね。もちろんタイトルにあるシンシナティはあなたの故郷の町です。そのようにあなたの過去=出発点と、現在進行形の思想や出会い、つながり、循環などがクロスーヴァーしているのがとても興味深いと感じるのですが、実際にあなたの中ではこの曲はどのような意味を持っているのでしょうか?

「あの曲は、自分を幽霊みたいだと感じている人のことを歌っているんだ。空虚で空っぽな気持ちを抱えたまま自分の故郷の街をぶらついているんだけど、誰の目にも留まらない。それでも必死に生きる意味だったり、自分が抱えている問題の解決方法だったりを探している。失ってしまった人や、失いそうで怖い人たちについての歌でもある。抱えきれないものを抱えたり、消費しすぎて破産してしまったりする人たちがいる。

それは精神的にも、経済的にも、感情的にも言えることで。僕自身にも当てはまるし、僕の父親や友人にも当てはまる……うん、シンシナティへの思いを綴っているのは間違いない。シンシナティを出たのは18歳の時だけど、今でも当時をよく思い出すよ。家族の歴史やトラウマと切っても切れない街だから。シンシナティは大好きな街だし。過去を振り返ることで、今の答えを見つけようとしている、という感じかな」

『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』収録曲“The Ghost Of Cincinnati”

──ちなみに、監督のニコールとはいつ頃、どのように知り合ったのでしょうか?

「ニコールは、『Holler』という素晴らしい映画を監督した人で、彼女が〈今制作している新作『Dandelion』の音楽を作ってくれないか〉と僕とブライスに声を掛けてくれたんだ。

この曲は、映画に登場する〈Dandelion〉という人物をもとにしているんだけど、シンシナティに住む日の目を見ないソングライターで、誰にも存在を知ってもらえなくて、幽霊になったような気持ちを抱えている自分に嫌気がさした女性なんだ。その脚本を読んで、その主人公は女性だけど、彼女の気持ちにもの凄く共感ができた。それでこの曲を書いたんだ」

「Holler」トレイラー

──あなたはナショナルでも、例えば『I Am Easy To Find』(2019年)でマイク・ミルズ監督と組んで短編映画を制作したり、ソロ・ワークとしてサウンドトラックを制作したり、常に音楽と映像の世界をシンクロさせています。ビッグ・レッド・マシーンではそれが実にナチュラルにシンクロしているようですが、どういったことが映像や映画の世界と音楽とのクロスオーヴァーがもたらすと考えますか?

「このバンドはライブをやるわけじゃないから、その分映像は凄く大事だと思っている。ビッグ・レッド・マシーンではマイケル・ブラウン(Michael Brown)というビデオ・アーティストと、グラハム・トルバート(Graham Tolbert)というコラージュなどを作るヴィジュアル・アーティストの二人に映像を作ってもらっているんだけど、二人とも刺激を凄くたくさんくれる人で、バンドの音楽を気に入ってくれて、それを見事に映像化してくれている。

実はもともとこのバンドでツアーをするつもりはなかったんだ。僕もジャスティンも、そういう活動はナショナルとボン・イヴェールでやっているからね。やれたらいいけど、実現するかはわからないって感じで。それだけにこれはアート・プロジェクトみたいなものだと思っていて、映像や音楽で、いろんな人にその創造性を発揮してもらう場を作りたいと思っているんだ。ヴィジュアル・アーティストが音楽にどう反応するか見るのも好きだしね」

──まさに〈PEOPLE〉の在り方の実現ですね。業種や職種を超えたクリエイター、アーティストたちとつながり、ともに上昇していこうとする姿勢。

「ああ。その時々でいろんな形態をとっているけど、根底にある考えは、アーティストが集まって、商業的に販売される商品を制作しなければいけないというプレッシャーを感じることなく、何か新しいものを一緒に作る場を提供することで、音楽産業の供給経路から解放されることだ。〈次の作品は何?〉〈次は何をやるの?〉〈何を売るの?〉といったことばかりが要求される音楽の世界で、多くのアーティストは感覚が麻痺してしまう。次第に同じことを繰り返すか、人気ばかりを気にして実験性や革新性を失ってしまう。

〈PEOPLE〉は、そうしたサイクルから抜け出すことを目的としていて、いろんな形態をとってきたよ。レジデンシー公演の最後に無料のパブリック・パフォーマンスをするとか。一時、みんながアイデアを共有できるデジタル・プラットフォームを作ってみたこともあった。思ったようにはいかなかったけどね。あとはレコード・レーベルを作って、できる限りいろんな音楽を世に出してきた。商業重視のレーベルだと弾かれてしまうようなものや、ビッグ・レッド・マシーンみたいに売れるものでも新しいことをやっているプロジェクトの発表の場にもなった。

一番の目的は、人と人の間の壁を壊し、普段やっていることとは違う系統の作品を作る機会を提供することだね」

 

テイラー・スウィフト
Photo by Beth Garrabrant

テイラー・スウィフトから学んだことは多い

──さて、何と言ってもこの1年半ほどの間、テイラー・スウィフトとの交流・作業が、あなたにとっても、音楽シーンにとっても大きな節目となったわけですが、テイラーがナショナルのライブを観にきた時に初めて会い、去年コロナ禍に入って彼女から連絡があった……というエピソード以外の話も訊かせてください。そもそもあなた自身はテイラーの作品、ソングライティングに対してそれまではどのような印象を持っていたのでしょうか?

「もともと彼女のアルバム『1989』(2014年)がとても好きで、あのアルバムがきっかけで彼女の音楽に凄く興味を持つようになり、彼女が知識豊富な人だってことにも気付いた。だって、『Red』(2012年)はカントリー色を残しながら、素晴らしい楽曲も入っていた作品だったけど、そこからいきなり『1989』という完璧なポップ・アルバムを出したんだから、本当に凄い。ある意味、ポップ・ミュージックそのもののレベルを引き上げたとも思う。実に巧みに作られたあのアルバムの曲がラジオから流れてくるわけだからね。彼女が書くメロディーも歌詞にもセンスを感じるんだ。

テイラー・スウィフトの2014年作『1989』収録曲“Shake It Off”

それと、どこか確信的なところもあって、いい意味で、当時から〈めちゃくちゃ頭が切れる〉人だと思っていた。何か惹かれるものを持っているよね。でも、まさか自分が彼女と仕事をすることになるなんて夢にも思っていなかった。後になって彼女がナショナルのファンだって知って驚いたよ。

で、彼女も僕と仕事をすることに興味を持ってくれたんだろうね。メールで連絡をくれて。それが正直、仕事をまだ一緒にしたことのない仲間からくるメールと同じノリで。いくら友達でも〈ねえ、一緒にやらない〉って声を掛けるのって、けっこう勇気がいることだよね。断られるかもしれないという覚悟で彼女も連絡をくれたんだ。もちろん断らなかったわけだけど、そこからお互いに音楽やアイデアを交換しあって、僕にとっては最高の経験になった。

彼女から学んだことは多い。自分について学んだことも多い。彼女とは本当に多くの曲を作った。たった1年の間に、この10年間で作ったよりも多くの曲が出来た。嘘じゃないよ。特別なものがあった。

そして彼女も大事な友達になった。本当に素敵で、才能に溢れていて、気さくで、〈自分のことを評価してくれているんだ〉って思わせてくれる。音楽業界のトップにいる人なのに、接していてそれを微塵も感じさせない。自分に刺激をくれる仲間のアーティストとして接することができるんだ」

──結果としてテイラーとの作業では2枚のアルバムが誕生したわけですが、あなた自身はこの2作品とどのように向き合って作業してきたのでしょうか? 計画、方向性などから、具体的な作業の流れまでを全てディレクションしたプロデューサーとして、去年のテイラーとの作業を改めて分析してみてください。

「全てをリモートで行なったのもだし、スピード……制作ペースの速さがこれまでと全然違った。『evermore』では多少顔を合わせたけど、『folklore』ではほとんど対面していない。

テイラー・スウィフトの2020年作『evermore』収録曲“willow”。プロデュースはアーロン・デスナー

僕自身、音楽的に凄く調子が良かったのに加え、彼女はソングライティングの面で信じられないほど絶好調だった。アイデアが物凄い勢いで次々と出てくると言っていて、いい曲ばかり書いてきた。完璧な化学反応が起きていると感じた。僕がやったことを彼女がさらに高めてくれて、彼女の進化に僕なりに力を貸すこともできたって感じだね。

どの曲も、今聴き返しても、〈こんな曲、どうやって作れたんだろう〉と思ってしまう。ただでさえ曲を作るのって難しいのに、いい曲をこれだけ多く書けたことが普通じゃ考えられないよ」

──アートや〈モノ作り〉の意味が問われたり、不要論が叫ばれるようになったコロナ禍以降の日々の中で、あなたが改めて確信したアートや芸能の可能性、力はどのようなものだと考えますか?

「僕自身にとっては呼吸するのと同じくらい、生きるのに必要不可欠なもの。多くの人にとっても、急にこれまでの生活がペース・ダウンして、家にいて、ものを作る時間ができて、それを共有することができた。みんなが創造性を発揮していて素晴らしいことだと思う。

あと、アーティストが発言することも大事で、政治的見解や環境に対する強い思いを作品を通して伝えるべきだと思っている。それはかつてないほど重要だ。

精神衛生上の観点からも、創造力を発揮できることは大事で、それはプロであろうとなかろうと関係ない。不安や恐怖を感じる今の世の中だからこそ、創造力を活かすことは特別な意味があると思う。乗り越える支えになるし、自分の中に抱えている恐怖や不安を表現することで、抱え込まずに済むんだ」

★TURNによるアーロン・デスナーのインタビューはこちら

 


RELEASE INFORMATION

BIG RED MACHINE 『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』 Jagjaguwar/37d03d/BIG NOTHING(2021)

リリース日:2021年8月27日(金)
品番:JAG415JCD
価格:2,750円(税込)
配信リンク:https://bigredmachine.jagjag.co/how-long-do-you-think-its-gonna-last
世界同時発売/解説・歌詞・対訳付/日本盤ボーナス・トラック収録

TRACKLIST
1. Latter Days (Feat. Anaïs Mitchell)
2. Reese
3. Phoenix (Feat. Fleet Foxes & Anaïs Mitchell)
4. Birch (Feat. Taylor Swift)
5. Renegade (Feat. Taylor Swift)
6. The Ghost Of Cincinnati
7. Hoping Then
8. Mimi (Feat. Ilsey)
9. Easy To Sabotage (Feat. Naeem)
10. Hutch (Feat. Sharon Van Etten, Lisa Hannigan & Shara Nova [My Brightest Diamond])
11. 8:22am (Feat. La Force)
12. Magnolia
13. June’s A River (Feat. Ben Howard & This Is The Kit)
14. Brycie
15. New Auburn (Feat. Anaïs Mitchell)
※その他、日本盤ボーナス・トラック追加収録