CREOLEのマスターに捧げた“Calling”

――では、今回の『Calling』をどのような経緯で制作することになったのでしょうか。

「去年の7月、池袋のSTUDIO Dedeというレコーディングスタジオで高音質の配信ライブをやったんですね。このメンバーでは今まで2枚CDを出してるんですけど(2011年作『Music In You』、2013年作『Sympathy』)、1枚目はSTUDIO Dedeで録ったこともあって、その配信ライブは久々にこのメンバーでやったんです。やってみたらすごく楽しくて。

もう一度ライブをやりたいなと考えている時、私がずっとお世話になっていた神戸のライブ・スペース〈CREOLE〉が閉店して、そこのマスターが亡くなってしまったんですね。そのことがきっかけとなって曲を書いたりしていました。この状況でそうアクティヴに演奏活動をできていないですし、今年のうちに録っておいたほうがいいかなと思ってレコーディングすることになりました」

――では、今回のアルバムは亡くなったCREOLEのマスターに対する追悼の意識もあったのでしょうか。

「そうですね。ちょっと話が長くなってしまうかもしれないけど……」

――全然大丈夫です、話してください。

「CREOLEというお店は2003年にオープンしたんですけど、私のキャリアとずっと共にあったようなお店だったんですよ。CREOLEが開店した当初に声をかけてもらって、最初のころは全然お客さんが入らない状態でもやらせてもらっていました。(※CREOLEの開店から閉店までの思い出は、西山のnoteにも綴られている)

CREOLEのマスターはキース・ジャレットの大ファンで……というか、大ファンじゃ済まないぐらいのキース・ジャレット・マニアで。自分でもピアノを弾かれる方で、キース・ジャレットの煮凝りみたいなすごいピアノを弾いていたんです。マスターが亡くなったとき、“My Song”とか“Country”みたいなキース・ジャレット・スタイルの曲を1曲も書いてないなと思って、そういう曲を書いてみたいと思って書いたのが、今回のアルバムに入っている“Calling”という曲だったんですよ」

――マスターが好きだったキース・ジャレットみたいな曲を書こうと。西山さんならではの追悼の仕方ですね。

「そうですね。でも、私があまりキース・ジャレットをそのレヴェルまで聴き込んでいないということもあって、なかなかうまくいかなくて。苦戦したんですけど、これも私なりの音楽だなと思って」

――“Calling”、いい曲ですよね。さっき〈より曲がシンプルになってきた〉とおっしゃっていましたけど、シンプルですごく耳馴染みがいい。作曲家としての西山さんの魅力がすごく出ている感じがしました。

「ありがとうございます。キース・ジャレット・スタイルになれなかった私スタイルの曲、という感じの曲ではありますが。目指したけど、やっぱり無理でした」

――でも、そこも面白いんですよね。冒頭のメタルの話に繋げてしまうと、ある様式を目指しながら、その様式に収まらない個人的な表現が生み出された一例ともいえるわけで。

「そうなのかもしれないですね。至らなかったことが何かを生み出すこともあるわけで」

――アルバム・タイトルにもしているという意味では、西山さんにとってもこの“Calling”は思い入れの強い曲でもあるわけですね。

「そうですね」

 

先輩が〈マイルスを聴け〉と言っていた理由がようやく分かった

――今回もまたいろいろなタイプの曲が入っていますが、どちらかというとグルーヴ主体の演奏ではなく、ピアノの響きが大事にされたアルバムという印象を受けました。

「ここに入っている曲以外にあと4曲ぐらい録ってたんですけど、曲を並べてみると、どうも4ビートの曲は収まりが悪くて。1曲目の“Indication”と“Calling”をメインとしているアルバムなので、どうしてもこの2曲のトーンになっちゃうんですよね」

――ライブ活動がなかなかできないことや、自宅で演奏する機会が多いことなど、環境の変化が曲調に影響を与えてる部分はあるんでしょうか。

「どうしても戦闘的な曲調にはならないですよね。鬱々としてしまうところもありますけど、今はシンプルなものに気持ちがいってる部分はあります。ジャズにしても最新のものを聴くというよりは、古いものを聴いているほうが今は心地よいですし」

――その感覚ってどこからくるものなんでしょうか?

「私は今41歳なんですけど、ジャズをやり始めたときに年上の人たちが〈マイルス(・デイヴィス)を聴け〉と言っていた理由がようやく分かるようになってきました。〈ウィントン・ケリー最高!〉とか言ってるのは、ただの懐古趣味というわけでもなくて、音楽としての普遍的な強度を考えると、そういうものを求めてしまうんですよね。

もちろん新しいものも聴いていますし、そういうものの中にも〈これは絶対後世に残る〉と思うものもありますけど、今は強度のある作品のほうに興味がいってるんだと思います」

――それは先ほどのクラシックの話に繋がりますね。〈完成されたクラシックの曲を弾くと、自分自身が浄化されるような感覚がある〉という。

「そうかもしれませんね。バッハを弾いていると、すごく体調がいいんですよ」

――『Calling』の収録曲もそうした〈普遍的な強度〉が追い求められている感じがするんですよ。でも、それも西山さんの活動の中のひとつのモードというか、波のひとつという感覚なんでしょうね。

「そうでしょうね。今はこういう感じだけど、また変わると思いますし。そういう意味でも、NHORHMの反動というも面もあると思うんですよ。あっちは宛先のある音楽を作っていたところがあるので」

――宛先?

「そうですね。メタルの人に届く選曲であるとか、ジャズのリスナーにも楽しんでもらえるアレンジであるとか、常に宛先を意識していたところがあって。ジャズって本来エゴイスティックでパーソナルな音楽じゃないですか。お客さんに分かってもらえなくても自分のために、という。私自身、それまでそういう目線を持ったことがなかったので、NHORHMの活動では学ぶことも多くて。そんなNHORHMの活動が一回終わって、もう一度エゴイスティックにやろうと思ったとき、どうしても内側に向かってしまったんですよね。その結果、こういう作品になったというところはあると思います」

――“Indication”や“Calling”のようなしっとりとした曲調のものだけでなく、中盤以降の“loudvik”などトリオ編成ならではダイナミズムが押し出された曲も収録されています。佐藤さんと池長さんとのトリオはいかがですか。

「おふたりとも大先輩なんですけど、結構長いことお付き合いさせてもらっていて、安心感があるんですよね。それと同時に、音を出す瞬間の緊張感もある。当たり前のことなんですけど、出す音がすごくいいんです。私が思う〈いい音〉が出てくる。あと、私の場合、音色に対する考え方がみんなで一緒じゃないほうが私は好きなんですね」

――3人の個性が出た音というか。

「そうですね。私はもともとヨーロッパ盤のCDを集めるのが好きで、〈こういうトリオをやってみたい〉というイメージが頭の中にあったんですね。このトリオだったらまさにそういうことができるんです」

――最後にもう一度、メタルの話に引きずり戻したいんですが(笑)、西山さんが考えるメタル界最強のトリオは誰でしょうか?

「トリオって結構少ないですけど……パッと思い浮かぶのは、メタルじゃないですけど、ラッシュ(Rush。カナダのプログレッシヴ・ロック・バンド)。次にどういう展開になるんだろう?という楽しさがあって、パット・メセニー・グループを聴いているような感覚になるんですよ。バンドとしての世界観があって、そのうえでプレーヤー3人の個性もはっきりしているという」

――なるほどね。僕はモーターヘッドやヴェノムをイメージしてたんですけど、確かにラッシュは最高ですよね。Mikikiでも推してもらいましょう(笑)。

「そうですね(笑)」

――ちなみに、今後ライブの予定はあるんですか。

「発売ライブはね、まったく組んでいないんですよ。去年、今年とフェスの中止も2周目に入ってきて、ちょっとキャンセル疲れしちゃって。私の中では誰かが無理した状態でやりたくないっていうのもあって。

ただ、配信は月1回続けています。ずっと観てくれている方もいるようで、ありがたいですよね」

 


LIVE INFORMATION

2021年9月19日(日)福井・美浜町生涯学習センターなびあす
トリオ:西山瞳(ピアノ)、佐藤“ハチ”恭彦(ベース)、倉田大輔(ドラムス)
開演:15:30
料金:一般1,000円、高校生以下500円(税込、全席指定)
https://navi-us.jp/event/9480/

2021年9月22日(水)大阪・Mr.Kelly’s
トリオ:西山瞳(ピアノ)、萬恭隆(ベース)、清水勇博(ドラムス)
開場:18:00、開演:19:00(1st)、20:00(2nd)
前売/当日:3,800円/4,000円(税込)
https://misterkellys.co.jp/schedule2021-09/210922-2/
※有料配信有り
配信時間:20:00~50分程度(2ndステージ)
配信料金:2,000円(税込)

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RELEASE INFORMATION

『Vibrant』各種ストリーミング・サーヴィスで配信スタートhttps://linkco.re/SDBV2BFe?lang=ja