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モダンな親しみやすさ

 そもそも『Kid A』と『Amnesiac』に分かれたマテリアルがひとつのアルバムにまとまらなかった理由として、当時のトム・ヨークは「そんなことしたら曲をブチ壊すことになったと思うよ。1枚のアルバムにまとめようとしたけどダメだったんだから。で、それぞれの曲が勝手な方向に向かっていく形に持っていったんだ」(bounce 2001年6月号より)と語っていた。今回の『Kid A Mnesia』は、そうして自然に分岐していった楽曲群を改めて対比できる機会でもある。

 同じ屈折した空気を窺わせながらもエッジーな電子音やエディット感の強さを特徴とした『Kid A』では、アイコニックで不穏な“Everything In Its Right Place”や“The National Anthem”を筆頭に、いわゆる〈バンドらしさ〉を気にすることのない楽曲が魅力を発する。一方の『Amnesiac』では淡々としたトーンながらも加工を抑えて比較的〈バンドらしさ〉に揺り戻している印象だ。美しい“Pyramid Song”や浮遊感のあるギター・ポップ“Knives Out”を含み、ジャズやブルーグラスなど伝統的な音楽の要素も溶かし込んだ風情は現代のUSインディー風のモダンな聴き心地でもある。こうしてセットにされることで、それぞれが独立したアルバムとして纏った風格や意味も改めて伝わってくるが、いずれにせよ彼らが創意工夫を凝らして新境地に達した意欲的な作品群であるのは間違いなく、決まり文句のようなイメージを取り払ってみれば、絶妙に親しみやすい表情も見えてくるはずだ。

 なお、今回の『Kid A Mnesia』においては〈Kid Amnesiae〉と題されたDisc-3も収穫に違いない。完全な未発表曲“If You Say The Word”をはじめ、ライヴで数回披露されたのみで音源化が待たれていた“Follow Me Around”(98年のビデオ作品『Meeting People Is Easy』でも聴けた)など、12のトラックには掘り進めるに相応しい歴史が詰まっている(日本盤CDにはシングルのB面曲5つもボーナス収録!)。何にせよ、例えばアーロ・パークスやジョーダン・ラカイがレディオヘッドを普通に取り上げている2021年、本作を入口にいまからこの偉大なバンドに触れてみてもまったく遅くはない、と思う。

左から、レディオヘッドの2000年作『Kid A』、2001年作『Amnesiac』、97年作『OK Computer』(すべてParlophone/XL)

 

関連盤を紹介。
左から、クリストファー・オライリーの2003年作『True Love Waits: Christopher O'Riley Plays Radiohead』(Sony Classical)、2006年のトリビュート盤『Exit Music: Songs With RadioHeads』(BBE)、フライング・ロータスの2010年作『Cosmogramma』(Warp)、ジョーダン・ラカイの2021年のミックスCD『Late Night Tales』(Late Night Tales)