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Shamir “Cisgender”


天野昨年8月に“Running”を紹介した、〈PSN〉が注目している才能、シャミールが再登場。2022年2月11日(金)にリリースされる新作『Heterosexuality』からのセカンドシングル“Cisgender”です」

田中「ファーストシングルが“Gay Agenda”で、それに続くのが“Cisgender”、さらにアルバムタイトルが〈Heterosexuality〉と、新作は明確にジェンダーとセクシュアリティーをテーマにしていることが打ち出されていますね。この曲でシャミールは、〈私はシスジェンダーじゃない/私はバイナリートランスじゃない/私は女の子になりたくない/男にもなりたくない/私はただこの神に見捨てられた土地で存在していたいだけ/あなたがそれを受けるかどうかは自由/引き下がっていることだってできる〉と高らかに歌い上げます」

天野「強烈な曲ですね……。ジェンダークィアである彼が歌う祈りのような〈ただ存在したいだけ〉というフレーズは、ものすごくヘヴィーです。サウンドや歌には以前のインディーロックっぽさはまったくなくて、ポップネスと歌そのものの力強さが増しています。以前より一皮も二皮も剥けた印象です。現在のシャミールのことは、まさに〈2020年代のプリンス〉と呼びたいですね。新作がとても楽しみです」

 

BERWYN “MIA”

田中「トリニダード出身のロンドンのラッパー、バーウィンは〈PSN〉でたびたび紹介していますね。今年の6月にリリースしたミックステープ『TAPE 2/FOMALHAUT』は、移民である彼の寂しさや不安感が反映された、独特のメランコリアを漂わせた作品でした」

天野「この新曲“MIA”では、亡くなった、あるいは行方不明になっている友人たちのことを歌っていますね。〈眠れない〉〈いない人のために祈る〉というコーラス(サビ)から始まって、バースではある少年がストリートでの犯罪に巻き込まれていく過程が描かれています。〈MIA〉という曲名は、軍事用語〈Missing In Action(戦闘中行方不明)〉のことでしょうね。ストリートを戦場にたとえているのでしょう」

田中「バーウィンの歌声は哀しみをたたえていて、強く胸を打ちますね。あと、この曲はトラックがめちゃくちゃかっこいい。不穏なシンセサイザーの響きと、闇の奥深くへと連れて行かれるようなアフロスウィングのニュアンスがあるビート……。まるでポーティスヘッドの“Machine Gun”(2008年)みたいじゃないですか。ストリートライフの悲劇をエモーショナルかつリアルに歌った曲として、今年のUKラップにおける代表曲のひとつだと思いますね」

 

caroline “IWR”


田中「今週の最後は、ロンドンを拠点にするニューカマーを紹介しましょう。8人編成のインディーバンド、キャロラインです。彼らが2022年2月25日(金)にリリースするファーストアルバム『caroline』から、リードシングル“IWR”を発表しました」

天野7月に刊行されたele-kingの別冊『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』の第2特集〈UKポストパンク新時代〉に掲載されているラフ・トレードのジェフ・トラヴィスとジャネット・リーのインタビューで彼らのことが語られていて、すごく気になっていたんです。名門ラフ・トレードからデビューする新人ということで、話題になっていますよね。国内のリリースする担当するビートインクいわく、〈謎の音楽集団〉……!? プレスリリースによると、結成は2017年で、現在のメンバーになったのは2019年だそうです。昨年3月にシングル“Dark blue”でデビューしています」

田中「メンバーにチェロやバイオリン、さらにサックスやフルート奏者を擁していることが、彼らの音楽性を特徴づけていますね。アコースティックの生々しいサウンドとさまざまな楽器が重なって大きなダイナミクスを生んでいるアンサンブルは、たしかにただものではない感じ。チェンバーポップと呼ぶには荒々しさや情感が表れすぎていて、2003年にアーケイド・ファイアが出てきたときのことを思い出しました。このバンド、注目しておきたいですね」