Poppy Ajudha “London’s Burning”


天野「ロンドンの注目株が登場です。ポピー・アジューダの新曲“London’s Burning”。UKジャズやソウル/R&Bのシーンで注目されているシンガーソングライターのポピー・アジューダは、ジャイルズ・ピーターソンによるコンピレーションアルバム『Brownswood Bubblers Twelve Pt. 2』(2017年)話題作『Blue Note Re:imagined』(2020年)への参加、トム・ミッシュ“Disco Yes”(2018年)でフィーチャーされたことが話題になっていました。そんな彼女が、ついにデビューアルバム『The Power In Us』を来年3月11日(金)に発表。この曲は、そこからのファーストシングルです」

田中「ジョルジャ・スミスやFKA・ツイッグスを手がけてきたジョエル・コンパス(Joel Compass)と共作し、彼がプロデュースしたこの“London’s Burning”は、まずは〈ロンドンは燃えている〉という曲名が強烈ですね。クラッシュの名曲(77年)を思い出します。アジューダはここで、イギリス文化における移民の重要性と影響について歌っているそうです」

天野「アジューダのコメントは強烈です。彼女は、他国を破壊し、世界中から収奪をしてきた〈植民地主義の遺産〉によって英国は成り立っているにもかかわらず、困っている人に対して扉を閉ざす矛盾した態度を指摘しています。クラッシュの曲とは似ても似つかないエッジーなヒップホップソウルサウンドですが、根底にあるのは実にUKパンク的なアティテュードだと言えるでしょう。アジューダには、ぜひ今後も注目してください」

 

ML Buch “Fleshless Hand”

天野「デンマークのエレクトロポップミュージシャン、ML・ブークことメアリー・ルイーズ・ブーク(Mary Louise Buch)。昨年、コペンハーゲンのレーベル〈Anyines〉からデビューアルバム『Skinned』をリリースして脚光を浴びた才能です。Pitchforkは〈デジタル化されたアートポップ〉と彼女の音楽を形容していて、的確な表現だと思いました」

田中「ポップとレフトフィールドの間をたゆたうような自由な電子音楽と独特の歌心が魅力ですが、この新曲は80sっぽいギターとドラムのサウンドが中心になっていて、生音の要素が増していますね。でも、彼女特有のアンビエンスと浮遊感、ボーカルに深くかけられたエコーやエフェクトは健在で、とても幻想的な音の風景を描き出しています。ドリームポップと呼ぶには少しエクスペリメンタルな、絶妙な塩梅の音楽だと思いました。次作への期待が高まりますね」

 

$NOT “Go”

天野「今週最後の曲です。米フロリダ、ウェスト・パーム・ビーチのラッパー、スノットの新曲“Go”。スノットについては、7月にケヴィン・アブストラクトの“SLUGGER”を紹介したとき、彼がフィーチャーされていたので軽く触れました。常にフディー(パーカー)のフードを被っていて、顔の前で紐をぎゅっと絞った変なスタイルで知られています。去年から注目されているアーティストですが、最近いよいよ無視できない存在になってきたと感じますね」

田中「まずは派手なシンセが鳴り響く、ディー・B(Dee B)がプロデュースしたビートが強烈ですね。これは、いわゆる〈レイジ〉のサウンドだと言っていいでしょう。歯切れよく言葉を畳み掛ける、フューチャーやトラヴィス・スコットなどからの影響が滲むフロウもかっこいいと思いました」

天野「ヤング・サグをダウナーにした感じというか。〈コール オブ デューティ〉〈X・ゲームズ〉〈デスノート〉〈ブルース・ウェイン〉など固有名詞をまぶせつつ、絶妙なリズム感でテンションを上げながらライミングしていく様がすごくいいですね。“Go”は近々リリースされる予定の新作『Ethereal』からのシングルと見られていて、アルバムが発表されたらいよいよ人気が爆発しそうですね」