Page 2 / 2 1ページ目から読む

Jean Dawson “PORN ACTING*”


田中「ジーン・ドーソンは、24歳のミュージシャン兼ビジュアルアーティスト。メキシコ人とアフリカ系のミックスで、生まれと育ちは米国境にほど近いメキシコのティフアナだそうです。14歳でニルヴァーナなどから影響を受けて音楽を始め、いまは米LAで活動中。2019年にEP『Bad Sports』を、2020年にデビューアルバム『Pixel Bath』をリリースしています。アルバムからは、エイサップ・ロッキーとコラボレーションした“Triple Double”などが話題になったんですよね。元TOWER DOORSのスタッフ、小峯崇嗣くんも惚れ込んでいる才能です

天野「フランク・オーシャンやブロックハンプトン以降というか、ポストジャンル的なヒップホップやベッドルームポップの感覚で音楽を作っているアーティストだと思います。若々しくて、フレッシュで、イマっぽい。ベッドルームポップの大きな影響源と言えるマック・デマルコとコラボした“Menthol”(2021年)もよかったですよね」

田中「そんなドーソンの新曲“PORN ACTING*”は、彼らしさがハードかつユーモラスに炸裂したロックナンバーです。90sのローファイやグランジ、パンクなどからの影響を感じさせる、アイデアが詰め込まれたサウンドに懐かしさと新しさが同居していますね」

天野「最近ロック化したイヴ・トゥモア(Yves Tumor)との共振を感じるところもありました。小峰くんが書いているとおり、〈黒人だからヒップホップやR&B/白人だからインディーロック〉という偏見や二項対立的な考え方に揺さぶりをかける自由さが彼の魅力で、ビジュアル表現もすごくかっこいい。ジーン・ドーソンには、ぜひ今後も注目してほしいです」

 

Grace Ives “Loose”


田中「こちらも新世代のDIYアーティスト、米NYC生まれでブルックリンを拠点に活動するグレイス・アイヴズ。2019年にアルバム『2nd』をリリースした彼女は、ダンスミュージックからの影響を湛えたローファイかつポップなシンセサイザーサウンドで注目を集めました」

天野「80年代のポストパンクやダンスミュージックなどを思わせるシンセサイザーやドラムマシーンの音色がいいんですよね。手作り感たっぷりでノスタルジックなところがピンクパンサレスに似ていて、逆にフレッシュ。この新曲“Loose”は、インディーロックの名門トゥルー・パンサー(True Panther)とハーヴェスト(Harvest)と契約した新曲で、なんとなく音がリッチかつパワフルになりましたね。ポップさも増している一方で、コーラス(サビ)の部分でかすかにドラムンベースっぽいビートが挿し込まれているなど、音作りは練り込まれていて独特。今年、ブレイクしそうな才能です!」

 

Cavetown feat. beabadoobee “Fall In Love With A Girl”


田中「その流れで、ベッドルームポップの注目の曲をもうひとつ紹介しましょう。ケイヴタウンことロビン・スキナー(Robin Skinner)は、英ケンブリッジのシンガーソングライターでYouTuber。2012年、14歳の頃から活動していて、YouTubeやBandcampで注目され、Spotifyでは月間リスナーが800万人以上もいる、という現代の寵児と言うべきアーティストですね。他者に恋愛や性愛の感情を抱かない無性愛者であることを明かしています」

天野「若くしてキャリアをスタートさせたので2010年代半ばから知られているのですが、2020年代っぽいアーティストだと感じます。2019年からワーナー傘下のサイアーと契約した一方で、ローファイでドリーミーなケイヴタウンらしさはいまも変わっていません。ベッドルームポップシーンと関わりの深いビーバドゥービーとのコラボ曲であるこの“Fall In Love With A Girl”でも魅力は変わらず、アコースティックギターのささやかな弾き語りから始まり、ドラムやベースが加わりながらも、ソフトで夢見心地な聴き味に満ちたポップナンバーです。先日リリースされたボーイ・パブロとクコのコラボ曲“La Novela”も印象的で、最近はベッドルームポップの身軽さや自由さ、そして広がりと新たな展開を強く感じますね」