夕日に映える砂丘の谷間を行く少年。 カルザス、アルジェリア 1972年
©Kazuyoshi Nomachi

辺境の風景、人々を捉えた写真家・野町和嘉の集大成が高知に!

 世界中の辺境や、厳しい環境の中に生きる人々を撮影し、国際的に評価される写真家、野町和嘉の大規模な写真展〈地平線の彼方から〉が、野町の故郷である高知県の県立美術館で開催されている。美術館の開館から30年を記念する事業の一環だが、同時に50年に及ぶ野町の写真人生を総括する写真展でもある。

 2つの展示室に飾られた209点もの作品は、〈地平線の彼方から〉、〈世界遺産〉、〈シベリア収容所〉の3パートに分かれている。それぞれ既に東京で発表されている作品だが、天井が高い美術館の空間では迫力が違う。

 一つ目の展示室でまず目に入るのが、野町の代表作ともいえるサハラ砂漠での一枚。この作品はその後のサハラに通うきっかけになった、いわば〈はじまりの一枚〉。さらに野町は白ナイル、イスラム諸国、ガンジス川流域、アンデス、チベットなどへと旅を拡げていったわけだが、ここにはその成果である作品が観る者を圧倒する迫力を持って飾られている。

 この展示室の一番奥には、1992年のソビエト崩壊をきっかけに取材した〈シベリア収容所〉の作品が並ぶ。ソビエト連邦崩壊という大きな変化の隙間で撮影ができた写真を、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに構成し直した作品群だが、壁の色が切り替わることで、作品からのメッセージが鮮明に浮かび上がってくる展示になった。

 二つ目の展示室は世界遺産を被写体とした作品群。カメラメーカーであるキヤノンの依頼で始まった世界遺産の撮影だが、それ以前の旅の中で撮影した風景や遺跡が。後に遺産指定を受けることもしばしばだったという。大自然の造形美や、人々が作り上げた遺跡の数々を前に、引き込まれるような錯覚を引き起こす。

 なかでも圧巻はアルジェリアのタッシリ・ナジェールの岩絵を、ほぼ等身大にプリントした一辺3メートルを越える巨大な作品だろう。これも美術館という空間があってこその展示だといえる。

朝霧のなか、歓喜の沐浴。 アラハバード、インド 2007年
©Kazuyoshi Nomachi

 特筆したいのは、これほどの大規模な写真展が高知だけでの開催であること。そもそも高知県立美術館は国際的な知名度を持つ石元泰博の作品を管理し、写真芸術に対する理解が深い美術館だが、さらに学芸員の熱意がなければこれほどの大規模な展覧会を開催することは難しかっただろう。そしてゆったりとした空間で観る作品は、都心の小さい空間で観るのとは格段の差がある。今年はドラマの舞台になるなど話題も多い高知。夏の一日、是非出かけてみたい。

 


EXHIBITION INFORMATION
野町和嘉写真展 地平線の彼方から

開催中~2023年9月24日(日)高知県立美術館
会期中無休
https://www.artagenda.jp/exhibition/detail/8839