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野獣のようなサウンドを遊び心満載のミックスで堪能する『Wired』

そして、対する『Wired』はどのようなサウンドなのだろうか。

JEFF BECK 『Wired(SACDマルチ・ハイブリッド・エディション)』 ソニー(2016)

まず、リズムセクションがナラダ・マイケル・ウォルデン(ドラムス)とウィルバー・バスコム(ベース)による超絶ファンク/フュージョンタイプに変わった(リチャード・ベイリー、ヤン・ハマーがドラムの曲もあり)。さらに、ヤン・ハマーによるスーパーリードシンセ。そして、曲によってはマックス・ミドルトンのエレピも活躍。綿密な作業を好むジョージ・マーティンはこのハイテンションかつセッション的な方向性にサジを投げ、実質的なプロデュースはヤンが行なっている。その結果、『Wired』は野生の獣の動きを捉えたかのようなシャープで鋭角的なサウンドとなった。ダビングで楽器の数を重ねるよりも、一発勝負による一人一人のテクニックが空気を震わせている様子を捉えることで音像が成立しているのだ。

『Wired』収録曲“Blue Wind”

『Blow By Blow』は4chの効果を考えながらもステレオミックスの雰囲気を継承したミックスになっていた。しかし、『Wired』は一味違うミックスに仕上がっている。エンジニアの遊び心、満載といってもよいだろう。曲ごとにいろんなことをしでかしている。正規の2chミックスでは、必要なしという判断が下されてフェーダーを下げられてしまったギターテイクの一部分、かすかに小さく鳴っていただけのリズムギター、全くの別テイクらしきギターソロ、それらを復活させたり定位を変えたりしたうえに、エコーやリバーブといった残響の操作や定位の変更を加えて別ミックスを作っているのだから面白いに決まっている。

 

SACDは究極のリスニングスタイル

この2枚のアルバムはジェフのインスト/フュージョン期の幕開けを宣言したというだけではなく、ロックサイドからのフュージョンへのアプローチとしてこの時代に偉大な足跡を残した。それは同時に、ジェフ・ベックというジャンルの確立を意味していたのである。

SACDマルチチャンネル(ハイブリッド盤)である、この2枚。5.1chサラウンドでなくとも、やはりSACDは違う。音像の広がりと奥行き、より鮮明になった各楽器の音、そして音のツヤ……。このサウンドを聴けば、SACDは音楽を作る側にとってじつにやり甲斐のあるキャンバスであり、聴く側にとっても究極のリスニングスタイルなのではないかと思う。

タワーレコードのYouTube動画〈【SA-CD普及委員会】#02 SA-CDをより深く知ろう! ~聴き比べもあり〉

 


RELEASE INFORMATION

JEFF BECK 『Blow By Blow(SACDマルチ・ハイブリッド・エディション)』 ソニー(2014)

リリース日:2014年3月26日
品番:EICP-10001
フォーマット:SACDマルチハイブリッド盤
仕様:7インチ紙ジャケ
価格:5,500円(税込)

TRACKLIST
1. You Know What I Mean
2. She’s A Woman
3. Constipated Duck
4. Air Blower
5. Scatterbrain
6. Cause We’ve Ended As Lovers
7. Thelonius
8. Freeway Jam
9. Diamond Dust

 

JEFF BECK 『Wired(SACDマルチ・ハイブリッド・エディション)』 ソニー(2016)

リリース日:2016年11月2日
品番:EICP-10004
フォーマット:SACDマルチハイブリッド盤
仕様:7インチ紙ジャケ
価格:5,500円(税込)

TRACKLIST
1. Led Boots
2. Come Dancing
3. Goodbye Pork Pie Hat
4. Head For Backstage Pass
5. Blue Wind
6. Sophie
7. Play With Me
8. Love Is Green